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第78話 シル王女殿下

グライドがアリスを連れて広間を出て行った後。

その場に侍女とクラリス、カミラがいた。


「どうしてわかってくれないの?お兄様は私の味方のはずなのに。お兄様は私だけのもののはずなのに。どうしてあの女を庇うの?私はこんなにもお兄様のことを愛しているのに」


乱れた髪をそのままにしてクラリスは光の無い目をして意味もなくブツブツと一人呟いていた。

侍女達は始めて見る彼女の姿に声を掛けられず腫れ物に触れるような目線でただただ見ていた。


(王女様の本性をやっと知ったってところみたいね。クラリス様は演技が上手いから、きっと今までか弱い王女様に騙されていたんでしょうけど…。呆れたものね。自分が仕える主に声も掛けれないなんて)


カミラは冷めた目で侍女達を見る。

カミラは王城の侍女になるまでは使用人として働いていた。

カミラは貴族の出だったが正義感が強く、与えられた仕事に誇りを持って取り組んでいた。

家の家訓では自分の人生に誇りを持てるような人間になれ。

そう両親から教わった。

だからこそ使用人といえど主になる方には精一杯お仕えしたいと思っていた。

同僚から嫌がらせや仕事を押し付けられてはその度にやり返していた。

気が強く、嫁の貰い手が無いと影で言われていたが彼女自身どうでも良かった。

男の後ろにいて黙って付き従う女には成り下がりたくなかった。


そんな中、クライドから呼び出しがあった。

あの冷酷王からだ。

自分が気づかないうちに何か粗相をしたのでは無いかと内心ヒヤヒヤした。

だが彼が告げたのは冷酷王の婚約者となるべく者の世話係だった。

どのような令嬢が来るのだろうか…。

クラリスみたいな腹黒王女のような性格だったら最悪だ。

そんなことを彼女は思っていた。


しかし彼女が仕える人間。

アリス·フィールドは素直で純粋で心根が優しく、時々思いもよらぬ大胆な行動をする令嬢だった。

アリスは侍女の自分を大切に扱ってくれる。

それも友人のように。

カミラはすぐにアリスのことを気に入った。

彼女の為に誠心誠意使えようと心に決めた。


だからこそ自分達が仕える主の本質を見抜けなかった侍女達に呆れた顔をする。

噂に踊らされ、国王の婚約者であるアリスを虐げるなんて身の程を弁えてない証拠だ。


クラリスに対してどう接すれば良いのか分からない侍女達は顔を見合わせておろおろとしていた。


(本当に下らないわね。でも私がお仕えしている方はアリス様ただお一人。王女様の世話ぐらい彼女達がするでしょう)


カミラはその場から静かに退室しようとしていた。

その時。


「ちょっと!何処に行こうとするのよ!」


それまで一人ブツブツと言っていたクラリスは怒りの矛先をカミラへと向けた。

カミラは顔に出さず内心呆れてしまう。


「何処って…アリス様の元に戻るのです。私はアリス様の侍女なのですから…」

「アリス…あの女のせいで……」


クラリスはギロッとカミラを睨みつけて怒鳴りつけるように言った。


「アンタがあの女の躾をちゃんとしないからこんなことになったのよ!貴族なら王族の命令に従うはずでしょう!それを…」


「そういうお話でしたら国王様になさって下さい。私からは申し上げられませんので」

「生意気な女ね!アンタなんかクビにしてやるわ。ついでに仮名もとり潰しよ!」


クラリスはカミラに対してヤケになりながら強く言い放つ。

それに対して彼女はクラリスに不敵に微笑んだ。


「お好きなように。ただ私の雇い主は国王様であるクライド様です。私をクビにするのでしたら国王様にお話下さい。では私はここで失礼致します」


クラリスにそう告げると今度こそカミラはその場から出て行く。

長く続く廊下を彼女は一人歩く。

騎士であるヨルがクラリスを毛嫌いしている理由がよく分かる。

傲慢で我儘。

自分の欲しいものの為ならば平気で汚い手を使う王女。

自分とは真逆の人間でとても好きにはなれない。

寧ろ好きになる要素が一ミリもない。


「良かった…。私はあの人の侍女で」


カミラは自分の仕えるべき主を思い出しながら一人そう呟いたのだった。


****

翌日。

私はエリオット様の部屋の前に来ていた。

噂を止めるためにはまずエリオット様の誤解を解かなければならない。

その為に私は彼と話し合おうとしていた。


もしかしたら彼は取り合ってくれないかもしれない。

エリオット様の立場から考えたら友人の兄の婚約者が他の男を取っ換え引っ換えしているのを目撃すれば止めようとするだろう。

だけど私はそのようなことはしていないし、不貞を働いてない。


「よしっ!」


私は意を決してドアをノックする。


コンコン。

ノックしても返事はなく、部屋からは人の気配はしなかった。


「留守なのかしら…?」

「アリス様…」


カミラが私の元に駆け寄って来た。

いつもと違って慌てた様子のカミラに私は不思議そうな顔をして訊ねる。


「どうしたの?そんなに慌てて……」

「大変です!ユージニス国の第一王女シル·ユージニス様がアリス様に会いに来ておられます」

「!!」





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