「お兄様…」
「シル!どうして、きみがここにいるんだ!」
シルの姿を見て驚いた顔をして彼女に慌てて近づく。
その姿を見たシルは愛らしく微笑んだ。
「お兄様に会いに来たのです」
「きみは相変わらず可愛いな~~。あと一週間まてば会えるというのに。そんなに僕に会いたかったのかい?」
エリオットはシルの頭を優しく撫でながらデレデレとする。
自由人で公務では真面目な態度を貫くエリオットだが最愛の妹の前では型なしである。
「ええ。お父様からの許可ももらっていますの。どうしてもお兄様にお願いがありまして」
「何だい?シルの頼みなら何でも叶えてあげるよ」
「アリス·フィールド様のことなのですが…」
エリオットの指がピクリと反応した。
シルは気づかずに話を続けた。
「城内でお兄様とアリス様のお噂をお聞き致しました。お兄様が思っている程、アリス様は酷い方ではありません。お兄様、アリス様のお話を聞いて頂けませんか?」
「シル…。きみが彼女に何を言われたのか知らないが、彼女は国王陛下の婚約者でありながら、自分の護衛騎士まで手を出す悪女なんだ。純粋なきみは悪女に騙されてるんだよ」
「悪女って何なのですか…」
エリオットの言葉にシルは静かな声音で告げた。
そして彼女はエリオットに強い口調で言い放つ。
「アリス様が国王陛下の婚約者であろうと、護衛騎士の方と仲良くしていようと、エリオットお兄様に一ミリも関係ありませんよね?どうしてお兄様はアリス様にこだわっているのですか!」
「別にこだわってなんか……」
「いいえ!こだわっています!まるで自分がアリス様から裏切られたとでもいうように。それに私がここに来た理由はお兄様に会いに来た理由の他にクラリス様から手紙を貰ったからなのです!」
「それは本当か!?」
「ええ。クラリス様は私に手紙でお兄様がアリス様に誘惑されて、篭絡されているのだと書かれていました。だから私はお兄様の元に来たのです」
「そんなのはデタラメだ!僕は篭絡されてなんかない!」
シルはエリオットに近づき、真剣な顔でエリオットに告げた。
「クラリス様は人当たりも良く、慈悲深い方だと周囲の者達は彼女を賞賛しますが、私にはそうは思えません。彼女の良くない噂は時折耳にしますし、私も最初勘違いしましたが、良く考えると彼女はアリス様を地位を奪いたいが為に私達を利用しているのではないかと思われます」
「…………」
「だから、もう一度アリス様のお話を聞いて貰えませんか?彼女は誠実な方です」
確かにシルの言うとおりクラリスには矛盾な点があった。
兄のクライド国王陛下が悪女のアリスに騙されて、兄の他にも男を手玉にしていると言っていたがエリオットが見る限り、アリスにはそのような点は見つからなかった。
ただ彼女は誰かの気持ちを大切に思い、気遣う人だと感じた。
だからなのだろう。
あの時、庭園でアリスとヨルの二人が仲睦まじくする姿を目にした時、エリオットは強い衝動に襲われた。
アリスは一途に誰かを想う人だと思っていたのに違っていたのか。
自分の勘違いだったのか。
そんな想いがせめぎあい、憤りと強い苛立ちに似た感情が沸き起こったのだ。
「シル。悪いけど、きみのお願いでもそれは出来ないし、聞けない」
「お兄様!」
「これから資料を纏めたいから出て行ってもらえるかな」
「ちょっ…お兄様!」
エリオットはシルの背中をぐいぐいと押しやり、部屋から追い出した。
誰も居なくなった部屋でエリオットは一人感情を持て余していた。
何故最愛の妹シルがアリスの味方をしているのか。
クラリスの言葉は嘘だったのか。
今はそんなことはどうでも良い。
(クソッ…!何なんだ!この気持ちは……)
彼は自分の感情を持て余していたのだった。
****
翌日の昼間。
王宮の庭園でエリオット様が一人散策されている姿を私は近くの物陰に隠れながら眺めていた。
(いたわ!今日こそは話を聞いてもらわなきゃ!)
昨日の夕方。
シル様は私の元に来てエリオットに私の誤解を解くのを失敗したのだと謝りに来た。
悲しそうな顔をする彼女を見て、早速兄の誤解を解こうとした彼女の行動に私は嬉しさを感じた。
やはりシル様は純粋で良い子だ。
確かに私は彼女にエリオット様の誤解を解くように協力して欲しいと言ったが自分で動かなければ意味はない。
エリオット様に居留守や門前払いをさせられて話を一向に聞いて貰えないが、ここなら逃げ場は無い。
今がチャンス!!
私はエリオット様の元へと向かった。
「ごきげんよう。エリオット様」
「また、きみか…」