エリオット様は私の顔を見てうんざりした表情をした。あからさまに私と会いたくなかったような態度だ。だが私は気にせず彼に微笑みながら話しかけた。「エリオット様にお話があるのですが…」「別に僕はきみと話すことなんてない」彼は取り付く島もなく、素っ気ない態度で私に返す。なかなか手強い…。だけど私だってここで引く訳にはいかない…。「エリオット様。私と私の護衛騎士の件ですが、私のことはどう思おうと構いません。ですが、噂をこのままにして憶測で彼のことを悪く言うのはやめて下さい」「きみは僕がきみの護衛騎士のことを貶めている…そう言っているの?」エリオット様は初めて私の方に視線を向けた。彼の目には僅かな怒りを孕んでいる。きっと彼は私の言葉に苛立ったのだろう。彼はヨルや私に対して酷い言葉や罵倒を浴びせた訳では無い。ただ何もしてないだけ。噂を否定もせず、肯定もせず、ただそのままにしているだけ。それは人の憶測を肯定しているものと同じだ。「あなたは噂を否定もせず、肯定もしていない。それは人を惑わしているのと同じだと思います。自分は何の言葉も発していない。だから無関係だと言うのは違います。それは遠巻きに真実を惑わし、言い逃れをしようとする行為だと私は思います」「随分と傲慢だね。それできみは僕の誤解を解いて周囲の人間達に弁解して欲しいと…そう思っているのかい?」吐き捨てるように言うエリオット様の言葉に私は短く頭を振った。「いいえ。私はただ、これ以上彼が悪く言われるのは我慢できないからです」噂のせいでヨルは私と同じく周囲から影で色々言われていた。ヨルは何でもないような顔をしているけど、私にはそれが心苦しかった。もちろんエリオット様の誤解を早々に解きたいという思いもあるが、この件のせいでヨルに迷惑を掛けるのは嫌だった。「それに、どうしてあなたはそんなに私に怒っているのですか?」「それは…」「私にはあなたがこのこと以外に私に怒っているように思えるのです。私はあなたと友人になりたいと思っています。あの時、シル様の為にプレゼントを作るあなたを見て、不器用で優しい人だと思った。そんなあなたと…」「僕はきみとは友達にはなれないよ」エリオット様は私の横を通り過ぎる。「一生ね…」通り過ぎる際に彼は私にボソッと言った。私はそのまま立ち尽くし、彼は庭園から去って行く。私は振り向き、エリオット様の後ろ姿を見た。これ以上彼に言葉を投げ掛けても無駄だろう。彼の心には届かない。私は庭園の近くにあるテーブル席の椅子に座ってため息をついた。(どうしよう……。エリオット様の誤解を解こうと思ったけど、誤解を解くどころか、ますます悪化したような気がする…)最初は私とヨルの誤解を解くつもりだったが、エリオット様の顔を見たら、ヨルのことが頭に浮かんでしまった。私のせいで悪く言われているヨルを思ってしまうと我慢出来なかった。きっとヨルは「何でもない。気にするな」と言うかもしれないが、彼は今は私の護衛騎士とはいえ、元はクライド様の騎士だ。私のせいで仕事がやりにくくなることだけは我慢できなかった。自分のことならいくらでも耐えられるはずなのに…。大切な人のことになるとすぐこれだ。でも仕方ないかもしれない。ヨルは私の大切な幼なじみなのだから。「お兄様と話せましたか?」
すぐに後ろを振り向くとシル様が私の近くに立っていた。「ええ。でも、誤解を解くことは無理でした…。せっかくシル様に協力して貰ったのに申し訳ありません…」苦笑する私にシル様は慌てて手を振り、否定した。「いえ、アリス様のせいではありません!気になさらないで下さい」彼女は呆れたようにため息をついた。「それにしても…お兄様本当に頑固ですね。本当に自分の意思を曲げないのだから、困ったものです…」「そうですね…」「でも、もしかしてお兄様は本当は……」シル様は少しだけ俯き、切なそうな表情をして呟いた。私は彼女のことが気になり声を掛ける。「シル様…」「あ、いえ…何でもありません」私は彼女の言葉に「そう…」と言い、頷くしかなかったのだった。