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第84話 いきすぎた忠告

クライドはヨルを連れて王宮内の廊下を歩いていた。ヨルはアリスの護衛騎士だが、アリスの周囲の現状、彼女の身辺警護についての報告を聞く為に彼と一緒にいた。現在アリスの傍には信頼おける護衛騎士を付けている。「現状は理解した。クラリスの侍女は殆ど解雇し、クラリス自身はこの国から追放する。それと一緒にアリスに影で危害を加えようとしていた者達もリスト化しろ。その者達も解雇の対象だ」「おい、大丈夫なのかよ!あの傲慢王女の処遇は俺も異論はないが、さすがに解雇はやり過ぎなんじゃねーのか?せめて地位を降格させるとか…。それにアリスはこんなこと望んでないと思うぞ」「望む、望まなくとも私は彼女を傷つけたものをこのままにしておくつもりはない」クライドはゾッとさせるような表情でにべにも無い表情で切り捨てる。それはまるで氷の冷酷王と呼ばれるのに相応しい表情だった。(相変わらずアリスのことになると見境なくなってしまうな…。この国王様は…)ヨルは内心ため息をついた。ヨルはアリスのことを幼い頃から思い続け、今は彼の最も大事で大切な存在となっている。アリスとエリオットの二人が噂になったあと。侍女達がアリスのことを良く思わず、影で嫌がらせをしていた。その光景を目にしてすぐに止めようとしたが、カミラから止められた。「アリス様はご自分で動かれようとしています。信じて頂けませんか」と。だから彼は彼女を信じた。いつもアリスはそうだった。昔から一人悲しみにも耐えて、健気に努力し続ける。そんな心優しい女性だった。だからヨルは彼女の唯一の拠り所になろうと誓った。彼女が疲れた時、いつも休めるようにと。何も護ることだけが彼女の心を救うことに繋がるわけではない。そのことをヨルは理解していた。だがクライドは違う。アリスに害を成すものは一つ残らず排除する。可憐な花が水を与えて生きていけるように、邪魔な草を取り除く。それが彼なりのやり方だった。そのことをヨルは理解していた。「クライド国王」突然、声を掛けられてクライド達は足を止めて振り向く。そこにはエリオットが立っていた。「あなたにお話があります」真剣な表情をするエリオットにクライドはピクリと眉をひそめた。エリオットはそんなクライドに構わず言葉を続けた。「あなたの婚約者アリス·フィールド様のことですが…。彼女との婚約破棄された方が宜しいかと思われます」いきなりストレートなエリオットの言葉に場が凍りつく。クライドはあからさまに不機嫌な表情をし、低い声音で彼に訊ねた。「なぜでしょうか?」「知っているでしょう?僕と彼女の噂のことを。彼女はあなたには相応しくない。だってあなたと言う方がいながら、そこのアリス様の護衛騎士と恋人同士のような振る舞いをされている。とんだ悪女だ。いまからでも遅くない彼女と婚約破棄をして新しい女性を妻に娶るべきだ」クライドはエリオットの言葉を聞き、クライドは呆れたようにため息をついた。「それで、それが私にどう関係がある?」「だからさっきも言ったとおり…」クライドは必死で訴えようとしているエリオットの言葉を遮り、冷たい表情で言った。「私は彼女を気に入っている。彼女と婚約破棄するなんて考えてもいない。それに…」クライドはふっと笑って言った。「アリスとそこのヨルは元々幼なじみ同士だ。仲が良いのは当たり前でしょう。他国のあなたとよかく言われる筋合いは一つもありません」「そうです」クライドの言葉に同調するようにヨルはエリオットににこっと微笑んだ。「国王陛下の言う通り、私は幼い頃から彼女のことを良く知っているのですよ。あの方は人から騙される程のお人好しで、ましてや悪女なんて出来るはずがないですよ。それに…」ヨルは挑発じみた顔でエリオットに告げる。「私は彼女を本気で愛しています。相手が国王陛下でも」「なっ…!」「そういうことだ。他国の王太子殿には関係ない。余計なお世話ですよ」クライドとヨルの二人から告げられてエリオットは驚愕してしまう。自分の婚約者を狙っている男がいると知りながらも、それを了承しているクライドの心情がエリオットには理解出来なかった。自分ならば大切な人に近づく男は許せない。それが誰であってもだ。「用はそれだけですか?では私達はこれで失礼致します」クライドはヨルを連れてその場から去って行く。その場に取り残されたエリオットは行き場のない憤りに似た感情をただただ抱えていた。

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