翌日。私は気分転換に王宮の中にある図書室に一人向かっていた。(昨日はエリオット様の誤解も解けなかったし、これからどうしよう……)正直……。このままエリオット様が誤解したまま隣国に戻っても良いと思うのだが、それではパシヴァールの国王陛下は悪女に振り回されているという噂が立つかもしれない。そうなってしまえばクライド様も仕事がやりにくくなるかもしれないし、私だって悪女の汚名を着せられたまま。何とか誤解を解きたいのだが、一向に話を聞いてくれないし、どうしたら良いんだろう…。私はそんなことを考えながら廊下を歩く。廊下を歩いた先に階段があり、階段から降りて来る一人の女性がいた。シル様だ。彼女は私に気づいた。「アリス様…」私の顔を見てぱぁと嬉しそうな顔をした。本当に可愛らしい人だ。シル様は私に気づくと階段を降りようとした。その時、シル様の視線が別の方向を向き、彼女は階段から足を踏み外した。「シル!?」いつの間にか近くにいたエリオット様が慌てた様子ですぐにシル様の元に駆け寄ろうとするが、距離が長くて間に合わない。階段のすぐ傍にいた私は階段から落ちて来るシル様をすぐさま受け止めた。ドン!私はシル様を受け止めた衝撃に寄って手摺に身体と頭をぶつけてしまう。身体に衝撃が走り、頭が思うように働かない。気づいたら私はシル様の下敷きになっていた。「アリス様、アリスさまぁ…しっかりして下さい!!」シル様は私から離れて泣きながら懸命に私に呼び掛けていた。涙を流す彼女を安心させたくて私は痛む身体に耐えながら彼女に手を伸ばして告げた。「私は…大丈夫ですので…。だから泣かないで下さい…」「うっ…ううっ…アリス様……」
「至急医者を呼んで来てくれ!!アリス様が倒れたんだ!!」遠くからエリオット様が叫びながら何かを言っている声が聞こえた。私は目の前で大粒の涙を流すシル様の涙を止めたくて彼女に「大丈夫だから」と声を掛けようとするが上手く言葉にならない。次第に意識が薄れていく。「アリス様!!」瞼が重くて開けれなくなっていき、私は意識を手放した。****「アリス!」クライドは慌てた様子でアリスの自室を乱暴に開けた。部屋の中にはベッドで横たわる彼女の姿と年配の医者とアリスの侍女であるカミラが心配そうな顔でいた。「彼女の様子はどうだ?大丈夫なのか?」アリスの診察をしていた医者にクライドは気が気では無い表情で訊ねる。そんな彼に医者は真面目な顔をして答える。「心配しなくても大丈夫かと思います。外傷や特に大きな傷は見当たりませんし、命に関わるようなことではないです。ただ倒れた時に頭を強く打ったせいで一時的に脳に強い衝撃を受けたようです」「それはどういうことだ…」「得に異常といったものはありませんが、目覚めるのに少々お時間が掛かるかもしれません」「そうか。わかった…」クライドは医者の話を聞いてほっとした表情を浮かべた。医者は王宮に何年も仕えている名医の医者であり、彼はクライドのことを良く知っていた。氷の冷酷王と呼ばれるクライドは人に興味がない。彼が一人の女性の為にここまで感情を露わにする姿を見るのは初めてだった。それほどクライドにとってベッドで眠っている婚約者が大切のだと医者は理解した。「アリス様がお目覚めになられましたら薬を飲んで頂くようお願い致します。それでは私はこれで…」「ああ…」医者はその場を後にし、パタンとドアを閉める音が聞こえた。「さて…」クライドはカミラの方へと向き直り、真面目な顔をして言った。「彼女に何が起きたのか説明してくれるか?」「はい…。実は…」
その時、コンコンとノックする音が聞こえた。カミラはクライドの顔をチラッと見る。おそらくドアの外にいる者の対応をしても良いのか迷っているのだろう。クライドは短くため息をつき、首を左右に振った。それを見たカミラはドアに声を掛ける。「すみません…。今取り込み中でして…」「クライド国王陛下はこちらにいらっしゃるのですよね?お願いです。国王陛下に会わせて下さい。謝罪をしたいのです」声の主はシルだった。エリオットの妹がこの城に来ていたことは既に報告を受けていた。しかし何故彼女が自分に謝罪を?クライドは訝しみ、シルを部屋に通した。「入れ」「失礼します」部屋に足を踏み入れたシルは眠るアリスの姿を見て悲しそうな表情をした。「アリス様…。ごめんなさい…」