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第86話 後悔の間

シルは泣きそうになるのをぐっと堪え、クライドの傍に行き、彼に謝罪した。「クライド国王陛下。大変申し訳ございません。アリス様がこのようになってしまったのは私に責任があります」「それはどういうことだ?詳しく話して頂こう」「…はい」クライドの言葉にシルは静かに話し始めた。「私が図書室から戻って来る時、階段を降りる最中にアリス様をお見掛けしたのです。その際にお兄様のお姿を見付けてしまい、気を取られてしまって階段の段差を踏み外してしまって、転げ落ちそうになったところをアリス様が私を庇って…。それでこんなことになってしまって…」シルは耐えきれず、ボロボロと涙を流してしまった。「私のせいでアリス様が…。国王陛下大変申し訳ございませんでした…」「そうか…。事情は理解した。君のせいではない…」そうだ。これは事故。アリスは困っている人を見捨てておけないお人好しなところがある。大方彼女は隣国の王女を救いたかったのだろう。自分の身も顧みずに。彼女らしい行動力だ。だが今のクライドの心境ではその行為はとても褒められるものとはいえなかった。何故ならば彼は彼女以外どうでも良いと考えてしまうからだ。「あの…陛下。私にアリス様の看病をさせて頂けないでしょうか?」「先程も言ったはずです。あなたのせいではないと」クライドの言葉にシルは俯いた。「責任を感じていないと言うと嘘になります。でも…アリス様は私にとって初めて友人になってくれた方です。私の周りには私の権力しか見ずに、上辺ばかりで取り繕う人達ばかりで、うんざりしていたのです」シルは顔を上げて訴えるように言った。「だけどアリス様は私を一人の人間として接してくださいました。だから彼女の傍にいたいのです」それは真っ直ぐした目だった。クライドには彼女の気持ちが理解できた。それは彼自身アリスに対して感じていた気持ちそのものだったからだ。きっとアリスは隣国の王女の心を動かしたのだろう。自分が変わったように……。「わかった。だが、そこの侍女と交代にしてくれ。きみまで倒れてしまってはエリオット様に申し訳が立たないからな」クライドの言葉にシルは嬉しそうに微笑んだ。「はい!ありがとうございます!精一杯させて頂きます」シルは心から安堵し、嬉しそうに涙を流した。(良く泣く女だ…)だけどそれだけアリスのことが心配だったのだろう。見るからに責任感が強くて純粋。世間知らずなところもありそうだが、誰かを想う心根の美しさに民からも愛される姫君なのだと直感で理解出来てしまう。エリオットが妹に対して過保護だとは知ってはいたが、これならば過保護になるのも頷ける。シルのような優しさがクラリスにもあれば良かったのだが…。比べるだけ無駄だろう。あれは自分のことしか考えていない傲慢な女だ。それに彼女には既に沙汰を出した。今更どうするつもりも無い。「大丈夫です。アリス様は必ずお目覚めになられますから、それまで私も王女様と一緒に看病させて頂きますので…」「はい。ありがとうございます…」シルを慰めるようにカミラは優しく彼女の肩を抱いた。カミラに任せておけば大丈夫だろう。クライドはそう思い、その場から踵を返した。「カミラ。後は頼んだぞ」「承知致しました」クライドはそのまま部屋から出て行ったのだった。

****「んっ……」私は微睡んだ意識の中からゆっくりと目を開いた。「ここは…」起き上がり、周囲を見渡してみるとそこは私の部屋だった。どうして部屋にいるのだろう…。確か、あの時私は階段から落ちそうになったシルを助けようとして…。(シル様はどうなったの!無事なの!)部屋の中にはカミラの姿はなく、私だけだった状況を知る為にも私はベッドの近くに置いてるベルを手に取り、ベルを鳴らしてカミラを呼ぼうとした。その時。ドサッと何かが落ちる音と共にバシャッと水が零れる音がした。音の方に視線を向けると部屋のドアの近くに落ちた桶とシル様が驚いた顔をして立っていた。「シル様…」私の顔を見たシル様は顔を歪め、泣きそうな表情をして私の元に駆け寄り、抱きしめた。彼女は私を抱きしめたまま泣いてしまった。「アリス様…。良かったぁ…。本当に良かった。もし、目覚めなかったらどうしようって…私…私…」「ごめんなさい。心配掛けてしまって、私はこの通り大丈夫ですから。ね?」泣いているシル様の背中を優しく撫でながら私は彼女を慰める。「アリス様…」「カミラ…」シル様を慰めているとすぐ側にカミラの姿があった。いつの間にか部屋に戻って来たのだろう。カミラは私の顔を見てほっと安堵した表情をした。「お目覚めになられて良かった。どれだけ心配したことか…」「ごめんなさい。心配を掛けてしまって」申し訳ない気持ちでそう言うとカミラはため息をついたあと、苦笑した。

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