「全くです。聞いた時は驚きましたよ。無茶だけはしないで下さいね。アリス様って見かけによらずお転婆なところもおありなのですから」「ええ。気をつけるわ」暫くして。落ち着きを取り戻したシル様は私から身体を離し、申し訳なさそうな表情をしながら私に話し掛けた。「あの時、危ないところを救って下さってありがとうございます。でも…逆にあなたにご迷惑をおかけ致しまして大変申し訳ありません…。そのせいであなたが長い間寝込んでしまうなんて。友人として失格です」「シル様は大丈夫でしたか?」「え…ええ」「そう。良かったです。あなたが無事ならそれで」「でも…」ほっと安心したように言う私にシル様は何か言いたげな表情をした。私はそんな彼女に告げた。「あの時のことは私がしたくてしたことであって、あなたが気にすることではありませんし、責任を感じることはないのです。それにここは「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」と言ってもらった方が私は嬉しいです」「アリス様…」シル様は私の顔を見て小さく微笑むように言った。「ありがとうございます」彼女の柔らかく、優しい微笑を見て私も彼女に小さく微笑んだ。(そういえば、あれからどのくらい時間が経ってしまったんだろう…)不思議に思った私は近くにいたカミラに訊ねる。「三日程です」「えっ!そんなに時間が経っていたの!」カミラの言葉に私は思わず驚愕してしまう。倒れて一日しか経っていないと思っていたが、まさか三日も過ぎているとは…。「!」突然、カミラが驚いた顔をしてドアの方へと視線を向ける。部屋の中にクライド様が入って来ていた。「クライド様…。どうしてここに…」「ノックをしたのだが、なかなか返事が無かったから心配になって失礼させて頂いた」「大丈夫か?」「はい。身体は平気です」「そうか…」突然、クライド様は私の手に触れた。そして彼は私の瞳を覗き込む。彼の顔を見て思わずドキリとしてしまう。そんな私に彼は静かに告げる。「もう、あのような真似はやめてくれ。心臓が幾つあっても足りない」「申し訳ありませんでした…」悲しそうに言うクライド様の顔を見て、私は彼に心配かけていたのだと思い知った。クライド様は感情をあまり表に出さない方だ。その彼がここまで表情を出すなんて、あまりないに等しい。それだけ彼は本気で私のことを心配していたということだ。「病み上がりで申し訳ないが、お前に話がある」「何でしょうか?」真剣な顔をするクライド様の顔を見て私は彼の顔を見つめた。彼が口を開こうとしたその時。ドアがノックされたあと、「失礼します」との言葉と共にヨルとエリオット様が部屋の中に入って来た。ヨルは私の顔を見て驚きの顔をしたあと、すぐに安堵したような表情をした。もしかしたら彼は私のことを心配してくれていたのかもしれない。彼の表情からそんな思いが伝わってきた。「何をしている。勝手に部屋の中に入って来るなどと…」「大変申し訳ございません。王太子様がアリス様が目覚められたと聞いて、是非アリス様にお話したいとのことで…」「急に押しかけてしまい、申し訳ありません。でも、どうしてもアリス様とお話をしたかったのです」エリオット様は私に近づき、私の顔を見た。今まで私の話を信じようとしなかった筈なのに、どうして彼は私と話をする気になったのだろう…。内心私は疑問を覚える。私のすぐ側に控えていたクライド様はじっと私達の方を眺めていた。エリオット様はクライド様のことを気にする様子はなく、静かに口を開いた。「アリス様。数々の非礼大変申し訳ございませんでした」「いえ、そんな大丈夫ですので…」エリオット様に対して私は慌てて言った。だが彼は「言わせて下さい」と真摯な態度で私に向き直る。私は彼の姿を見て黙るほかなかった。
「あの時、階段から落ちるシルを見た瞬間、僕はあの場に居合わせておきながら妹を助けることは叶わなかった。また大切な人を二度も失うのかと思ってしまうと心が張り裂けそうになった。だけど、あなたは迷わずシルを助けてくれた。それも自分の身を厭わずに。心から感謝致します」「いえ、あの時…思わず身体が動いただけですので、そんな大層なお礼を言われる程ではありません」「だとしても、あなたはシルを救ってくれた。ありがとう」ああ…。この人は本当に妹を大切に思っているのだろう。でなければ今にも、苦しそうに切なそうな顔をしないはずだから。「エリオット様。また一緒に作品を作りましょう。早く完成させて、あなたの大切な人に贈りましょう。私またお手伝いをさせて頂きますので」「ああ…。そうだな」私の言葉にエリオット様は小さく微笑んだ。その顔を見て私は内心安堵する。「あと一つきみに謝罪したいことがある」
エリオット様は一度言葉を切り、神妙な表情で言った。「あの時、きみを悪女呼ばわりした挙句、僕ときみの噂が王宮内に広まっていることを認識しておきながら否定もせず、真実を話すこともせずにそのまま放置していた。きみは傷ついた筈なのに今思えば僕はどうかしていた」彼は私に頭を下げた。「本当に申し訳なかった」「エリオット様…」