突然声がして、後ろを振り向くと遠くから手を振りながらシル様が私の方に近づいて来ていた。
「シル様!どうしてここに!」
驚く私にシル様は花のような微笑みを浮かべた。
「実は国王陛下にお願いをして、こちらの温室に入る許可を頂いたのです。私の国とは違ってパシヴァールは花の品種改良に力を入れていると聞いたことがありましたので一度この目で見ておきたいと思いまして…」
「そうですか。シル様は花がお好きなんですね」
「はい!私自分の国で花を育てて、香水にして売っているんですよ」
「香水って…あの『華香水』ですか!あのユージニス国で女性に人気の代物の…」
『華香水』とはユージニス国で名産になりつつあるある貴族、庶民から人気の花の香りをした香水だ。
ジャスミン、ガーベラ、といった様々な種類がある花の香水で気分によって香りを楽しめることができ、尚且つ値段も手ごろに購入出来る。
それでいて身分関係なく女性達がお洒落を楽しめるとなっている。
ユージニス国で人気であり、パシヴァールの店でも時折輸入されている。
それをまさかシル王女が開発者だったとは…。
「ええ。元は私が自分で使うために作っていたのですが、お兄様が私の香水に目をつけてしまって「これは絶対に売れる!」と言って国で売り出してしまったのです」
(薄々は分かっていたけれど…エリオット様って商売の知識にも長けていらっしゃるのだわ…。恐るべし……)
「でも私の作った香水を皆が楽しんで付けている姿を見て嬉しいのです。また喜んでもらえる物を作りたい。自然と活力が湧いてくるのですよ」
シル様は花が綻ぶように笑った。
きっと彼女は人が喜ぶ姿を見るのが好きなのだろう。
本当に純粋で素敵な方だ。
「では、今度何か作られた際は教えて下さい。是非購入させて頂きます」
「い、いえ、そんな…。アリス様は私の大切な友人なのでタダで差し上げますよ!」
謙遜し、両手を振って慌てて言うシル様に私はシル様に言った。
「いけません!作るのに労力が掛かるのです。これはちゃんと受け取るべきなのですよ。でないと使えません」
「確かにそうですね。わかりました。前に香水を初めて作った時にもお兄様に似たようなことを言われたことがありましたので…」
シル様が納得されて良かった。
私は内心ほっと安堵する。
そんな中、アストレアさんが私に話し掛けてきた。
「アリス様、シル王女この温室の方にあるテラス席でお茶でも如何でしょうか?」
「テラス席があるのですか?」
「ええ。この温室の奥の外に行くとテラス席があるのです。そこでは温室にある食用の花を使ったお茶をお出ししているのです」
「まぁ、素敵だわ!色んな花のお茶が飲めるなんて!」
ぱぁと嬉しそうに両手を合わせて喜ぶシル様にアストレアさんは笑って答える。
「種類は様々あるのですが、花のお茶はこの温室でしか出されていないのです。何でも外の空気に触れてしまうと品質が落ちてしまう不思議な花もあるみたいで…」
「そうなのですね…」
「アリス様。私花のお茶見たいです!」
「アストレアさん、ではテラス席に案内してもらっても大丈夫でしょうか?」
「かしこまりました。こちらになります」
アストレアさんは一礼したあと、私達をテラス席へと案内する。
私とシル様の二人は彼女に着いて行った。
音質の奥にあるテラス席にたどり着いた私達はアストレアさんに促されてテラス席に着いた。
彼女に暫く待っているように言われて待っていると、アストレアさんはティーカップ、ポットを乗せたトレーを私達の方に持って来ると、お茶の用意をしてくれた。
ティーカップに注がれたお茶はとても綺麗なコバルトブルーみたいな色合いをしており、花びらが散るように浮いていた。
見るからにとても綺麗で、まさしく名前の通り花のお茶に相応しいものだった。
「綺麗…」
「香りも素晴らしいですわ!この香りは『アネルの花』なのですね!」
「ええ。アネルの花には蜜がありますので、それを使ったお茶になります。アネルの花の蜜は蜂蜜に近い甘さになりますので、きっと気に入るかと思います」
「なるほど…。ありがとうございます。では、頂きます」