47. 秘密
その強力な光の斬撃は、轟音と共にグラドの体を斬り裂いた。まるで、それが『勇者』の力であると示すかのように。グラドは、信じられないという表情で、崩れ落ちていく。
「がはっ……ば、かな……こんな……小娘ごときに……」
グラドは、最後の力を振り絞るように言葉を紡いだ。
「……『精霊の審判』」
私は、静かに呟いた。その言葉は、まるで宣告のように、グラドの耳に響いた。
「勇者はまだ現れているはずが……オレが……こんなところで……」
グラドはそう言い残すと、灰となって消えた。彼の体は、跡形もなく消え去り、そこにはただ、微かな塵が残るだけだった。
前世の時間軸では、グラドの強力な地属性魔法に苦しめられた。しかし、今回は違う。まだ魔力が完全ではない魔王軍の幹部ならば、問題なく倒せる。それに、私の力は前世よりもさらに強くなっている。
私は、牢屋の鍵を開け、中に入った。そこには、傷だらけの本物のリアンさんが倒れていた。
「とりあえず回復魔法で応急処置をしないと……」
私は、リアンさんに回復魔法をかけた。傷は塞がり、顔色も良くなったが、まだ意識は戻らない。早く目を覚ましてくれるといいのだが。しばらく回復魔法をかけ続けると、リアンさんがゆっくりと目を開けた。
「ん……あれ?ここは……私は確か……」
「よかった。目が覚めたんですね!」
「あなたは……。そうだ!私はあの男にやられて……!早くバイデル国王とジギル王子に伝えなければ!」
「落ち着いてください。その件ならもう大丈夫です。私が倒しましたから。今はここから出ましょう」
リアンさんは、信じられないという顔をしている。無理もない。普通ならば、そんな反応になるだろう。
私たちは、急いで階段を上がり、隠し通路から外に出た。時計塔から出ると、街の人たちが騒いでいるのが見えた。どうやら、先程の騒ぎが原因で、街は混乱しているようだ。地面が揺れたり、大きな音が鳴れば、当然の反応だろう。
私たちは、その場を離れ、しばらく歩き、人気のない路地裏に入った。そこで、リアンさんは私に話しかけてきた。
「あの、ありがとうございました。あなたは?」
「私は……イデア=ライオットです。ちょうど謁見の用事で隣国ローゼリアから訪問中のフレデリカ姫様の姫騎士をしています。」
「フレデリカ姫様の……?どおりでお強いわけだ」
本物のリアンさんも、偽物のリアンさんと同じことを言っている。フレデリカ姫様は、『爆炎の魔導姫』などと格好良く呼ばれているが、私からしたら、ただのファイアボールぶちかまし姫様だ。
「それにしても、いくら強いとはいえ、魔王軍の幹部をたった1人で倒すとは、あなたは何者なんですか?そこまで強いのに、あなたのことを知らないなんて……」
「え?えっと……」
やはり、そう思われるだろう。しかし、本当のことは言えない。ここは、お願いするしかないか。
「……それは秘密にしておきます。それと、この事はお互いに隠しませんか?」
「え?それはいくらなんでも……」
「グラドは、リアンさんに成り済ましていました。もちろん、バイデル国王もジギル王子も知らないし、疑ってもいない。それなら、主君のことを考えるなら、このままなかったことにしませんか?わざわざ不安を煽るようなことを言う必要はないと思います。」
「……確かに、あなたの言うとおりかもしれないですね。わかりました。このことは、私たちだけの胸に留めておきましょう。」
こうして、私は無事にグラドを倒すことができた。この事は、私と側近騎士のリアンさんだけの秘密。あとは、この先、バイデル王国が魔王軍の脅威に晒されないように祈るだけだ。
前世では滅びてしまったカトラス王国。しかし、今回は守ることができた。あの立派な時計塔の鐘の音を聞くことができるのだと思うと、どこか誇らしい気持ちになった。