目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

47. 秘密

47. 秘密




 その強力な光の斬撃は、轟音と共にグラドの体を斬り裂いた。まるで、それが『勇者』の力であると示すかのように。グラドは、信じられないという表情で、崩れ落ちていく。


「がはっ……ば、かな……こんな……小娘ごときに……」


 グラドは、最後の力を振り絞るように言葉を紡いだ。


「……『精霊の審判』」


 私は、静かに呟いた。その言葉は、まるで宣告のように、グラドの耳に響いた。


「勇者はまだ現れているはずが……オレが……こんなところで……」


 グラドはそう言い残すと、灰となって消えた。彼の体は、跡形もなく消え去り、そこにはただ、微かな塵が残るだけだった。


 前世の時間軸では、グラドの強力な地属性魔法に苦しめられた。しかし、今回は違う。まだ魔力が完全ではない魔王軍の幹部ならば、問題なく倒せる。それに、私の力は前世よりもさらに強くなっている。


 私は、牢屋の鍵を開け、中に入った。そこには、傷だらけの本物のリアンさんが倒れていた。


「とりあえず回復魔法で応急処置をしないと……」


 私は、リアンさんに回復魔法をかけた。傷は塞がり、顔色も良くなったが、まだ意識は戻らない。早く目を覚ましてくれるといいのだが。しばらく回復魔法をかけ続けると、リアンさんがゆっくりと目を開けた。


「ん……あれ?ここは……私は確か……」


「よかった。目が覚めたんですね!」


「あなたは……。そうだ!私はあの男にやられて……!早くバイデル国王とジギル王子に伝えなければ!」


「落ち着いてください。その件ならもう大丈夫です。私が倒しましたから。今はここから出ましょう」


 リアンさんは、信じられないという顔をしている。無理もない。普通ならば、そんな反応になるだろう。


 私たちは、急いで階段を上がり、隠し通路から外に出た。時計塔から出ると、街の人たちが騒いでいるのが見えた。どうやら、先程の騒ぎが原因で、街は混乱しているようだ。地面が揺れたり、大きな音が鳴れば、当然の反応だろう。


 私たちは、その場を離れ、しばらく歩き、人気のない路地裏に入った。そこで、リアンさんは私に話しかけてきた。


「あの、ありがとうございました。あなたは?」


「私は……イデア=ライオットです。ちょうど謁見の用事で隣国ローゼリアから訪問中のフレデリカ姫様の姫騎士をしています。」


「フレデリカ姫様の……?どおりでお強いわけだ」


 本物のリアンさんも、偽物のリアンさんと同じことを言っている。フレデリカ姫様は、『爆炎の魔導姫』などと格好良く呼ばれているが、私からしたら、ただのファイアボールぶちかまし姫様だ。


「それにしても、いくら強いとはいえ、魔王軍の幹部をたった1人で倒すとは、あなたは何者なんですか?そこまで強いのに、あなたのことを知らないなんて……」


「え?えっと……」


 やはり、そう思われるだろう。しかし、本当のことは言えない。ここは、お願いするしかないか。


「……それは秘密にしておきます。それと、この事はお互いに隠しませんか?」


「え?それはいくらなんでも……」


「グラドは、リアンさんに成り済ましていました。もちろん、バイデル国王もジギル王子も知らないし、疑ってもいない。それなら、主君のことを考えるなら、このままなかったことにしませんか?わざわざ不安を煽るようなことを言う必要はないと思います。」


「……確かに、あなたの言うとおりかもしれないですね。わかりました。このことは、私たちだけの胸に留めておきましょう。」


 こうして、私は無事にグラドを倒すことができた。この事は、私と側近騎士のリアンさんだけの秘密。あとは、この先、バイデル王国が魔王軍の脅威に晒されないように祈るだけだ。


 前世では滅びてしまったカトラス王国。しかし、今回は守ることができた。あの立派な時計塔の鐘の音を聞くことができるのだと思うと、どこか誇らしい気持ちになった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?