53. 役割
試験官の指示に従い、私たちは森の奥へと足を踏み入れた。木々の間を縫うように進むと、試験官が突然立ち止まり、私たちに指示を与えた。
「よし、この森にいる『ライトウルフ』を10体狩れ。制限時間は1時間だ。もし1時間以内に討伐できなければ失格とみなす。証明部位は大きな牙だ。そして今組んでいる仲間とは最後まで共に試験をおこなっていく。この試験でお互いの能力を確認するといい。では健闘を祈る」
試験官はそう言い残すと、私たちを残して試験会場に戻っていった。つまり、私はこのアリッサとエレンと、騎士団の試験の最後まで一緒に行動するということだ。一蓮托生、か。まあ、この2人なら問題はないだろう。まずは作戦を立てないと。
「さて、まずは役割を決めましょうか」
「はい!あたしは弓なので後衛です!」
「ボクは前衛だけど……お姉さんの実力を見てから決めるよ。ステータスカードは凄いけど、なんか不正してるかもしれないしね。もちろんボクたちの足を引っ張らないでよね?」
エレンは相変わらず棘のある言い方をする。まあ、とりあえず私の実力を見せてあげようかしらね。
「じゃあ、私が前に出るわ。あなたたちは私の後ろで援護お願い。」
「え?でも危ないですよ!?」
「大丈夫だから任せて」
「分かった。ただし、お姉さんが怪我してもボクたちのせいにしないでよね?」
「はいはい。分かってるわよ」
そうして私は前を歩きながら索敵を開始した。すると前方から、2体のライトウルフがゆっくりと近づいてくるのが見えた。
「来たわね。ライトウルフは素早いから、アリッサの弓で仕留めましょう。狙撃の準備をして。エレンは私と一緒にあいつらの気を引くわよ。」
「分かりました!エレン行くよ!」
「うん」
私とエレンは同時に飛び出し、ライトウルフに接近する。アリッサは弓を構え、狙いを定めて矢を放った。矢は見事にライトウルフの1体に命中し、仕留めることに成功する。残る1体は、エレンが槍を使い、相手を翻弄しながら上手くかわしていく。エレンの動きは、まるで踊っているかのように優雅だった。その隙に私はライトウルフに近づき、剣を抜き一閃する。
「はああ!!」
剣はライトウルフの首を綺麗に切り落とし、胴体は地面に倒れ込んだ。
「ふぅ。終わったわね。アリッサもお疲れ様」
「ありがとうございます!」
「お姉さんもやるね……」
「当然よ。それよりエレン。あなた戦い方が上手いわね。まるで踊るみたいだったわ。何かやってたの?」
「別に何も……」
「そっか。ならきっとセンスがあるわね。これからもっと強くなれるかもね」
「うっうるさい!ボクに触るな!馴れ合うつもりはないから!アリッサ!早く次にいくよ!」
エレンはそう言い残すと、アリッサの手を引き、さっさと前を歩いて行ってしまう。
「はぁ。ほんっと可愛くないわね」
でも不思議だ。あんな風に言われても、なぜか嫌悪感は湧いてこない。むしろもっと構いたくなる。これが妹がいたらこんな感じなのかしら。私はそんなことを考えながら、二人の後を追った。
その後も順調に狩りを続け、私たちは討伐したライトウルフの数を確認していた。
「ふむふむ。あと1体ね」
「時間も残り少ないですけど、あと1体なら問題なさそうですね!」
「うんそうだね。これで終わりにして戻ろうか」
「そうね。じゃあ最後の一体を探しに行きましょう」
そう言って私たちは再び捜索を開始した。すると前方に、何か動く影を見つけた。
「あれは……?」
「あっ!いました!最後の1体です!」
そこにはライトウルフの他に、大きな黒い狼のようなモンスターがいた。はぁ!?嘘でしょ!?何あのデカさ!?そんなことを思っていると、アリッサが大声で叫んだ。
「イデアさん!あの黒い方は『ブラックファング』です!レベル80超えの危険なモンスターです!逃げないと……!」
「……。いえ戦うわ。」
「なっなんでですか!?」
「はぁ正気!?ボクたちじゃ敵わないよ!お姉さんよりもレベルが高いんだよ!?」
その声を待たずに、私は一瞬でライトウルフの首を落とした。
「ほら!証明部位を持って先に戻って!」
「でっでも!」
「いいから行きなさい!試験の内容はライトウルフを10体狩ること。時間に間に合わないと全員失格になるわよ!?」
アリッサとエレンはビクッとして、急いで証明部位を回収して走り去っていく。まったく……なんでこうもトラブルに巻き込まれるのかしらね。