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13. 気まぐれと無表情

13. 気まぐれと無表情




 やっぱり使うしかないのか……仕方ないわね……私は魔法を詠唱し始める。


 《我望むは大いなる獄炎。全てを燃やし尽くす紅蓮の業火よ。其は全てを焼き尽くす煉獄の化身なり。我が前に立ち塞がるものは全て灰塵に帰すであろう。》


「燃えろ!煉獄の業火!爆炎魔法・フレイムエクスプロージョン!」


 私は魔法を発動させる。すると辺り一面に赤い魔法陣が展開されていく。そしてそこから巨大な紅蓮の炎が現れる。それはまるで龍のようにうねりながら相手に襲いかかる。


「なっ!?ぐぉおおお!!」


「無駄よ!そのまま焼き尽くせ!」


 この魔法は対象を燃やし尽くすまで消えることはない。


「ぐぅ……おのれ……ここまでの力があるとは……!この力を持っても防げんとは……」


「まだ生きてるの!?しぶといわね」


「く……ここは退かせてもらう……終焉までせいぜい抗うがいい。また会おう……人間よ……!」


 そういうとその男は闇の中に消えていった。そして黒い魔力も同時に消えた。


「ロゼッタ様やりましたね!」


「うん!流石ロゼッタ様!」


「まぁ逃がしたけどね……それよりもう少しこの古城を調査したいと思うんだけどどうかしらディアナ?」


「はい。そうしましょう」


 私たちはさらに奥へと進んでいった。奥へ進むにつれてどんどんボロくなっていく。そして階段が見えてきた。


 どうやら地下へ続いているようだ。私たちは慎重に降りていき、最下層の部屋に入った。そこには白骨化した死体が複数存在していた。近くにはローブや魔術書、杖などが散乱していた。


「これは……ロゼッタ様……」


「この杖とローブの状況から考えると、つい最近のことかもね……」


「はい。そして白骨化した死体。おそらく急激に魔力を吸われたのでしょう」


「ということは……ここで誰かが何かの実験をしていたということかなぁ?」


「……とりあえず依頼は達成したんだし、戻りましょう。私疲れたわ」


 私たちは地上に戻り、ギルドに戻った。そして報酬を受け取り、宿屋に戻ることにした。ギル坊はもう寝てしまっている。私は少しお酒を飲みたくなり酒場に向かう。


「すみません。エールを一つください。」


 今日の事を思い出す。あの白骨した死体は間違いなく魔女だ。魔女が魔力を何者かに抜かれたんだ。『黒い魔力』の原因はきっとそれだろう。そしてそれを操っていたのは恐らく吸血鬼らしき男……あいつはおそらく魔族だ。


 魔族の力は尋常じゃない。あんなの人間が敵う相手ではない。本当に……ディアナの言う通り……この世界が危機的状況なのかもしれない。


 そうなると、ギル坊とルナをこれ以上危険な目には合わせられない。……連れていけないわね。そんなことを考えていると、横に真っ白いやつがやってくる。


「寂しい人ですね。1人で飲んでいるなんて?」


「ディアナ……あら聖女様もお酒飲むのね?知らなかったわ」


「お酒は禁止されてませんので。すいません私もエールを1つください」


 ディアナは店員さんに注文する。私はエールの瓶を見つめる。そしてディアナが私に話しかけてくる。


「何を考えていたんですか?」


 その質問に私はディアナの顔を見ることなく答える。


「言わなくてもわかるでしょ」


「私はあなたから聞きたいのですが?」


 私はディアナのほうを振り向くと、いつもの無表情で私を見ている。はぁ。本当に食えないやつだ。


「あなたの考えている通りよ。『黒い魔力』は魔女のもの。そしてその魔力を魔女から奪っている輩がいるということ。そしてそれが魔族だと言うこと」


「……やはりそうですか」


「そして、これ以上はギル坊やルナには危険だということ。だから一緒にはいられない。まぁ元々、気まぐれであの子たちと一緒にいたから、別にいなくなっても問題はないけどさ?」


「なるほど……つまりロゼッタさんはこれから1人で行動すると?」


「そうよ。悪いかしら?私は、自分のやりたいようにやるわ。魔女は気まぐれだから」


「ふむ……なら私たちがロゼッタさんに勝手についていくなら問題はありませんね?」


 私は思わずエールを吹き出しそうになるのを堪える。こいつ今なんて言ったの?私が1人で行動するのに自分たちが勝手について行くって?意味がわからない。


「何を言ってるのかしら?冗談は顔だけにしてよね」


「本心ですよ。私はロゼッタさんの実力を認めています。ですから私もギルフォードさんもルナさんも同行します」


「ふざけないでちょうだい!危険だって言ってるでしょ!」


「ふざけているのはあなたでは?ロゼッタさん。私が二人を守ると言っています。忘れたのですか?」


 そりゃ言われたけど。状況が変わってきたのよ。私は……魔女だ。いつ私も狙われるかわからない。そんな危険な状況なのよ。


「ダメよ。足手まといになるだけよ」


「……いつか強くなってロゼッタ様の助けになりたい」


「え?」


「そうギルフォードさんもルナさんも言っていました。あなたが気まぐれなのは構いませんが、お二人の気持ちを踏みにじるのは私が許しません」


 ディアナの言葉に私は何も言い返せなかった。確かに私はギル坊とルナのことを考えて行動していた。けどそれは私の身勝手でしかない。そんなこともわからなかった。それをこいつに言われたのが更に腹立たしかった。


「……おじさん!エールおかわり!」


「なら私もおかわりをください」


「何対抗してきてんのよ?あんた……私は今どこかの無表情聖女様のせいでむしゃくしゃしてるんだけどさ?」


「奇遇ですね。私もどこかのわがまま魔女さんにむしゃくしゃしてますが?」


 私は一気にエールを飲み干す。ディアナも負けじとエールを一気飲みする。ふん!いい度胸じゃないの。潰してあげるわよ無表情聖女!


 私たちはそれから朝方近くまで飲み続けた。そしてそのまま意識を失った。目が覚めたらベッドの上だった。頭が痛すぎる……私ちゃんと帰れたのよね?ふと横を見るとディアナが寝ていた。……最悪。するとディアナが目覚める。


「……おはようございます」


「あのさ。部屋に戻ったら?」


「そうですね。あなたの寝息がうるさかったですしね」


「……」


 私は黙り込む。頭痛いし記憶ないし。あーもうなんなのよ。イラつく。


「昨日はそこそこ楽しかったですよ」


「楽しくなんかなかったわ。あんたのせいだけどね?」


「お互い様でしょう?私もあなたのお陰でひどい目に遭いましたから」


「そっちが後から勝手についてきたんでしょうが……」


 ディアナは立ち上がり私に話しかけてくる。そしてこう言ったのだ。


「これからよろしくお願いしますねロゼッタさん。私たちは仲間なので」


「……はい?」


「それじゃあまた後で」


 そう言うと扉を開けて出ていった。私は頭を抱えながらため息をつくしかなかった。魔女は気まぐれ一人旅。でもギル坊、ルナに出会った。そしてディアナにも。そんな私はみんなと一緒にいることを、心のどこかでは少し嬉しく思っているのかもしれない。

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