アクセサリーショップに俺はいた。
菜々花はプレゼント候補を見て回っている。
彼女の雪花に対する想いは強い。
それは悩む時間に現れた。
長針が一周するほど、思案していたのだ。
俺は菜々花のもとまで歩いていく。
「だいぶ手こずってるね」
「はい。どれがいいか、わからなくて」
「雪花の好みは?」
「……気分によるんですよね」
聞く度に変わってるんです。
と彼女はため息をついた。
「流行に敏感とも言います」
「じゃあ流行りのものを……」
「私は鈍いのですよ」
「だろうね」
想像はできる。
普段の言動から。
あるいは見た目から。
おしゃれな肉塊なんて存在しない。
俺は展示されているものを覗き込んだ。銀やら金やら、見たことのない色まである。
自分はアクセサリーに詳しくない。助言をしようと思ったが、どうも上手くできなさそうだ。
悩みに悩む二人を見かねたのだろうか。
店員がにこやかに歩み寄ってきた。
下品な印象を与えない、洗練された表情である。
「何かお探しですか?」
「あの、妹へのプレゼントで」
「まぁ! 普段はどのような格好をされているんですか」
「えぇと……」
説明するに困った菜々花はスマホを取り出した。
収められた雪花の写真を提示する。
「可愛らしい方ですね。この場合ですと、ワンポイントなものが適していると思います。本人が華やかな感じですから、そのほうが映えます」
店員は端的におすすめをしてくれた。例として挙げられたのはピアス。控えめな輝きを放っている。
しかし材質が銀であるため、俺は心配になった。聖なるパワー的なので浄化されてしまうのではないか、と。
化け物は化け物を認識しない。
できないと表現するべきか。
菜々花は妹がゾンビであるなど――また自分が肉塊であることも――想像せず、素直に頷いた。
「ありがとうございます」
「いえ。またのお越しをお待ちしております」
小さな紙袋を下げて、菜々花と一緒に店を出る。
彼女は楽しげだ。
「化野さん」
「ん」
「やりました」
これで日頃の感謝を伝えられます。
と触手が揺られた。
けれども感謝を伝えられても困る。俺は何もしていないのだ。一緒に悩んでいただけ。むず痒くなって、思わず頬を掻く。
「この後は?」
「……というと」
「予定あるのかなって」
「そうですねぇ」
草壁菜々花は友人だ。
今ではそう断言できる。
でも、好き好んで――特にクリスマスに遊びたい容姿ではない。
解散する流れを期待して尋ねてみたのだけれども、彼女は熟考していた。即答しない。その時点で、嫌な予感はしたのだ。
「化野さん」
「うん?」
「イルミネーションデート、と洒落込みませんか」
店頭に飾られた安っぽい電灯が、謎の液体を照らした。
◇
白い息が漏れる。
冷たさに滲んだ涙に、幾千もの輝きが乱反射した。
菜々花は全身で感情を表している。
「すごいですね」
「うん」
「駅前のも、それなりでしたけど……」
感嘆のため息が響いた。
彼女だけでなく、周りの人達も一様である。
買い物に行っていたショッピングモールは、駅と直結していた。ちょうど駅にいるのだから、少し足を伸ばそうという話になったのだ。
ここはイルミネーションが有名なテーマパーク。
花の織りなす景色に、数え切れない光が存在していた。
うにょうにょと
「あ、写真が撮れるみたいですよ」
敷地内を歩いていると、大勢が立ち止まっていた。
どうやら絶景があるようで、皆スマホを手にしている。
中には気合の入ったレンズまで持っている人も。
菜々花は声を弾ませて走り出した。意識的にか無意識的にか、俺の手を取って走り出した。
藤の花が咲き乱れている。
数えるのも馬鹿らしくなるほど、咲き乱れている。
幻想的な迫力に飲み込まれて、俺達は呼吸すら忘れた。
おそらく写真を取っている者もそうなのだろう。
幸福気な眼差しの中に、どこか畏怖を感じる。
「ずっと見ていたら、吸い込まれそうです」
「イルミネーションがあるから余計にね」
「照らしあげられた藤の花が、こんなに綺麗だなんて」
もしかすると夜だけの姿なのかもしれない。
夜にだけ人間を襲う妖怪。
その美しさに見惚れた人間を、怪しい紫の糧にする妖怪だ。
陳腐な感想がまろび出てくるほど、筆舌に尽くしがたい光景である。数分ほど並んだ後に、列がなくなった。
「じゃあ撮りましょう」
「ん」
「はい、ちーず」
パシャリ。
早急に立ち退く。
次の組が写真を取り始めたのを横目で伺いながらスマホを覗く。視界の隅に肉塊があるのウザいなぁ。
画面越しに認識する化け物は可愛らしい。
いや変な趣味に目覚めたとかじゃなくて、本当に。
まるで人間のように見えるのだ。
さらさらと流れる金髪が美しい女性は誰でしょう。答えは草壁菜々花です。隣で肉肉しい肉体美を披露している彼女だ。
詐欺ってものじゃない。訴えられたら間違いなく負ける。
「あれ、化野さん」
「ん」
「なんだか照れてませんか」
「照れてないよ」
「うっそだぁ!」
俺は一般的な男子高校生である。
いくら本性が化け物とはいえ、美少女がいたら照れる。
実際に視認するのとは訳が違うのだ。
しかし、それを菜々花本人に指摘されるのは腹が立った。今のお前はブロック肉だぞ、と言ってやろうかと思った。さすがにやめたけれど。
「可愛いところもあるんですねぇ〜」
「やめてね」
「ふふふ、やめませんよ。やられっぱなしでしたから」
触手で「うりうり」と突いてくる。
かっちーん。
「私のことはどう思ってるんですか?」
「
「肉貪益荒男っ!?」
なんですかその語感を優先した名前は! 一体私のどこに一致するんですか! と菜々花は抗議してきた。
一致はすると思う。最適なあだ名だよ。