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第56話 復活までの足音が聞こえる

「ララッ! 元気にしてたかぁ⁉」


 玄関の方で大きな声が聞こえた。

 声がしたときはみんなでアイスを作っていた時だった。そのため、厨房で和気あいあいと卵黄やミルクを冷やしながらかき混ぜていたのだ。


 そんな時に来てしまい、行った方がいいか迷っていると。ララの目がすわりだした。どす黒い空気が噴出したような錯覚に襲われる。


 この気配は凄いな。ララは不機嫌になるとこうなるのか。


「ごめん。ミリアちゃん。これ、お願いしてもいいかな?」


「うん。いいよー」


 ミリアは自分の分のボールの隣にララのボールを置くと、同時にかき混ぜ始めた。器用な奴だなと感心しながらみていたが、ララが厨房から出て行こうとしているのを見て後をついていくことにした。


 サクヤとアオイに後は任せてララについていく。歩き方から不機嫌な様子が察知できる。なんだか、手を広げて力が入っているように見える。


 この子なりの怒りをあらわにしているのかもしれない。

 でも、なぜそんなに不機嫌に?


「ララ、よかったな? お父さんが来てくれて」


「別に来なくていいのに。いつもタイミングが悪いの」


 こちらをチラリと振り替えったララはいつものクリッとした目がキリッとした目に変貌し、なんだか顔が変わっているような錯覚に陥る。


 アイスを作っているときに父親が来たものだから、不機嫌になってしまったのだろうか。それはそれで、ここでの生活が楽しいということだからいいことだと思う。


 ララはこの一週間でだいぶ子供達に打ち解けたと思う。俺にも普通に話すようになった。以前の恥ずかしくて隠れていたようなララではない。それを父親が体感すれば安心するのではないだろうか。


 玄関へと向かっていると、鉄鎧を身に纏った重装備の冒険者がいた。背中には大剣を背負っている。頬の傷が歴戦の戦士を思わせ、俺とは全然違った強者の雰囲気を纏っている。


「はじめまして。リュウと申します」


 そう自己紹介をして頭を下げると、ララの父親は慌てて頭を下げた。


「私は、ドムであります。実は『わ』に一度行ったことがありまして、リュウさんの料理に感動したのを覚えております。ララを連れて行こうと思ったのですが、子供連れがいいのかどうかわからなくて……」


 ドムさんは大きな体とは裏腹に、縮こまりながら頬を掻いて自己紹介をしてくれた。もう少し大柄な人なのかと思ったが、全然違うようだ。


 聞いてくれればと思ったが、それはドムさんには難しいんだということに気づかされた。この会話から今後の『わ』の方針も見えてきた。【子供がきてもいい店】それをコンセプトにすれば、子連れの人たちがもっと来やすいのではないだろうか。


 「コヤツはのぉ。戦闘になると頼りになるのだが、日常生活になるとからっきしでのぉ。気弱になってしまうんじゃ」


 後ろから顔を見せたセバスさんが困ったようにそう口にした。横柄な態度をされるよりは、気弱はほうが良いと思うけど。冒険者としては、駄目だということだろうか。


「冒険者はのぉ。荒れ暮れ者の集まりなんじゃ。だから、この気弱な感じだとなめられるんじゃよ」


 あぁ。ここまで縮こまっていればそうなのかもしれない。

 ドムさんはこういうところで苦労しているのだろうなぁ。


「面目ない。私はあまり気が強くなくて……」


「もう! ビシツとしてよね! パパ!」


 ララはドムさんへと近づいていくと、活を入れるように太ももをひっぱたいた。引っ込み思案なところがあると思ったが、父親にはそんなことなかったようだ。


 そのララの発言に、更に恐縮して小さくなるドムさん。これは性格だから仕方ないのだろうけど。ドムさん自身はこの性格で冒険者をやることをどう思っているのだろう。


「ドムは、仲間思いで戦闘では盾になることもある。そうなると頼りになるんじゃよぉ?」


 セバスさんが、ララにドムさんの活躍を伝える。そうすることで、少しでもドムさんの株を上げようとしたのかもしれない。


 すると、ララは目を見開いて驚いた様子を見せた。


「パパ、本当に戦えたんだ……」


「そうだぞ? ちゃんと戦えるんだ!」


 ドムさんの大きな声が聞こえた。またララの目が鋭くなった。


「パパ、声デカすぎ。うるさい。」


「ご、ごめんよ。つい力が入っちゃうんだよ」


 大きな体のドムさんが小さなララより更に小さく見えてきた。なんだか不憫にも思えてきた。


「ララよ。まぁ、そういうでない。ドムは、リュウたちの為にも動いていたのだからな」


 その言葉に反応する。一体何をしてくれていたのだろう?

 こんなに料理しかしてなくて大丈夫なのだろうか。


 俺とララが首を傾げていると、笑いながらセバスさんが教えてくれた。


「ドムは『わ』の復活の為に、国の職員を探してくれていたんじゃ」


 それは有難いことだ。ここの領主を排除するというのは、国にしかできないからだそうだ。それには、国の職員が、あまりにも目に余りますみたいに報告をあげないと動いてくれないらしい。


 それを出すために、ドムさんは国の職員を探していたのだ。誰かいたということだろうか。


「そこで、見つけたんじゃ。意外と近いところにいたのじゃ」


「?」


 俺は首を傾げることで、答えを促した。

 セバスさんはにこやかに口を開いた。


「ヤブ先生。あそこに来ている治癒士が国の職員だったんじゃ。しかも、エリートじゃった」


「えっ? ヤブ先生のところの?」


「そう。メルといったな。その子に国へ書簡を届けてもらうことにしたんじゃ。もう出したから、返事は一か月後か、はたまたもっとかかるか。わからん状態じゃ」


 セバスさんが胸を張ってララと俺へそれを告げた。感謝しかない。


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げると、ララも頭を下げていた。俺が下げるのはわかるけど、なんでララが?


「いつも、パパのお世話をしてくれて、ありがとうございます!」


 急にララがセバスさんへとそう告げた。セバスさんはドムさんの良いところをしっかりと理解して、一緒に戦っているようだった。他にも仲間はいるようなのだが、先に帰ったようだ。


 セバスさんは苦笑いを浮かべながらララの頭を撫でた。


「ワシはな。いつもララのパパに助けられているんじゃ。礼をいうのはこっちの方じゃ」


 ララへそういいながら頭を下げていた。ドムが驚いたようにワタワタしている。S級冒険者が頭を下げたのだから、凄いことである。ララは強し。


 すると、ドムさんへとララは抱き着いた。


「パパ。いつも……ありがと」


 その言葉を聞いたドムさんは大粒の涙を流して、何を言っているかわからない言葉を発していた。

 俺までもらい泣きしてしまいそうだった。


「リュウよ。もう少し待ってくれ。もう少しじゃ」


 セバスさんたちが動いてくれていた領主の排除計画が、順調に動いていることを実感した。本当に有難くて、料理を作るのをせめて頑張ろうと誓った。


 食堂『わ』が再開した後、みんなに感動を与えられるような料理を作りたい。

 それは、ミリア、リツ、イワン、サクヤ、アオイの共通の願いだと思う。


 みんな感謝してる。

 ここからだ。

 もう少しだ。頑張ろう。

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