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第60話 外の騒動

 交流が生まれた子供達と『わ』のお客さん。この交わりは、子供達にもいい経験となった。お客さんにも何かを感じてもらえたのなら嬉しいのだけど。


 定期的に食事会を行うようにしたのだが、三回目が開催された日の朝。非常事態が起こる。


 その日は、ドムさんがどうしても受けたい依頼の日だった。早朝からセバスさんを連れて出て行ったのでいない日だったのだが、外の護衛の人が騒がしい。


「お前たちはなんだ!」


「さがれぇぇぇ!」


 護衛の二人が叫んでいる。門の前に出ているようで中からは見えない。なんだか騒がしいのを察して子供達も入り口付近へ出てきた。空気がピリついているのを感じているようで重苦しい顔をしている。


 ドムさんが依頼に出ているということは、ララは俺たちと一緒にいるわけで。不安そうにしながらも、サクヤとアオイに両手でしがみ付いて様子を窺っている。


「リュウさん、何があったんですか?」


 サクヤも曇る顔を隠せない。何か騒がしいことしかわからなくて、何が起きているかがわからないからだ。キラキラの鉱物を使われていると思われる入口のホールまで外の声が響き渡っている。


「何しに来たぁぁぁ! それ以上近づいたら攻撃するぞ!」


 外から聞こえる声。しかし、俺も一体何が起きているのかは把握できていない。一体外で何が起きているというのか。


「ここは危険です。お下がりください。一番奥の部屋に皆さんで避難しましょう」


 執事のカミュさんが俺たちにそう提案した。ということは、俺たち関連のなにかということだろう。自分に関係するのならば尚のこと、残った方がいいのではないだろうか。


 そんなことを考えていたら、拡声された声が聞こえてきた。


「我らは領主の兵士だ! 青髪の女、ピンク髪の女、そして、ブロンド髪の少女がいるはずだ! 三人を寄こせば攻撃しないこととする!」


 腹が煮えてくるのがわかる。頭に熱が昇ってきて爆発しそうだ。こういうときこそ冷静にいなければならないのだろうが。これは冷静でいられない。


 ちゃんと頭を回転させて何を言ったかを咀嚼する。アオイ、サクヤ、そしてララを差し出せと言っているのだろう。なんて意味の分からない要求だ。


 さもなければ攻撃するという。これは大変な事態になってしまった。俺に戦う力はない。いったいどうすれば……。三人を犠牲にするなんて絶対にできないし。


「ウチ──」

「私──」


 サクヤとアオイが口を開いた。言おうとしていることが分かったため、俺は止めようと口を開こうとした。


「ダメですよ。お二人さん。さぁ、皆で奥の部屋へと非難してください」


 カミュさんが割って入った。ありがたいことだが、どうしたらいいのかわからない。誰も渡したくはない。だが、それで何か解決できるのだろうか。


 こういう時こそ落ち着かないと子供達が不安になってしまう。まず、状況を把握しよう。領主の兵が来て、三人の身柄を要求するということは、ここにいるのを確信しているということだろう。


 それもなぜかはわからない。だが、このままだと戦闘に移行してしまうのではないだろうか。俺が心配しても何もできないが、なんとかしなければと思ってします。


「いざとなれば、私たちが戦いますので、ご安心ください」


 その声に後ろを振り返ると、メイドさん達がショートソード、革鎧、盾などを装備して集まっていた。確かに戦闘できるメイドだとは言っていたけど。


 いつの間にかカミュさんもナックルガードを装備している。話を聞くに、セバスさんの弟子だそうだ。拳で戦うことを教えられたんだそう。


「しかし、自分達だけ逃げるのは……」


 奥に逃げるのを逡巡していると。


「早く引き渡さなければ攻撃を開始する! こっちは総勢五十の兵力がいる! 二人程度の冒険者でどうにかできると思わないことだ!」


 顔から血の気が引いていくのがわかった。五十人も兵士がいるのか。それに対して、こっちは冒険者と数人のメイドと執事しかいない。完全不利ではないか。


 子供達もその声が聞こえたために、煌びやかな鉱物が張られた床にしゃがみこんでしまった。これからどうなるのだろうと未来を悲観しているのだろう。


「なめるなよ! お前たち程度、二人で十分だわ!」


 冒険者が領主の兵士にそう告げている。それは、はったりなのか、本当に自信があるのか。俺には判断のしようがない。


「皆さん、ご安心ください。あの冒険者達は、Bランク以上の冒険者です。その辺の一兵士になど、遅れをとりません。たとえ、数十倍の兵士だろうとも勝ちます。そこへ私たちが加われば尚、勝率は上がるでしょう。我々もBランク以上の実力を持ち合わせておりますので」


 それは確かに安心できるような要素だろうが、やはり戦闘は免れないのだろうか。セバスさんがいれば安心なんだけど。


 そんなことを考えていたら、また声が聞こえてきた。


「もう待てん! 突入する!」


「きやがれクソ兵士ども! 三人は渡さねぇわ!」


 一触即発の雰囲気になり、その場の空気が張り詰める。門の方からは地響きのような音が聞こえてくる。腹を震わせるその音が、俺たちの不安を増大させた。


 そして、一瞬静寂が訪れた後。


 凄まじい地面の割れたような轟音が響き渡り、静寂が訪れたのだった。

 俺たちには何が起こったのかわからず、沈黙するほかなかった。


「お主ら、ひけぇぇぇぇい!」


 その声はセバスさんだった。

 一体なぜ?

 なぜいるのかと疑問が過ぎりながら、胸の中の不安が少しなくなっているのを感じた。

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