葬儀が終わってからセバスさんの家へといったん戻った。ミリアとちょっと二人になりたくて、サクヤたち四人には外で食べてきてもらっている。入口のガラスが割れてしまっていて風が入ってくるが、そんなことは仕方がない。
「ねぇ、おみせはまたできるのー?」
ミリアが客間のソファーで足をブラブラとさせながら疑問を発する。それは、申し訳ないが、セバスさんの遺産から出してもらえるそうなのだ。
ちょうどやってきたカミュさんが俺たちの座っていたソファーの横へ立ち、口を開いた。
「『わ』を再建する計画を建てたいのですが。前に申していた勇者の世界風でいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。それで、そのぉ勇者の世界風というのは?」
よくわからずに首を傾げる。
カミュさんは笑みを浮かべて顔の横で指を立てた。
「勇者たちの間では、和風と言われていたようです」
「あぁー。瓦屋根とかですか?」
俺の思う和風というのは、木造で瓦屋根というイメージがあるが、あっているだろうか。
「まさしく! 木をメインで使って立てて頂きます。屋根は瓦というものを使うそうです。一昔前、勇者が魔王を討伐した後には、そのような家が多く建てられていたそうです」
なんだかカミュさん、楽しそうだなぁ。
「カミュさん、楽しそうですね」
「はい! こういった家は大好きで。『わ』にもピッタリですし、楽しみなんですよ」
そう思ってくれていて嬉しい。やっぱり和食を作っているから、店も和風の方が合うとは思う。建築費用の方はもうお任せしてしまおう。
「すみません。お願いします。それで、相談なんですが……」
「んっ? なんでしょう?」
俺が話を切り出すと、笑顔のまま首を傾げて話の続きを促される。
「店ができるまでの間、どこかで営業できないものかと思いまして……」
色々と考えていたのだが、助けたい人がまだたくさんいる。領主は変わって少し環境がよくなっていくと思われるが、すぐには無理だろう。
苦しんでいる人、困っている人を助けたいんだ。そのためには、料理を作る場所と振舞う場所が必要となってくる。その場所を確保したい。
もうこれ以上我慢したくないのだ。そして、これ以上放っておけない。すぐに助けが必要な人もいるかもしれないのだ。
「フッフッフッ」
カミュさんが変な笑い方で肩を揺らしている。
「そんなこともあろうかと、探していました」
目を見開いてしまう。驚いた。探してくれていたなんて。いいところはあったのだろうか。ちょっとワクワクして話の続きを聞く。
「なんと、ありませんでした」
おいおい。なかったのか。いきなりだし、仕方ないとは思うけど。
「まぁ、そう簡単に厨房があって店をやれるような空き家はなかったです」
「そりゃそうだよなぁ」
気を落としながら話していると、なぜかカミュさんの顔は明るい。なにか隠し玉があるのだろうか困ったものだ。
「それがですねぇ、お店はできます」
「でも物件はないんですよね?」
何をどうするつもりなのだろうか。借りられる物件がないというのに。
「そうです。ですが、時間制限ありで、借りられるところがあります」
「えっ? 誰かが貸してくれるってことですか?」
その問いには笑顔で頷いてくれた。でも、そういうのには貸してくれるテナント料のようなものがかかるものだろう。
「場所を借りるのはいくらかかるのでしょうか?」
「実は、貸してくれる人が複数人いまして。条件のすり合わせをしたいなと」
貸してくれる人がいるということが嬉しい。その支払いはこちらが持つ。
「わかりました。その支払いは、俺が持ちます。話し合いの場を設けますか」
俺が話している間に、ソファーに座っていたミリアは舟を漕いでいる。疲れてしまったようだ。部屋に連れて行って寝かせてあげよう。
「それがですね。皆さま、リュウ様の言い値でいいと言っているんです。ただでもいいと言ってくれています」
そういうわけにはいかないだろう。あの店はおやっさんの好意で譲ってもらった。だからこそ家賃のようなものはなかった。
店が建つまではそうはいかないだろう。ただでは、コンロを使ったりするのに抵抗がある。あれは、魔石を消耗していて金がかかっているからだ。
水を出すのにも魔石を使っている。だから、ただというわけにはいかない。双方がWinWinの関係が一番いいと思う。
そこで、いいことを思いついた。サクヤとアオイの給金は運営に使っていいと言ってくれていた。だから、使わせてもらおう。
「一日、大硬貨一枚でどうでしょう?」
カミュはちょっと眉間に皺を寄せて腕を組み、ため息をついた。なんだか、まずいことを言っただろうか。これは結構いい案だと思ったんだけどなぁ。
「半日ですよ? 夜の店は昼に使えます。逆で、昼に営業の店を夜使えるんです。それにしては、多くありませんか?」
「これは、俺の気持ちです。貸してくれる人にも利益を。これでも大分安いと思いますし」
俯いてカミュさんは少しの間考えているようだった。半日の営業でもいけると思う。仕入れとかの方はマルコさんとガンツさんへお願いしてみよう。
昼と夜できるのなら、それは幸運だ。夜のメニューも考えていたんだ。昼はいつものようなメニュー。夜はちょっとつまみに合うようなものを用意したいと思っていたのだ。
「わかりました。初期資金もお渡ししますから」
「何から何まですみません」
頭を下げると笑みを浮かべて俺の肩に手を置いた。
「私たちも、リュウさんの料理のファンになったんです。お店、行かせてくださいね」
「是非、来てください」
握手をしてこれからの未来へ向けて目を向ける。
「ここでこども食堂、してもいいでしょうか?」
「もちろんです。むしろ、大々的に宣伝しましょう!」
手を広げて嬉しそうにカミュさんが宣言する。そうしてもらえるのなら、人を沢山呼べる。そして、シグレさんが助けたいと言っていた人が気になる。
店が落ち着いたら、シグレさんとコンタクトを取ってその人に声をかけてみよう。
ミリアを抱えると部屋へと戻っていく。
なんとか、店をすることができるみたいだ。
これから、また皆で『わ』を広げていこう。