昨日は遅くまでみんなを待たせてしまった。それも今日が休みだからということもあったのだ。うん。忘れてはいなかった。
久しぶりの食堂『わ』の休みの日。ただ、こども食堂はやる気だからセバスさんの家の前にこども食堂と掲げるつもりではある。けど、やりたいことがある。
朝食を食べた後、いつも通り客室でまったり過ごしていた。一人で何も言わずに行動するのはなんだか悪い気がして、一応みんなを誘う。
「今日、ちょっと包み焼きを買って行きたいところがあるんだけど、誰か一緒に行くかな?」
「「「いくー!」」」
ミリア、リツ、ララが元気に手を上げる。静かに手を上げたのはイワン。それに続いてちょっと遠慮気味に手を上げたのは、サクヤとアオイだ。
結局みんな行くっていうことだな。ドムさんは依頼を受けに行くという。素材で稼いだお金を寄付したりしてくれているので、非常に有難い支援をしてくれている。その分、ララと俺たちは一緒に行動しているというわけ。
「よーし。じゃあ、行くか」
俺の後ろに続いてぞろぞろと着いて来た子供達。しかし、サクヤとアオイ派少々怪訝な表情をしている。
セバスさん宅を出てメインの通りを目指して住宅街を歩いている時。後ろから追ってきたサクヤに声を掛けられた。
「リュウさん、一体どこに行くんです?」
後ろに手を組みながらピンクの髪を揺らし、ちょっと不貞腐れたように隣を歩く。その後ろでは青い長髪を耳にかけながらその言葉に頷くアオイ。
どちらも眉間に皺を寄せて険しい顔をしている。俺がどこに行くのかがそんなに気になるのだろうか?
一応、お願いするわけだから手見上げが必要だと思っているだけなんだけどな。
「メルさんへ会いに、ヤブ先生の所に行こうと思って」
サクヤが急に唇を尖らせながらこちらに顔を向ける。
「何しに行くんですかぁ?」
なんか、不機嫌?
そんなわけないか。
「昨日の男の子、レインのところなんだけどさ。お父さんな、一昨年のスタンピードで怪我したそうだ。手足が片方ずつしかなくて不自由してんだよ。でも、国は補助とか何もしてくれてないんだっていうんだ。そんなのおかしいだろう?」
「そ、それはおかしいですねっ! すぐに対応してほしいです!」
なんか、顔が明るくなったか?
一体どうしたっていうんだ。そんなに昨日返ってこなかったことを心配してくれていたのかな。
「そうなんですのねぇ。私たちは両親を亡くしているから補助が出ていますけど、怪我をして引退した人まで対応できていないのですわね」
「そうみたいなんだよ。だから、もう一度、メルさんのお父さんに進言してもらおうと思ってさ」
サクヤとアオイは二人で目配せすると笑顔になって頷いていた。なんだか、二人だけでわかる何かがあったみたいだ。
「そういうことでしたら、包み焼きを選ぶの手伝いますわ」
「おぉ。それは助かるよ」
後ろから駆け足でやってきたのはミリアだ。
「ねぇねぇ、リューちゃん。なんのつつみやきをかくのぉ?」
「それがまだ決めてないんだ。ヤブ先生とユキノさん、メルさんに買って行きたいんだけどなぁ」
その言葉に目を輝かせてこちらを見上げる。大体考えていることはわかる。
「じゃあ、ミリアがえらんであげるね!」
やっぱりな。けど、今回は先約があるから……。
「ミリアは、ヤブ先生に選んでくれるか? ユキノさんとメルさんへは、サクヤとアオイに決めてもらいたいんだ。いいか?」
「しょうがないねぇ。ゆずってあげる! ミリア、おねえさんだから!」
いつの間にお姉さんになったのだ。一番下だろうに。まぁ、自分をお姉さんだと思うことで悪いことはないだろう。自分でしっかりしようとしているのだから。
「ありがとう。ミリアちゃん! 手、つなごっか?」
「うん! アオイおねえちゃんもこっちつなごう?」
サクヤに手を差し出されて言われるがままに手を繋ぐミリア。それでお姉さんだと言い張るのだから可愛いものだ。もう片方の空いている手をアオイに差し出す。
「いいですわ」
いつものリツとイワンの特等席をミリアが現在独占中である。これをおもしろく思わない者がいたようで……。
「あーっ! ミリアちゃん、サクヤおねえちゃんとアオイおねえちゃん、二人とてをつなぐのはルールいはんだよ!」
いつもイワンとリツはそのように二人に言われているようだ。リツとイワンが喧嘩になるからだろうか。喧嘩をするようには見えないが。
「それは、リツがいつも独占するからでしょう? 今は、リツもイワンも二人で手を繋いでいたんだからいいでしょう?」
「そういうことじゃなーい!」
リツが強行策に出て、ミリアとアオイの間に両手を合わせた手刀を振り下ろして割って入る。
「わぁ! ちょっと! リツくん!」
こんな何気ない日常は、セバスさんの死の元になりたっているということを俺たちは忘れてはいけない。そして、人の為に動いてくれていたセバスさんの思いも引き継がないと。
「リツ。俺と手を繋ぐか?」
「……アオイねえちゃんがいい」
はははっ。フラれてしまった。
「かわいそうだから、ミリアがつないであげるね?」
いつの間にか現れたミリアが俺の空いている手を握ってくれた。なんだか、少し手を繋いでいない間に大きくなったのではないだろうか。
このくらいの歳の子ってのは、身も心もすさまじいスピードで成長している。
「ミリアねぇ、リューちゃんのて、すきだよ? おおきくてゴツゴツしてるけど、きれいなて」
不意に紡がれたその言葉。その言葉は俺の心に染み渡っていった。過去に一度だけ言われた嬉しい言葉と同じ言葉だった。
頭の中に俺の過去の情景が思い出された。