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第101話 許すということ

「リュウさん! なんか、表で土下座している人がいますよ!」


 サクヤが騒いでいる。一体誰が土下座しているんだろう?


 火にかけていたものを一回止めて厨房から出て入口へと向かう。お客さんも飲んでいたお酒を置いて野次馬のように入口の外へと出ていく。


 流れに乗るように暖簾を潜って外へと足を踏み出すと、三人組が土下座をしていた。冒険者風だけど、一体なんでこんなことを?


「なんですか? あなた達は? 迷惑なので、立ち去って貰えます?」


 俺の口からは自分でも驚くくらいの低い声が出ていた。開店して初日にこれじゃあ後が思いやられるじゃないかと思ったのと、忙しいところを邪魔されたからイラついていたのもある。


 サクヤとアオイは俺の後ろに控えている。俺が前にいるので、奴らが手に触れる位置にはいない。こういうときは俺が前に出ないとな。


 その三人組は俺の声を聞くと顔をあげた。


「俺たちは、この店が開店当初、サクヤさんへ手を出して出禁になった者です!」


 あぁ。そんなこともあったなぁ。ちゃんと出入りしていなかったんだもんなぁと、ちょっと素直な所があったのはおもしろかった。


「で?」


 また腹の底から出た声に驚く。声を聞いた三人組は震えながら頭を下げた。


「俺達、もう二度とあんなことはしません! この命に誓います!」


 三人組は震えながら頭を下げた状態でずっと動かない。これは、ずっとこうやって粘る気なのか? 二度としないって言って信用できると思ってんのかな?


 こういう人って同じことを繰り返すと俺は思ってんだよねぇ。それをどうやってやらないってこっちに信じさせるのかが問題だと思うけどね。


「なんで、俺がその言葉を信用できると思ってんの?」


「……」


 先頭の主犯の奴は言い返すことができずに黙ってしまった。横の二人はただ頭を下げているだけなのかな?


「止めなかった後ろの二人も同罪だと思ったんだけど、前の奴だけが悪いと思ってんの?」


 後ろの二人はビクリと体を震わせると、一人が顔を上げた。


「自分は! あの時止めなかったことを死ぬほど後悔しました!」


「後悔しただけじゃあ、何の意味もないけど?」


 後悔ってどんな馬鹿でもできると思うんだよねぇ。そこからどうするかっていうのが大事だと思うんだ。どうやったら改善できるのか。


 改善できてはじめてその後悔が報われるっていうか。そういうものだと思ってんだよね。何もしないんじゃ意味ない。


「三人で話し合いました! ガンバは酔うと歯止めがきかなくなるので、飲む量を徹底的に管理しました!」


 それなら大丈夫かもなぁ。でも万が一酔ったらどうするんだろう?


「それでも、このガンバってのが酔ったらどうするの?」


「自分とオーサが全力で止めて家に帰します!」


 なるほどねぇ。ちゃんとそこまで考えていると。少し酔うくらいならまだ理性は働くかもしれないしなぁ。んーもう一人はどう考えているんだろう?


「もう一人のオーサ?は本当にガンバを止めることができると思うの?」


 この子が一番小さいから止めることができるのかは疑わしい。どう思っているのかを知りたい。


 最後の一人が身体を震わせると顔を上げた。


「ボクも、全力で止めます! 命をかけても止めます!」


 その目が本気だと分かった。そこまでして、なんで三人で土下座するのか。他にも命をかけることなんてあるだろうに。冒険者なんだから。


「で? なんで土下座してんの?」


 先頭のガンバは頭を上げてこちらをまっすぐに見つめた。


「周りの冒険者は、口々に『わ』の話をするんです」


 そりゃ、冒険者のお客さんは多いからなぁ。ご贔屓にしてもらって嬉しい限りだけど、それで食べたくなったとかかな?


「それと同時に、『わ』を出禁になった冒険者の話になるんです……」


 ガンバの目は潤みだした。


「オレが原因です。オレだけ言われるのなら我慢できました。でも、一緒にいたオーサとメイルの二人のことも話に出て蔑んだ目で見られるんです!」


 その原因を作ったのは、俺か。そういう状態にしてしまったんだもんな。イジメみたいになってしまっているということか。


 自業自得だけど、まだこいつ等は若いし。自分たちで対策を練って改善策を考えて来た。そして、命を張るとまで言っている。


 ガンバは大泣きしながら訴えた。


「オレはどうでもいいです! この二人だけでも、『わ』に入らせてもらえないでしょうか? どうか、二人だけでもお許しいただけないでしょうか⁉」


 言いたいことはわかった。俺もそれに加担していると思う所もある。出禁というやり方がよくなかったのかもしれない。


「ガンバのことは、自分とオーサが全力で止めます! どうか、三人で入らせてもらえませんでしょうか⁉」


「メイルと一緒に! 僕もなにかあったら全力でガンバを止めます! どうか、三人をお許しください!」


 うーん。ここまで言っているなら考えなくもないけど、俺がどうこうよりも。問題はこいつらが客として来て、対応するのはサクヤとアオイだから二人に聞かないとなぁ。


「サクヤ、どう思う?」


「んー。まぁ、反省はしているようですし……。なんか冒険者の人たちの中で仲間はずれみたいになっているのは、ちょっとかわいそうです」


 自分たちが悪いとはいえ、ちょっとかわいそうだよなぁ。初犯だったから罰金とかにしてあとくされ内容にすればよかったかなぁ。


「私は、何かされたわけではないですけど、もうしないんであればいいのかなと思いますわ」


 周りから見れば、俺達は甘いと言われるのかもしれない。でも、まだ若い冒険者だ。やんちゃすることの一つや二つあるだろう。


 俺も自分の若いころに覚えがある。いろいろとしたけど、結局謝って許してくれたものだ。


 このままだと俺が悪者になっちまう。


 サクヤとアオイもこう言ってくれているしな。


「ふぅ。わかった。入ることを許そう」


 言葉を呟いた瞬間に、三人に笑顔が咲き誇った。


「ただし!」


 引き締めるためにあえて大きな声を出した。


「今度やったら、永久的に出禁にする。これは絶対だ。いいな?」


 三人は涙を流しながら頷いて頭を地面にこすりつけた。そして、「ありがどうございばず!」と俺をずっと呟いていた。


 このままじゃあ、見栄えが悪い。


「ここで土下座してたんじゃあ、評判悪くなるわ。中入って、カウンターに座れ。ちょうど三席空いてる」


「「「はいっ!」」」


 若い奴ってのは、失敗をするもんだ。でも、そこから学んでいく。年長者ってのは、そういう若者を見てやりながら許してやるのが役割かなと思う。


 周りの客も、三人組を温かく迎えた。店は盛り上がりを見せ、店の中の温度があがったように感じる。夜の涼しい空気の中、熱気が店を包んでいた。

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