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第102話 騒ぎの後で

 出禁だった三人組が出入りを許されたことで盛り上がった夜営業は、満席のまま終わりの時間を迎え。大繁盛のまま終わった。


 最後の方は人が来るけど、帰る人がいなくて外に並んでいる状態になり。それはよくないとあらゆるテーブルを外に出したりして路上で飲み食いしている人が出たほどだ。


 そういう野外も使っていいのなら店先にテーブル出すのもいいなぁと思ったのだった。


 その夜営業が終わって、今は住居スペースで夕食を食べているところ。余っている食材があまりなかったので、ハサミパンとか串焼きを買ってきて食べている。


「なんか、きょうさわがしかったねぇ?」


 ミリアが懸念するのも無理はない。実際に、凄く騒がしかったのだから。でも、こっちにも反省するべき点があるということがわかった。


 ただ出禁にすると、その人達が酷い目にあうと。そこまで考えてもしょうがないと思うんだけどね。


「そうだなぁ。ちょっと騒がしかったなぁ。まぁ、復活の開店初日だから、しょうがないんじゃないか?」


「まぁ、そうだねぇ。しょうがない、しょうがなーい」


 ミリアは半分眠くなっているからか、間延びな声を出している。


 今日は、本当にくたびれた。大変な一日だったなぁ。色々ありすぎて壮絶な日だった。こんな日が何日も続いたら身体が持たないだろう。


 ちびっ子組は先に寝かせて、大人組三人の時間になった。


「今日は本当に忙しかったですねぇ。ウチ、清算あっているか心配です」


「私も頼まれたのを書き忘れていないか心配ですわ」


 サクヤとアオイはよくやってくれたと思うよ。てんやわんやだったからなぁ。俺もチェックできてるかわからないから、多少間違っていても仕方がない。


「多少は大丈夫だ。よく頑張ってくれた」


 別にこの世界には税務署もなければ申告するようなところもない。少し数字が合わないくらいで困るのは自分たちなのだからいいだろう。


 そこで、朝にもらった日本酒のことを思い出した。ラベルに『にほん』って書いてあったんだよなぁ。飲みたいなぁ。


 仕舞ってあるところへ行くと瓶を取り出してグラスを三つとった。テーブルへと持っていくと、サクヤとアオイの前へとグラスを置く。


「これな、和酒っていうお酒らしいんだけど、飲んでみるか? ダリル商会のマルコさんがくれたんだ。無理にとは言わない。強いお酒だと思うから」


「ウチ、飲みます!」


「私ものみたいですわ」


 いきなり沢山入れると飲めなかったときに勿体ないからちょっとずつにしよう。サクヤのグラスに三センチくらい注ぎ、同じくらいアオイのグラスにも注ぐ。俺にだけは普通にコップ一杯注いだ。


「えぇ? なんでウチはこれだけなんですか?」


「私も?」


 二人は眉間に皺を寄せて文句を言ってきた。こっちは気遣ったつもりだったんだが、怒られてしまった。


「いや、一口飲んでみて、飲めそうだったら飲んでいいぞ? 飲めなかったらもったいないだろう?」


「むう。たしかに」


 不満そうにしながらグラスに顔を近づける。匂いを吸い込んでいくサクヤ。はぁと吐き出した顔がなんだか酔っぱらっているように見えて少し心配になる。


「無理するなよ?」


「大丈夫ですよぉ」


 サクヤはグラスを口に付けて少し口に含んだ。少し顔を歪ませたが「あぁぁぁぁ。おいしい」と疲れたOLのような声をだした。


 アオイも続くように一口飲むと、すました顔をした。


「このくらいなら大丈夫ですわ」


 と口にした。


 俺も一口含む。アルコールの香りが鼻を抜けていく。ほのかな甘さが下を刺激する。喉へと流すと口に残っている。このお酒が甘口なんだなと判明した。


 ということは、女性は飲みやすいだろう。俺も甘口の日本酒が好きだけど、女性陣も甘口を好きな人が多いだろう。


 サクヤは瓶をもってグラスへと並々に注いだ。アオイも同じく。


 これ、貴重なお酒なんだけどなぁと思いながらも、二人に出してしまったのだから仕方がないかと諦めることにした。


「なんか、つまみ用意しようか?」


 そう言いながら立ち上がる。


「「いいんですか?」」


 二人とも仄かに頬を赤くしながら見上げてきた。もうちょっと酔ってるんじゃないかと思うけど、大丈夫か?


 住居スペースのキッチンへと行くと、今日の残りのおでんを温める。これだけが余っていたんだ。最後に冒険者から気に入られて結構出たのだが、余った。


 他の食材は売り切れたから売り上げは上々だろう。一日で三百人分くらい用意してなくなったのなら、万々歳だと思う。


 実は、からしがあったのだが、これはひと際高かったのだ。だから、自分が楽しむようにしていた。それをサクヤとアオイに出してあげよう。


 小さな器にスプーンで取り、一緒にもっていく。


「これ、おでんっていうんだけど、この黄色いの付けて食べるとかなりうまい。ただ、つけすぎ注意な」


 サクヤはおでんを取るとからしを取って乗せた。そして、一口かぶりついた。


「おいっ」


 ちょっとそれはつけ過ぎじゃないだろうか。


「っ! …………っあぁぁぁぁ。からぁぁぁぁ!」


「だから、つけすぎ注意っていっただろう?」


 アオイも同じようにつけているが、食べても平気そうだ。


「んんっ! これはわさびみたいでとても美味しいですわ! つけると一段とおでんのうまみが増しますわね!」


 わさびが好きだからからしも平気か。気に入ってくれてよかった。


「アオイ、すごいな。よかったよ。気に入ってくれて」


「ねぇぇ、なんでアオイだけ褒めるのぉ? ウチはぁぁ?」


 急に寄りかかってきて顔が近い。コイツ、何した?


 疑問に思い、グラスを見ると酒がない。もしかして、辛いからって酒を飲みほしたのか?


「サクヤ、飲み過ぎだぞ。近いし……」


「近づいてるんですぅ。ウチのこと、嫌いですかぁ?」


「いや、嫌いとか、そういうんじゃないが……」


 段々と近づいてくるサクヤ。柔らかい物が腕に当たっているからやめさせたいが、動かすとまずいと思うとなにもできなかった。


「サクヤ。やめなさい。飲み過ぎですわ。リュウさんが、困っていますわ」


 アオイの目が座っていた。こっちまで背筋が凍る。


「うっ。わかったわよぉぉ。はぁぁ。飲み過ぎたみたい。寝るわ」


 なんとか危機を脱したみたいだ。あんなにすり寄られたら、さすがのおじさんスルースキルを使っても意識してしまうからなぁ。


 娘ぐらい歳の離れた子なんだ。そんなのは認められんだろう。まぁ、価値観は人それぞれか。


 胸を撫でおろしてアオイに視線を向けると、妖艶な雰囲気を放っている。


「リュウさん、私とサクヤは本気ですわ」


 そんな言葉を残し、パタリと横になった。


 今の言葉を忘れる為に、日本酒を流し込んでいく。


 次の日は、記憶がなかった。

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