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第58話 リエーレ・アミシオンとの邂逅

 しばらく厳しい目つきで騎士たちを睥睨する。

 彼らを観察しているうち、ある事実に気付いた。 騎士たちの多くが、戸惑ったようにひとりの女性騎士をちらちら伺っていたのだ。


 銀色の長髪をたなびかせる、美しい女だ。まだ若いが、彼女がこの連中のリーダーなのだろう。

 ブエルやティエラが口を揃えて挙げていた、ある人物の名前が脳裏に浮かぶ。


 俺は女性騎士を見下ろし、内心で首を傾げた。


(ずいぶんと覇気のない女だな。まさか彼女がリエーレというわけではあるまい)


 女性騎士は俺を見上げ、立ち尽くしている。その瞳は震えていて、両腕には力がなく、立ち姿もどこか地に足が付いていない危うさがあった。

 身につけている武具は立派なものだ。特に両手に嵌めた小手は相当な逸品だろう。

 これならばまだ、アロガーン姉妹を追い返したティエラの方が覇気があって強そうだ。


 ただ――顔つきから滲む自信のなさは、俺と出会った直後のティエラと似ていると言えなくもない。


 俺の興味が自分に向いていると気付いたのか。

 その女性騎士の顔に、若干の気概が戻った。他の騎士たちとこしらえが異なる大剣を掲げ、彼女は叫んだ。


「我が名はリエーレ・アミシオン! 聖風騎士団第二大隊を率いる者だ。貴殿は、かの魔王四天王たる邪紅竜で相違ないな!?」


 堂に入った名乗り。俺は目を見開いた。

 まさか、本当にこの女性騎士がリエーレだったとは。ブエルやティエラの話と、ずいぶん人物像が違うのではないか。


 内心の疑問を腹の底に置き、俺はゆっくりと「いかにも」と答えた。周囲の騎士たちがざわめく。

 そんな中、リエーレは一度、大きく深呼吸した。大剣の切っ先を、俺の顎先に向けて掲げる。


「ならば――私と勝負しろ、邪紅竜よ!」

「リエーレ様!?」


 配下と思われる女性騎士が驚きの声を上げてリエーレを見る。

 リエーレはその女性騎士には視線をやらず、俺に向けて声を張り上げる。


「第二大隊を率いる者として、誇りある聖風騎士団の騎士として、貴殿に退屈はさせないと約束しよう。その代わり」


 そこでもう一度、深呼吸。さらに声を張り上げる。


「ここにいる部下たちは見逃してくれ! 将来、我が国にとって有用な人材を、こんなところで失うわけにはいかないのだ!」

「リエーレ様、いけません! そのようなことをおっしゃっては!」


 部下の女性騎士が泡を食って諫める。

 他の騎士たちも、口々に彼女の名前を口にし、思いとどまるよう進言していた。


 なるほど。単なる腑抜けではないようだ。部下たちからの信頼も厚いと見た。

 だがそれでも、事前の印象どおりとは言えない。


 俺は言った。


「まるで新兵のような動揺振りだな、リエーレ・アミシオン。聖風騎士団第二大隊といえば、精強無比だと聞いていた。あれは嘘だったのか?」


 そう揶揄すると、周囲の騎士たちが気色ばんだ。無謀にも剣を構える者もいる。


 そんな中、当のリエーレはスッと俺から視線をハズした。気勢を上げる部下たちと対照的に、俺の言葉が真実であると、リエーレ自身が誰よりも理解しているような仕草だ。

 そして、その仕草を周りの部下たちにわからないようにしている。おそらく無意識に。


 精強無比な聖風騎士団。その中でもさらに精鋭とされる若き大隊長。

 本来なら勇者と呼んでも差し支えないほどの傑物が、なぜこのような『人間らしい腑抜け』になってしまったのか。

 騎士らしい高潔さと、平凡な人間としての卑屈さを併せ持つような人格になったのか。



 非常に興味深かった。俺は彼女を「面白い人間だ」と思った。ティエラやブエルとも違う、俺のまだ知らない人間の姿を見せてくれる存在。


 舐めていたのは、俺の方かも知れないな。


 自分の短慮を反省しながら、俺はリエーレに向けて【貪欲鑑定】を放った。


 時間が引き延ばされていく。世界の色が変わっていく。

 リエーレの姿に重なるようにして、別の映像が浮かび上がる。


『貪欲鑑定が発動しました』


 さあ、見せてもらおうか。

 俺が迎え入れるに値する人物かどうか。そのための『何か』を隠し持っている人間なのか。


【貪欲鑑定】で暴いてやろう。


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