しばらく厳しい目つきで騎士たちを睥睨する。
彼らを観察しているうち、ある事実に気付いた。 騎士たちの多くが、戸惑ったようにひとりの女性騎士をちらちら伺っていたのだ。
銀色の長髪をたなびかせる、美しい女だ。まだ若いが、彼女がこの連中のリーダーなのだろう。
ブエルやティエラが口を揃えて挙げていた、ある人物の名前が脳裏に浮かぶ。
俺は女性騎士を見下ろし、内心で首を傾げた。
(ずいぶんと覇気のない女だな。まさか彼女がリエーレというわけではあるまい)
女性騎士は俺を見上げ、立ち尽くしている。その瞳は震えていて、両腕には力がなく、立ち姿もどこか地に足が付いていない危うさがあった。
身につけている武具は立派なものだ。特に両手に嵌めた小手は相当な逸品だろう。
これならばまだ、アロガーン姉妹を追い返したティエラの方が覇気があって強そうだ。
ただ――顔つきから滲む自信のなさは、俺と出会った直後のティエラと似ていると言えなくもない。
俺の興味が自分に向いていると気付いたのか。
その女性騎士の顔に、若干の気概が戻った。他の騎士たちと
「我が名はリエーレ・アミシオン! 聖風騎士団第二大隊を率いる者だ。貴殿は、かの魔王四天王たる邪紅竜で相違ないな!?」
堂に入った名乗り。俺は目を見開いた。
まさか、本当にこの女性騎士がリエーレだったとは。ブエルやティエラの話と、ずいぶん人物像が違うのではないか。
内心の疑問を腹の底に置き、俺はゆっくりと「いかにも」と答えた。周囲の騎士たちがざわめく。
そんな中、リエーレは一度、大きく深呼吸した。大剣の切っ先を、俺の顎先に向けて掲げる。
「ならば――私と勝負しろ、邪紅竜よ!」
「リエーレ様!?」
配下と思われる女性騎士が驚きの声を上げてリエーレを見る。
リエーレはその女性騎士には視線をやらず、俺に向けて声を張り上げる。
「第二大隊を率いる者として、誇りある聖風騎士団の騎士として、貴殿に退屈はさせないと約束しよう。その代わり」
そこでもう一度、深呼吸。さらに声を張り上げる。
「ここにいる部下たちは見逃してくれ! 将来、我が国にとって有用な人材を、こんなところで失うわけにはいかないのだ!」
「リエーレ様、いけません! そのようなことをおっしゃっては!」
部下の女性騎士が泡を食って諫める。
他の騎士たちも、口々に彼女の名前を口にし、思いとどまるよう進言していた。
なるほど。単なる腑抜けではないようだ。部下たちからの信頼も厚いと見た。
だがそれでも、事前の印象どおりとは言えない。
俺は言った。
「まるで新兵のような動揺振りだな、リエーレ・アミシオン。聖風騎士団第二大隊といえば、精強無比だと聞いていた。あれは嘘だったのか?」
そう揶揄すると、周囲の騎士たちが気色ばんだ。無謀にも剣を構える者もいる。
そんな中、当のリエーレはスッと俺から視線をハズした。気勢を上げる部下たちと対照的に、俺の言葉が真実であると、リエーレ自身が誰よりも理解しているような仕草だ。
そして、その仕草を周りの部下たちにわからないようにしている。おそらく無意識に。
精強無比な聖風騎士団。その中でもさらに精鋭とされる若き大隊長。
本来なら勇者と呼んでも差し支えないほどの傑物が、なぜこのような『人間らしい腑抜け』になってしまったのか。
騎士らしい高潔さと、平凡な人間としての卑屈さを併せ持つような人格になったのか。
非常に興味深かった。俺は彼女を「面白い人間だ」と思った。ティエラやブエルとも違う、俺のまだ知らない人間の姿を見せてくれる存在。
舐めていたのは、俺の方かも知れないな。
自分の短慮を反省しながら、俺はリエーレに向けて【貪欲鑑定】を放った。
時間が引き延ばされていく。世界の色が変わっていく。
リエーレの姿に重なるようにして、別の映像が浮かび上がる。
『貪欲鑑定が発動しました』
さあ、見せてもらおうか。
俺が迎え入れるに値する人物かどうか。そのための『何か』を隠し持っている人間なのか。
【貪欲鑑定】で暴いてやろう。