「ありがとう、シャーリーちゃん」
ライラは微笑みながら言葉を返したが、心の奥底では慎重に状況を見極めていた。
(シャーリーは確かに面会の手配をしてくれた……けれど、それが本当に私の意図通りに進んでいるとは限らない)
もしかしたら、レオン・アルバートとの面会が罠という可能性もある。だが、今さら引き下がることもできない。
「それじゃあ、服を選びましょう!」
シャーリーが勢いよくクローゼットを開ける。その姿を見ながら、ライラは考える。
(彼女の行動は、敵対者のものにしては堂々としすぎている……。だとすれば、シャーリーは私を監視する役目を担っているだけなのか、それとも――)
「ライラ様は、やっぱり淡い色がお好きですか? それとも、もう少し落ち着いた色がいいでしょうか?」
「そうだね……今日は控えめな色合いがいいかな」
「了解しました! では、こちらはいかがでしょう!」
シャーリーは淡いラベンダー色のドレスを取り出した。装飾は控えめながら、品のある一着だ。
「……素敵ね。じゃあ、それでお願いしようかな」
「はーい!」
シャーリーは嬉しそうにドレスを広げ、身支度を手伝い始めた。
(この笑顔が、本当に心からのものならいいんだけれど)
ライラはそんな考えを振り払いながら、支度を終えた。
そして、約束の時間――
ライラは護衛に付き添われながら、客間へと向かった。
扉の前に立つと、中から低く落ち着いた声が響く。
「ライラ・ルンド・クヴィスト……殿。入るといい」
レオン・アルバートの声だった。
ライラは深く息を吸い込み、静かに扉を押し開ける。
「失礼します」
室内には、一人の男がいた。
長身で端正な顔立ちの騎士。黒い軍服を纏い、整えられた銀の髪が微かに光を反射する。
彼の鋭い青い瞳が、まっすぐにライラを見据えていた。
その視線に、ライラの心臓が一瞬だけ強く跳ねる。
(この人は、私をどう見ているのだろう)
敵として? それとも――
ライラは心の動揺を押し隠し、静かに口を開いた。
「お時間を頂き、ありがとうございます、アルバート様」
「……用件を聞こう」
彼の声は静かで、冷ややかだった。
まるで、かつて剣を向けられたあの瞬間が再び蘇るようで――
ライラは無意識に、拳を握りしめた。