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第16話 蘇るトラウマ

「ありがとう、シャーリーちゃん」


 ライラは微笑みながら言葉を返したが、心の奥底では慎重に状況を見極めていた。


(シャーリーは確かに面会の手配をしてくれた……けれど、それが本当に私の意図通りに進んでいるとは限らない)


 もしかしたら、レオン・アルバートとの面会が罠という可能性もある。だが、今さら引き下がることもできない。


「それじゃあ、服を選びましょう!」


 シャーリーが勢いよくクローゼットを開ける。その姿を見ながら、ライラは考える。


(彼女の行動は、敵対者のものにしては堂々としすぎている……。だとすれば、シャーリーは私を監視する役目を担っているだけなのか、それとも――)


「ライラ様は、やっぱり淡い色がお好きですか? それとも、もう少し落ち着いた色がいいでしょうか?」


「そうだね……今日は控えめな色合いがいいかな」


「了解しました! では、こちらはいかがでしょう!」


 シャーリーは淡いラベンダー色のドレスを取り出した。装飾は控えめながら、品のある一着だ。


「……素敵ね。じゃあ、それでお願いしようかな」


「はーい!」


 シャーリーは嬉しそうにドレスを広げ、身支度を手伝い始めた。


(この笑顔が、本当に心からのものならいいんだけれど)


 ライラはそんな考えを振り払いながら、支度を終えた。


 そして、約束の時間――


 ライラは護衛に付き添われながら、客間へと向かった。


 扉の前に立つと、中から低く落ち着いた声が響く。


「ライラ・ルンド・クヴィスト……殿。入るといい」


 レオン・アルバートの声だった。


 ライラは深く息を吸い込み、静かに扉を押し開ける。


「失礼します」


 室内には、一人の男がいた。


 長身で端正な顔立ちの騎士。黒い軍服を纏い、整えられた銀の髪が微かに光を反射する。


 彼の鋭い青い瞳が、まっすぐにライラを見据えていた。


 その視線に、ライラの心臓が一瞬だけ強く跳ねる。


(この人は、私をどう見ているのだろう)


 敵として? それとも――


 ライラは心の動揺を押し隠し、静かに口を開いた。


「お時間を頂き、ありがとうございます、アルバート様」


「……用件を聞こう」


 彼の声は静かで、冷ややかだった。


 まるで、かつて剣を向けられたあの瞬間が再び蘇るようで――


 ライラは無意識に、拳を握りしめた。


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