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第29話 少し褒められたくらいで、調子に乗って生意気言ってんじゃないよ!

「確かに進歩はしてますし、進歩のペース自体も、かなり速いですね。僕よりも遥かに、上達が速いです」


 寧人の成長を、ヘルガは素直に認める。


「修行を始めて一カ月と少しの頃といえば、僕は今の寧人程のことは、できませんでしたから。寧人が真剣に功夫を積み重ね、得た成果でしょう」


「ヘルしゃに褒められると、気持ち悪いんだけど」


 居心地が悪そうに、寧人は呟く。

 元々は姉弟子……師姐(ししゃ)であるヘルガを、寧人はヘルガ師姐と呼んでいた。


 だが、「ヘルガ師姐」は語感が堅苦しくて好きではないと、ヘルガが言い出し、自分でヘル姐と呼ぶように寧人に求めたのだ。

 ちなみに、ヘルガが猫系の獣人であることや、レヴァナントという妖魔になっていることも、その時に寧人はヘルガ自身から聞いている。


「少し褒められたくらいで、調子に乗って生意気言ってんじゃないよ!」


 ヘルガは寧人を小突く。


「進歩は速いが、まだまだ全然未熟なんだから!」


「まぁ、確かに未熟だね」


 夢琪も、ヘルガの意見に同意する。


「氣級は順調に上昇しているし、技や術の上達も速いんだが、戦い方が下手過ぎる」


「教えられてもいない筈の爆氣砲を、いつの間にか身につけていたり、確かに技や術の上達度合いは、かなりのものだけど……」


 微妙な表情で、ヘルガは言葉を続ける。


「戦い方が下手過ぎて、戦いに生かせていないですね」


 ヘルガの言う通り、爆氣砲は夢琪やヘルガ……ジーナなどに習った技ではない。

 弾が修行や学習に使っていた資料の中に、爆氣砲の修行法が解説してある書物があったので、寧人が独学で習得したのだ。


「修業熱心なのはよいことだが、技や術の独学独習は、程々にしておきなさい。修行のし過ぎは身体には毒だし、上達を遅くしてしまうこともあるんだ」


「あ、はい! 分かってます!」


 夢琪の言葉に、寧人は返事をする。

 洞天福地での修行は、厳しくはあるのだが、時間は一定の範囲に限られている。


 身体を酷使する震天動地の修行を、一日の内に長時間行えば、身体を壊してしまったり、疲労を蓄積してしまう。

 疲労の蓄積は、大怪我の原因になりかねない。


 身体回復関連の術の達人である夢琪なら、大抵の負傷や疲労から、回復させることはできる。

 だが、大きな負傷は、治療に日数がかかり、結果として修行を長引かせることになってしまう。


 それに、人が一日の内に集中できる時間は、限られている。

 集中力が続かない時間に、ダラダラと修行を続けるのは、効率が悪いし、大怪我を引き起こしやすい。


 故に、夢琪が作った寧人の修行スケジュールには、自由時間が多いのだ。

 ちなみに、寧人は自由時間の多くを、武仙幫への恩返しの為、八卦溫泉の業務などの手伝いに使っている。


 夢琪から、修業のし過ぎは控えるように、何度も注意を受けているので、爆氣砲も毎日少しづつ修業を積み重ね、習得したのだ。


「……そういえば、ヘル姐は何で俺の爆氣砲に対処できたの?」


 寧人は不思議そうに、ヘルガに訊ねる。

 密かに修行して習得した、隠し技の爆氣砲に、あっさりと対処されたことが、寧人は不思議だったのである。


「僕の飛彈踢ひだんてきをかわした後、寧人は氣砲を一発放ってから、すぐに二発目の氣砲を放っただろ?」


 ヘルガの問いに、寧人は頷く。


「でも、二発目の氣砲の後、寧人は三発目の用意すらせず、僕の方を見ていたよね?」


 その通りだったので、寧人は頷いて肯定する。


「一発目と二発目では、氣砲を放った後の行動が違った。その上、攻撃や防御に備える動きを見せず、寧人が僕の方を注視していたの見れば、二発目の氣彈が一発目とは違う性質の奴だと、察しがついたよ」


 ヘルガに指摘され、寧人は自分の爆氣砲が通じなかった理由を、思い知る。


「あの時は、何食わぬ顔して、三発目の氣砲を放とうとする素振りを、見せておけばよかったんだ。そうすれば、僕は二発目を警戒せず、硬身功に切り替えなかっただろうから」


「爆氣砲を放った後、爆氣彈を爆発させることに気をとられ過ぎてたのが、拙かったんだな」


 寧人の言葉に、ヘルガは頷く。


「自分がやろうとしていることばかりに、意識を捉われ過ぎているんだ。何度も言ったことだけど、もっと戦っている相手や、周囲の状況に意識を配るようにしないとね」


「……そうするように、心がけてはいるんだけど、戦ってると、つい焦っちゃって……」


 頭を掻きながら、寧人は言い訳をする。

 何度か同じような助言や指導を、夢琪やヘルガ……ジーナなどに受けていたのだが、同じような失敗を繰り返してしまっていたのだ。


「それと、全体的に判断が遅いし、動きに迷いを感じさせる場面が多い。どうすべきか考えることに捉われ過ぎで、動きが鈍ってる時が多いだろ?」


 ヘルガの言うことは、図星であった。

 爆氣砲を防がれた直後などが、その典型といえる場面だろう。


 焦った状態で、どうすべきか考えた結果、動きが鈍り過ぎてしまい、突撃してくるヘルガから逃げることもできず、あっという間に懐に飛び込まれてしまったのだ。

 その時を思い出し、寧人は渋い顔をする。自分の未熟さを、改めて思い知ったので。




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