ようやく気持ちを告げることができたカレンは、ファウストと共に魔天城へと戻ってきた。
私室へ戻ると賢者たちが勢揃いしていて、ファウストは面食らった表情を浮かべている。
「まったく、やることが極端なのよ」
「そもそも俺がファウストを見捨てるとでも思ったのか?」
「ごめん……」
ファウストが真っ先にサーシャとレイドルに叱られた。
カレンがファウストを迎えに行くと伝えた時、賢者たちは部屋で待っていてもいいかと言い出した。
賢者たちがファウストを心配する気持ちは、痛いほど理解できた。どれほどファウストが大切にされているか、本人に気付いてほしいのもあってカレンが快諾したのだ。
ショボンとしたファウストの様子を見る限り、ちゃんと伝わったようである。
「そうよ! なにかあったら言えって言ったのにぃぃぃ!」
「なあ、ファウスト。オレたちってそんなに頼りないか?」
「ファウストも大切な仲間だ」
マージョリーは泣きながら怒っていて、リュリュは頼られなかったことにショックを受けている。セトも珍しくむくれた顔で口をへの字にしていた。
「みんな、本当にごめん……ちょっと周りが見えてなかった」
「そうよ。ファウストの後遺症の治療法は私が見つけ出すわ。どんなに困難なことでも……どんなことをしても、必ず」
カレンも力強く宣言して、今後のことを話しはじめる。
「じゃあ、集めた情報を整理しようか。サーシャ、頼む」
レイドルはファウストの居場所だけでなく、究極魔法の副作用についても情報を募ってくれていた。サーシャは集められた膨大な情報を振り分け、まとめて頭に叩き込んでいる。
「まず、究極魔法を使いこなせる賢者が限られているけれど、聖教会の書庫に古い文献があって詳しい記載が残っていたわ」
「ふふふ、わたしが師匠に掛け合ったのよ」
得意げに胸を張ったマージョリーに、ファウストは「ありがとう」と礼を言った。
「その文献によると、身体が崩れていくのは、魂に傷がついて魔力の回路が切断されて魔力が漏れ出てしまうからよ。その傷を修復して、たくさんの魔力を吹き込めば肉体は元に戻るわ」
魔力を含むものには魔力の回路というものが存在していて、その流れが滞るとさまざまな不調が現れる。
魔力の流れが止まったら身体をうまく動かせなくなったり、動きが鈍くなったり、物質であれば脆くなったりするのだ。
「でも、魂と魔力の回路ってどこでどう繋がってるんだ?」
「魂はその個体のあらゆる情報を刻み込んでいて、魔法による負荷がかかると該当する部分が損傷するの。これが精神的な負荷だったら精神に異常をきたすし、肉体的に負荷がかかったら眠り続けるのよ」
リュリュの問いかけにサーシャが答える。そこでカレンは闇の賢者ロニーのことを思い出した。
(肉体的な負荷……ロニー様のことかな。もうずっと眠り続けていて、目覚めていないわ。ファウストの治療法が見つかれば、同じように治せるかも……)
「魔力の回路が切断されると、通常であれば睡眠で回復するはずの魔力が元に戻らないから、どのみち最終的には死を迎えるわね」
「生きているだけで魔力は消費するからな。となると、ファウストの現在の魔力も……」
「うん、全盛期の半分まで落ちてる。日常では困らないけど、いざという時は役に立たないと思う」
重苦しい空気が室内に漂う。
サーシャは冷静に話しているように見えるが、頭の中では猛スピードで解決方法を模索しているのだろう。眉間に深い皺が寄っていた。
「その時は私がファウストの盾になり、剣となります。絶対にファウストを守り抜きます」
覚悟を決めたカレンは真っ直ぐに前を向いて宣言する。
賢者たちは顔をほころばせ、ファウストはうっとりした表情でカレンをじっと見つめていた。
「まあ、その辺は心配していないさ。俺たちもいるし、腐ってもファウストは賢者だからな。魔力が少ないなら、少ないなりの戦い方がある」
「では、この後はそれぞれ治療法を模索しましょう」
レイドルはファウストに全幅の信頼を寄せているようで、あまり心配はしていない。賢者たちも同様の反応だった。
サーシャの声かけで賢者たちは部屋を後にして、究極魔法の後遺症の治療法について調べはじめた。
賢者たちを見送ったカレンとファウストは、夫婦の部屋でふたりきりなった。
「ファウスト……おかえりなさい」
そう言って、カレンは愛しい夫にギュッと抱きつく。
「ただいま。カレン」
ファウストも包み込むようにカレンを抱きしめて耳元でそっと囁いた。待ち切れないという様子で、ファウストがカレンに噛みつくようなキスをする。
甘くて激しい口付けでカレンは立っていられなくなって、ますますファウストにしがみついた。
そんなカレンをもっと見たいと思ったファウストは、こう提案する。
「はあ、これからキスを日課にしよう」
「えっ!」
「駄目……?」
「駄目、じゃない……」
そしてもう一度、唇を重ねた。