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 アーロンはジャックの情報と自分で見聞きした情報を合わせて、オルジュ領の領地経営は健全なものだと判断した。

 そして、一度は領主として顔を出すべきだろうとアーロンは王都に戻り、先触れの手紙(魔導列車郵便)を出した。

 その3日後、リートとヒューバートを伴い、貴族らしい格好でアーロンは、王都からオルジュの城塞都市ミュースに魔導列車で向かった。

 ミュースの駅で降りると、待ち構えていたのか、一人の従僕らしき青年がやってきた。


「失礼ですが、オルジュ伯爵様でいらっしゃいますか?」

「そうだ、こちらの御方がオルジュ卿だ」


 ヒューバートが応える。


「外に馬車をご用意しております。こちらへどうぞ」


 青年についていくと、品の良い黒の馬車が外に置かれているのが見えた。

 馬車には紋章が描かれている。

 青い空のような紺碧の盾の上に、眠る白いドラゴンと黒い一振りの剣、金色の麦畑が描かれている。

 これは、オルジュ伯爵の紋章だ。

 国王と宰相が絵描きに考えさせた紋章で、アーロンはこの紋章の指輪を渡されている。

 身分証明にもなるし、印章としても使えるので便利だ。

 因みに、ヴァルト男爵の紋章は深い青の盾の上に、眠る白いドラゴンと黒い一振りの剣、白い森が描かれている。白い森は雪に覆われた森を表している。


「どうぞ」


 青年が馬車の扉を開ける。


「ありがとう」


 そう言ってアーロンは中に入った。

 青年が御者席に座り、馬を繰る。

 馬車は領主館へと向け走り始めた。


「そういえば、ヴァルトはどうだった?」

「スパイが何人かおりましたので、捕まえました」


 リートが応える。


「そうなんだ」

「スパイの内、数名はアーロン様を攫うことを目的としておりましたので、なるべく一人にならないようにお気をつけ下さい」

「分かった」

「まあ、アーロン様の近くには精霊様がいっぱいいるんでしょう?大丈夫じゃないですか?」


 ヒューバートはそう言った。

 確かに、この5年で契約した精霊王は増えており、アーロンの周りには姿を隠した精霊王達がうようよいる。


「万が一のことがないようにだ」


 その事実を知る一人であるリートも万が一のことはない可能性が高いと知っているが、念には念を入れるタイプなので、用心には用心を重ねるのだ。


「到着しました」


 いつの間にか領主館の前に馬車が停まっていた。


「降りよう」

「「はい」」


 3人は馬車から降りて、領主館に案内された。

 領主館の入口で待っていたのは、役人らしい真面目そうな男たちと、少し身なりの良い、これまた真面目そうな中年の男だった。

 茶髪に茶目というポピュラーな色を持つ中年の男は、前に出て、お辞儀した。

 他の役人たちもお辞儀をする。


「頭を上げて下さい」

「「はっ」」


 男たちは頭を上げた。


「オルジュ伯爵となったアーロン・フォン・シュタインという。よろしくね」


 アーロンは貴族らしい礼をした。

 慌てて礼を返した中年の男は口を開いた。


「私、代官を務めさせていただいておりまする、カルロス・マッケンジーと申します。何卒、よろしくお願いいたします」


 アーロンはカルロスとの挨拶後、役人の5名と自己紹介をし、ここに連れてきた青年とも自己紹介した。

 カルロス以下7名は、アーロンの身分を気にしない様子に感銘を受けていた。

 そして、彼らが要望しようとしていたことが通るかもしれない、という期待を抱いていた。


「オルジュ卿」

「アーロンでいいよ」

「では、アーロン様。是非、執務をしていただきたいです。領主様のサインを頂かなければならない書類が山のようになっております」

「へっ」


 呆けたような声を上げたアーロンは、カルロスに引き摺られるようにして領主館に入っていった。


(ジャックの奴、知ってて報告しなかったな……!)


 アーロンは敢えて報告しなかったであろうジャックを恨みつつ、執務室に軟禁されることとなった。





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