俺はエレツ王国の南にある農村で産まれたボビー・ワイルダー。
今は王都や旧ヴェーテ領である現オルジュ領、ルラック領など、中央と呼ばれる地域を中心に行商をしている。
エレツ王国はここ一年程で様変わりした。
線路と呼ばれる道ができて、その周りにゴーレムが鎮座していたり、その線路の上を魔導列車という乗り物が凄い速さで行き来したりと、全く違う世界に来たような変わり様だ。
線路によって分断されたりしないのかと不安に思ったが、一定間隔ごとに踏切と呼ばれる場所があり、通れるようになっている。
山脈はどう越えるのかと行商人仲間と話していたら、他の行商人が説明してくれた。
なんでも、トンネルという洞窟を掘ったり、高架という橋のようなものを作って対応しているらしい。
これを造った方はオルジュ伯爵でまだ10歳だ、と聞いた時はビックリしたものだ。
行商人仲間たちは凄い神童だろうと噂している。
最近、気づいたことだが、線路には魔物が寄ってこない。
しかも、線路周辺の魔物はゴーレムが狩り尽くしていない。
他にもそのことに気付いた者は多いようで、商人や行商人、傭兵、果ては冒険者までが線路沿いに歩いて目的地まで赴くことが多くなった。
冒険者は線路沿いに歩かないでも良いのでは、と知り合いの冒険者に聞いたが、「依頼の前に余計な体力を使わない方が良いんだ」という答えを貰った。
それでも、冒険者なのか、と内心思ったが、口には出さなかった。
そうして、線路という新しい安全な行路を得た商人、行商人、傭兵、冒険者などの行き来は増えていった。
線路が特殊な鉄で出来ていることを知った一部の商人が親しみを込めて線路を鉄道と呼び始めると、いつの間にか浸透して、線路と魔導列車の総称になった。
俺たちは一度は魔導列車に乗ろうと休みの日を合わせて一緒に乗ってみた。
魔導列車は、もう凄いのなんのって。
まず、外観がめちゃくちゃカッコいい。
黒い車体に金色のカッコいい模様が入っていて、凄いカッコいい。
俺の語彙力では表現できないくらいだ。
中も綺麗で清潔な感じだ。
内装はベージュと紺を基調としている。座席はベージュと紺でカッコいい感じになってる。
座り心地も最高だった。
俺たちが買った切符は一般車両だったけど、もう貴族車両にいるかと思うくらいに座り心地が良かった。
俺たちは周りの乗客に迷惑が掛からないくらいの声で話していると、魔導列車が発車するという車内アナウンスというものが流れた。
暫くして窓の向こうの景色がどんどん過ぎ去っていくことに気付いた俺たちは興奮して窓に張り付いていた。
「あのぅ」
声を掛けられて俺たちは振り返る。すると其処には可愛らしい女性が可愛らしい服を纏って、そこにいた。
サンドイッチなどの軽食や飲み物などを載せたカートというものを押して来たらしい。
俺たちは、サンドイッチと珈琲を買った。
珈琲は魔導具から温かい状態で出て、木製コップで手渡された。
本当に温かくて俺たちはビックリした。
俺たちはサンドイッチと珈琲を美味しくいただき、窓の外の景色を楽しんでいた。
「次は、ノルド駅〜ノルド駅〜」
いつの間にか乗り過ごして北の公爵領に来ていたことに気付いた俺たちは慌てて降りて、駅員さんを捕まえた。
「ああ、大丈夫ですよ、駅から降りずに反対側のホームで王都に戻る魔導列車が出てますので、そちらに乗って目的地で降りて下さい」
なんて親切。そして、なんて良心的なシステムなんだろう。
俺だったら乗り過ごした分だって請求してると思う。
俺たちは感動しつつ、目的地のオルジュ駅に向けて旅立った。
「はぁ、ちゃんとオルジュに着いた、良かったぁ」
改札を通って外に出ると、仲間の一人が安堵して、そんな言葉を溢した。
「お前が窓の外に夢中だったから気が付かなかったんじゃないか?」
「おめぇだって夢中だっただろう」
「まあ、あんな凄い乗り物は初めてだからな、仕方ない」
「そうだな」
俺たちは楽しく話しながら、街へと入るために門の方へ歩いた。
(また、乗りてぇなぁ)
俺は、後に乗り鉄と呼ばれるようになるのだが、まだ、この時はそんなこと思いもしていない。