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学べよ若人

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 エレツ王国歴327年雷月10日。

 王国が誇る多種多様な学部を備えた王立アラバスター学園の入学式が行われる日だ。

 学園の名であるアラバスターは、創始者の苗字から付けられたものだ。

 アーロンは白と紺を基調とした制服を纏い、会場に整然と並べられた椅子の一つに座っていた。

 因みに女子は白と深紅を基調とした制服だ。男女で別の色が採用されている。

 入学式は順調に進む。


「新入生代表、マグノリア・ミーティア・エレツ様。よろしくお願いします」


 マグノリアは壇上に上がり、マイク(魔導具)に向かって声を発した。


「秋の息吹が感じられる今日、私たちは王立アラバスター学園に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます」


 話が長くなるので、中略するが、マグノリアのしっかりとした挨拶を聞いて、流石は入試1位だと、アーロンは感心した。

 因みに、アーロンは入試2位だった。筆記が12位で、実技が1位という内容だった。

 マグノリアは筆記が1位。実技は2位だった。


「伝統ある王立アラバスター学園の一員として、責任ある行動を心がけていきます。校長先生を始め先生方、先輩方、どうか暖かいご指導をよろしくお願いいたします。……以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」


 マグノリアは一礼して、座っていた席に戻った。

 次に在校生歓迎の挨拶を、生徒会長である第二王子シリウスが務めた。

 来賓の祝辞(宰相が務めた)などが終わると、やっとクラス毎に移動となった。

 アーロンは一番優秀な者が集まるSクラス。

 集団に紛れつつ、影を薄くしつつ、アーロンはクラスに入った。

 自分の名前が書いてある札が置かれた机に座り、素早く札を隠した。


「わ、君が噂の神童アーロン君か?」


 後ろから明るい声でそう呼ばれたアーロンは、ぎぎぎ、という音でもしそうなぎこちなさで振り返った。

 そこにはライトブラウンの髪と緑の瞳を持った美少年がいた。


「えっと、たぶん。そういう君は?」


 美少年はにこっと笑う。


「僕はエスト公爵令息ジェイド・フォン・リバーズ。つまりは宰相の息子だね」


 アーロンは固まった。そして、思わず本音が出た。


「似てないね」

「ああ、確かに。僕、母上に似たからなぁ、妹は父上に似てるよ」

「わたくしが何か?」


 ジェイドの後ろから顔を覗かせたのは、ダークブラウンの髪と鮮やかな緑の瞳を持つ美少女だった。ちょっと吊り目がちなところは宰相に似ている。

 彼女はイザベラ。

 アーロンとは既に対面済だ。

 因みに、イザベラとジェイドは双子だ。


「まあ、アーロン様!」


 イザベラはアーロンを見ると目を輝かせ、頬を染めた。


「入学試験2位おめでとうございます。それから、伯爵になられたとお聞きしましたわ。本当におめでとうございます」


 イザベラは微笑み、アーロンをたたえる。


「ありがとう。イザベラ嬢は4位だったよね、凄いよ」


 イザベラは筆記3位、実技5位だった。


「いえ、マグノリア王女殿下には負けましたので……次は勝ちますわ。アーロン様に負けても、マグノリア殿下には負けられませんもの」

「よく、分からないけど、頑張ることは良いことだと思うよ?」


 アーロンは、女の戦いを垣間見たような気がした。


「アーロン様?」


 アーロンが後ろを振り向くと、マグノリアがいた。

 アーロンが振り向くと満面の笑みになったマグノリアは、はっとして、淑女然とした笑みを浮かべた。


「おはようございます、アーロン様」

「うん、おはよう。マグノリア殿下」


 マグノリアはアーロンの後ろにいるイザベラとジェイドに気づいた。


「おはようございます、ジェイド様、イザベラ様」

「「おはようございます、マグノリア殿下」」


 二人に挨拶したマグノリアは、アーロンに向き直って、もじもじとしつつ、口を開いた。


「その、アーロン様、……わたくし、1位を取りましたわ」

「うん、そうだね」

「……約束、守ってくださいますよね?」


 アーロンは1週間程前に、マグノリアと会話したことを思い出した。


「あ、……デートに行くって言ったね」


 マグノリアが1位になったらデートをする約束をしていたことをアーロンは思い出した。


(スルス帝国への工作内容を考えたり、話し合ったり、指示したりするので大変だったから、すっかり忘れてた)


 マグノリアは頬をほんのり赤く染め、上目遣いでアーロンを見つめた。


「だめ、ですか?」

「ううん、勿論大丈夫だよ」


 マグノリアが可愛くてアーロンはすぐに了承した。

 後ろでイザベラが悔しげにマグノリアを見ているのに気がつくことはなかった。


(女の子って怖いなぁ)


 と、ジェイドは思った。

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