迎えた謳歌日(土曜日に相当)。
アーロンと愉快な仲間たちこと、第二王女殿下と公爵令嬢と公爵令息たちは、ヴァルトの競技場にいた。
転移門を使い、ヴァルトまで来たのだ。
「まず、一人ずつ得意な魔法を全力で出して欲しい」
「では、わたくしから」
マグノリアが前に出て、手を掲げる。
「【光の鉄槌】」
光属性の上位魔法だ。
上空に生まれた光でできた巨大な
地面はその衝撃で抉れたような穴が空いた。
が、不思議なことに穴は徐々に埋まっていき、暫くすると平らになった。
「……アーロン様?」
マグノリアはアーロンに問う。アーロンはマグノリアの雰囲気に圧を感じた。
「えっと、この競技場の地面には小さな石が細かく混ざっていて、自動修復の魔法を付与してあります。あと、観覧席には結界が張ってあるから、どんなに攻撃してもお客様に危害は及ばないようになっています」
思わず敬語になるアーロン。
「普通は地面が自動的に修復されることはありませんが……、アーロン様は本当に規格外ですわ」
マグノリアは溜息をつく。
「うん、ボクも地面がうようよって動いて元に戻るのは可笑しいかな、と思う。アーロン君って本当に規格外だね」
サーシャは面白いと思っているのか笑っている。
「これはちょっと……アーロン様、規格外すぎですわ」
シルヴィアは苦笑している。
「……今回はマグノリア殿下と同意見ですわ」
イザベラが何故か悔しげに言った。
「……規格外、だと思います」
メイヴィスは控え目に言った。
「ま、まあ、魔法がいっぱい使えるから、良いんじゃないかなぁ」
ジェイドは苦笑した。
「そうそう、ジェイドの言う通り。どんなに魔法を使っても壊れないからさ」
アーロンはへこたれずに胸を張った。
「分かりました。……さあ、皆さん、魔法を使ってみましょう。アーロン様に現状を把握してもらわねばなりませんもの」
マグノリアは溜息を溢しつつ、全員に向かって言い放った。
マグノリアの言葉に四大公爵令嬢、令息たちは魔法を使うことにし、それぞれ人にぶつからない場所に立った。
彼らが魔法を放つ様子を魔力視で観察していたアーロンは口を開いた。
因みに、この魔力視はアーロンが目に魔力を集めて魔力が見えないか試していたら、生えたスキルだ。
「みんなは外在魔力を使わないの?」
外在魔力は空気中に在る魔力のことを言う。
身体の内にある魔力のことは内在魔力と言う。
この名称は王城の王家の書庫にあった【魔力の真髄】という蔵書に載っている。
因みに、魔力の真髄は初版がエレツ王国歴27年のもので、作者はエリン・フローレス。当時の賢者だ。
「外在魔力……ですか。魔力の真髄、エリン・フローレスの著書に出てきましたね」
マグノリアは流石、王族といったところだ。
「あ、僕も知ってる。でも、さらっと名称と説明が出ただけで、使い方は分からなかったよね」
意外にもサーシャが知っていた。
他の公爵令嬢や令息は知らないようだ。
「うん、でも、魔力感知と魔力操作を極めると、外在魔力も感知して操作出来るようになるよ」
「へぇ、どうやったら極められるんだろう?」
ジェイドが疑問を口にした。
「それはね」
アーロンが笑顔で言った内容に、全員が顔を引き攣らせた。
魔力感知と魔力操作の訓練を始めてから1ヶ月後。
中間試験も終わったので、訓練に集中していた仲間たちは全員、外在魔力を感じ、操作できるようになっていた。
が、彼らは嬉しそうというより、やっと解放されたような安堵した表情を浮かべていた。
「やっと、解放されましたわね」
「うん、キツかった。ボク、魔力操作しながら少しずつ魔力放出するのが大変でさ」
「それよりも魔力を全部出し切るのが辛いですわ」
「でも、魔力を全部出し切ると気絶するのは知りませんでしたわ」
「……辛かったです」
「今回は大変だったなぁ」
上からマグノリア、サーシャ、イザベラ、シルヴィア、メイヴィス、ジェイドの順だ。
因みに訓練内容は、魔力を操作しながら少しずつ魔力を全て出し切るまで放出するというもので、全員就寝前に行っていた。
魔力を出し切ると気絶する為だ。
「でも外在魔力を操作して魔法を使えるようになったし、魔力も増えたから、良かったでしょ?」
全員がアーロンをジト目で見た。
((鬼))
アーロン以外の全員が同じことを思った。
だが、アーロンの言っていることは事実なので、反論することはなかった。
「まあ、宮廷魔法士にも負けない程にわたくしも皆様も強くなりましたもの、文句はありませんわ」
そう、マグノリアと令嬢、令息たちは宮廷魔法士にも負けない強さを身に着けた。
これは、宮廷魔法士をよく知るマグノリアとマグノリアの侍女の感覚での予想だが、実際に比べても予想と変わりないだろう。
それくらい全員強くなった。
「来週は初めての魔法課外実習ですから、楽しみですわ」
魔法課外実習とは、王都の外の平原で魔法を思いっきり使うという実習のことだ。
馬車などが通る街道から外れたところで行うので、外部の怪我人は出ないだろう。
「ボクは、ボクたちの魔法でみんながドン引きしそうな気がして、ちょっと怖いよ」
サーシャの言葉にアーロン以外の皆が頷いた。
アーロンは首を傾げていた。
その様子に気づいていたマグノリアやシルヴィアは互いに顔を見合わせ、苦笑した。