魔法課外実習の日がやってきた。
午前9時にSクラスの生徒は皆、学園前に集合していた。
寮生は勿論、王都の自宅から通っている者など誰一人欠けずにいる。
因みに、アーロンと愉快な仲間たちは皆、自宅から通っている。
アーロンは主に王都にあるオルジュ伯爵邸から通っている。偶にヴァルトに帰ってヴァルトから通うこともあるが。
「集まったようだな、全員!注目!」
やってきたのは、1年生の魔法の教師エリザベート・フォン・フォックス。
エリザベートは東部にあるツヴィーベル伯爵家の令嬢だが、結婚はせずに魔法を探求しつつ教師をしている変わり者と呼ばれている。
茶髪に茶色の瞳を持ち、大人しくしていれば美女と呼べる容姿をしている。
「今年は規格外がいるが、皆、自分の最善を尽くすように!間違っても周りの生徒に魔法を向けることはしないようにすること!いいな!」
「「はい!」」
「よし!では、出発!!」
引率の教師はエリザベートだけではない。
エリザベートの補佐として、錬金術と剣術の教師が後ろから生徒を見守っている。
一行はトラブルに見舞われることなく、王都を抜けて平原に出た。
街道から遠く離れたところまで来ると、エリザベートは振り返った。
「諸君!これから魔法課外実習を始める。まず七人一組を作ること!」
Sクラスは35人いるので、七人組は5つできるだろう。
生徒たちは話し合いつつ、七人一組を作った。
アーロンたちはいつものメンバーで7人組を作った。
「七人一組できたようだな、では、一組ずつ魔法を放て。遠慮はいらん」
生徒たちは順番を守って魔法を放っていく。
まだ、子供なので規模は小さい。
暫くして、アーロンたちの番になった。
「ねぇ、本当にやるの?」
サーシャは不安そうだ。
「うん」
アーロンはなんともないような表情で返事をする。
「遠慮はいらないということですし……」
マグノリアは苦笑しつつ、並んだ。
「まずはボクからだね、【巨岩の壁】」
ジェイドは張り切って超級土属性魔法で巨大な岩の壁を造った。高さだけなら王都の城壁よりも高い。
「お兄様、張り切り過ぎですわ、【偉大なる巨木】」
イザベラは超級木属性魔法で巨大な岩を包むような巨木を生成した。
「……【炎舞・龍】」
メイヴィスは上級火属性魔法【炎舞】の改良版を使った。
龍の形をした炎が勢いよく放たれ、巨木を燃やし尽くす。
「【慈雨】」
シルヴィアは上級水属性魔法で雨を降らせた。普通の慈雨よりも範囲も量も多い。
この魔法、火を消す以外にも、範囲治癒効果があるので、重宝される魔法だ。
「【亜空・滅】」
サーシャは上級空間魔法の改良版を使った。
真っ黒な巨大な球体が巨岩を包み込み、消えた。
亜空は亜空間に収納するものだが、亜空・滅は亜空間に入れると同時に滅する魔法だ。
「【慈悲の光雨】」
マグノリアが超級光属性魔法を使った。
光の雨が大地に降り注ぐと、草や花が生えてきて、一面が花畑になった。
「【胡蝶の幻想】」
アーロンが超級闇属性魔法を使った。
花畑に青い美しい蝶々が飛び交う幻惑魔法だ。
この蝶々に触れると一瞬の内に眠ってしまう効果があるが、離れた場所に出現させたので、問題ないだろう。
暫くして蝶々が消える。
アーロンたちが振り返ると、ぽかんとした表情の子供たちと教師たちがいた。
「……ブラボー!!」
エリザベートが歓喜の声をあげた。
他の教師や生徒たちも歓声を上げる。
たくさんの歓声と盛大な拍手を受け、アーロンや仲間たちは頬を紅潮させ、笑い合った。