メイヴィスのレベリングと熱砂の遺跡の攻略を一緒に行ったアーロンは、熱砂の遺跡を支配すると、メイヴィスをアラビアン風の領主館に送り届けた。
「レベリングは一旦、これで終わりだけど、また、レベリングしたくなったら、ヴァルトバングルで呼んでね」
「はい、れべりんぐしたくなりましたら、チャットしますね」
メイヴィスは大事そうにヴァルトバングルに手を添えて、微笑んだ。
(アーロン様と二人きりの時間が終わってしまったのね)
メイヴィスは大事な時間の思い出を、とアーロンの手を握った。
「?どうしたの、メイヴィス」
「アーロン様、少し失礼しますね」
メイヴィスはアーロンの頬に口付けた。
「!」
「で、では、わたくしは帰りますわ。アーロン様、色々ありがとうございました!わたくし、とても楽しかった」
メイヴィスは頬を染めつつ、アーロンにお礼を言って、領主館に入っていった。
アーロンは頬を染めたまま、ちょっと動揺していたのか、その場で転移した。
アーロンがいきなり消えたのを見た門番がギョッとしていたが、既にこの場にいないアーロンは気付かぬままだろう。
ヴァルトの新領主館前に転移したアーロンは、新領主館で着替え、領都アルディージャを散策することにした。
色々な店が出店されている中、行列ができている店があった。
本屋だ。
アーロンは行列の最後尾に並んでいる女性に声を掛けた。
「すみません」
「!!?レジェンドアーロン様……はっ、なんでしょう?」
「??あの、この行列はなんでしょうか」
「その、……【アーロンの伝説】という書籍の新刊を購入する為に並んでいます」
「は?……あ、すみません。ちょっと詳しく聞かせてくれませんか?」
一瞬険しい表情を浮かべたアーロンは、笑顔を張り付けて、女性に問う。
「分かりました……」
アーロンの伝説は、三歳のアーロンが石の王というスキルでとんでもないものを作ったり、凶悪な魔物を屠ったりして、故郷であるヴァルトを豊かにしていくスペクタクルストーリーだ。
ファンの間では、アーロンのことをレジェンドアーロンと呼んでいるらしい。
(事実だから反論できない……いやいや、というか、僕の了解もなく勝手に物語にしてる時点で良くないでしょ)
アーロンは教えてくれた女性に礼を言いつつ、新領主館に戻って、領主の執務室に突撃した。
「父上!」
「ああ、よく来たな、アーロン」
執務をしていたロベルトは手を止めてアーロンを笑顔で迎えた。
「【アーロンの伝説】を許可したのは父上ですか?」
「ん?ああ、あの本はなぁ」
ロベルトは懇々とアーロンに語った。
アーロンの伝説を書きたいと言ってきた作者がいたこと。
ソフィアがアーロンのシンパを少しでも多く作って、アーロンの味方を増やしたいが為に、独断専行で許可したこと。
ロベルトは事後報告で知ったことを。
「アーロン。お前の母上はな、お前のことを本当に心配しているし、愛しているんだよ。だから、許してやってくれ」
「……うん」
「それにな、売り上げの一部はお前の口座に母上が入金しているらしいぞ」
「銀行に全然行ってないから気付かなかった……」
アーロンは冒険者活動で稼いだお金をヴァルトバングルに入れているので、お金には困っていなかった。
「お前が思っている以上に、ソフィアも俺もお前を愛してる。お前がとても大切なんだ。俺たちに心配を掛けても良いが、無理のし過ぎはしないようにな」
そう言ってロベルトは笑顔を浮かべた。
アーロンは涙が零れそうになるのを堪えつつ、微笑む。
「うん、ありがとう。父上」
アーロンは今、ここにいない母ソフィアにも内心で感謝した。