夏休みが終わる頃、アーロンはエレツ王国中のダンジョンを全て支配下に治めた。
東部でイザベラの息の掛かった冒険者たちに捕まって東の公爵領で何日かイザベラの相手をしていた為、ダンジョン【深緑の森林】に挑戦するのが遅くなったこと以外はスムーズな攻略ができた。
状態異常や精神異常、魔法や物理、環境などの耐性スキルを主に獲得したアーロン。
支配下に治めたダンジョンは元のまま改造せずに運営している。
他の貴族の領地にあるので勝手に改造したくなかったのだ。
ただ、アーロンが勝手に手を加えることができるところは改造した。
ヴァルトのダンジョンはアーロンがセーフティエリアにした2層と3層に施設を追加しまくったことにより、観光客が増加した。
ついでにオルジュのダンジョンも魔改造して、こちらにも観光客を呼び込んでいる。
王都に戻ってきたアーロンの屋敷には山のように招待状が来ていた。
魔導トイレが普及したことで会談の予約は減ったが、優良物件であるアーロンをお茶会に誘う令嬢たちが増えた為だ。
十歳以上年上からの招待は勿論、全ての招待を丁重にお断りするように執事長や執事に指示したアーロンはヴァルトバングルに連絡が来ていることに気付いた。
マグノリア︰突然すみません、アーロン様。お時間あるときにご返信下さい。
アーロン︰返信遅くなってごめん、マグノリア。どうしたの?
マグノリア︰せっかくの夏休みにアーロン様と一度も遊ばないのは寂しくて……明日、アーロン様の1日を頂けませんか?
アーロン︰僕は大丈夫だけど、マグノリアは大丈夫なの?王族として何かやることがあったり……
マグノリア︰全て夏休みの前半に終わらせましたので、大丈夫ですわ。アーロン様が大丈夫なら、明日、迎えの馬車を手配するのですが……
アーロン︰大丈夫。自前の馬車で行くよ。
マグノリア︰かしこまりましたわ。お待ちしております。アーロン様。
アーロン︰うん、また明日。マグノリア
マグノリア︰はい、また明日ですわ。アーロン様
アーロンは、明日に向けて伯爵としての仕事を片付けようと、書類に手を伸ばした。
因みに書類はオルジュ領にいるカルロスがヴァルトバングルを通してアーロンに毎日送って来るので減ることはない。
アーロンはカルロスが明日も書類を送ってくることを思い、憂鬱な気分になりつつも、書類に目を通す。
明日、あまり仕事をしなくても良い状態にする為に。
(あれ、僕、10歳だよね?)
まるで、前世のような社畜っぽい生活に、アーロンの視界が涙で滲んだ。
(絶対、効率化してやるんだ!)
日本人らしい真面目さが抜けないアーロンは、涙目になりつつ、きっちり仕事を熟すのだった。
翌朝、仕事で少し夜更かししたアーロンは眠気ですっきりしない朝を迎えた。
身支度をしたアーロンは、使用人に淹れて貰った紅茶を飲みつつ、軽い朝食を食べた。
食べ終える頃にはしっかり目が覚め、準備万端になった。
昨夜、アーロンは使用人に馬車を用意するように伝えておいたので、馬車の準備も万端だ。
アーロンは馬車に乗り込み、王城に向かった。
王城に着くとマグノリアの侍女が入口でアーロンに声を掛けてきた。
「オルジュ卿、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
侍女はアーロンを連れて階段を登っていく。
暫くして、侍女はとある部屋の前で止まった。
「どうぞ」
その部屋は、ローズピンクと白を基調とした、可愛らしくも品の良い部屋だった。
中央付近にある豪奢なソファーにマグノリアは座って紅茶を飲んでいた。
行儀よくカップをソーサーに置いたマグノリアは入ってきたアーロンの元に静々とやってきた。
そして、優雅で美しいカーテシーをした。
「ご機嫌よう、アーロン様」
アーロンはボウ・アンド・スクレープで応えた。
「お目にかかり、光栄です。マグノリア殿下」
アーロンと目が合ったマグノリアは、カーテシーを止めて、くすくすと笑い始めた。
「ふふ、アーロン様。二人きりの時は楽にしていただいて構いませんわ」
「そう?なら、お言葉に甘えて……」
アーロンはボウ・アンド・スクレープを止め、普通の姿勢に戻った。
「アーロン様、こちらで紅茶でも飲みませんか?」
「うん、良いよ」
アーロンはマグノリアに連れられてソファーに座った。
マグノリアはアーロンの隣に座り、アーロンにぴったりと寄り添った。
「えっと、マグノリア殿下?」
アーロンは少し頬を染めて、恥ずかしげにマグノリアを呼んだ。
「あら、マグノリアとは呼んで下さらないの?」
「あー、マグノリア。……ちょっと、近いと思います」
「敬語は嫌ですわ」
「マグノリアも敬語だよね?」
「今、敬語じゃなくなったわ」
「その、近いと僕は思うな」
マグノリアは離れない。
「此処にはわたくしとアーロンしかいないの。だから、大丈夫よ」
「……僕の心臓に悪いよ」
アーロンはぽそりと呟いた。
「なにか?」
マグノリアはその言葉が聞こえなかったようで、首を傾げた。
「なんでもない、あ、そうだ!」
「どうしたの?」
「マグノリア、君に見せたいものがあるんだ。一緒にヴァルトへ行こう」
ここにいると心臓がドキドキしまくると思ったアーロンは場所を変えることにした。
「むー、分かったわ」
「じゃあ、転移門で移動しよう」
「ええ、でも、外出するのなら、侍女と騎士も連れて行かないといけないの。ちょっと、待ってて」
マグノリアは部屋を出て、廊下で待機している侍女に指示を出した。
戻ってきたマグノリアはアーロンに抱きついた。
「ちょ、マグノリア……」
「ちょっとしか時間がないのだから、アーロンを補給させて欲しいわ」
僕は栄養か何かなの?という疑問を浮かべつつ、アーロンはマグノリアを抱き締めた。