各エリアには王族派、中立派、貴族派のバランスが良くなるように、部屋が割り当てられている。勿論、同じ所属の者は同じエリアになるよう割り当てが行われた。
一般兵士は基本的に四人部屋だが、爵位のある者は一人部屋が割り当てられている。
王族派、中立派、貴族派について説明しよう。
王族派は、国王に忠誠を誓い、王族を尊ぶ派閥だ。此処には国王絶対主義者が多い。国王が是というなら是、否というなら否。一言で言うなら、【国王絶対主義YESマン】という感じだろう。
貴族派は、貴族の矜持や貴族の義務に重きを置く派閥だ。国王に忠誠を誓っていないという訳ではないが、国王が間違ったことをしたならば諫めるというのが、貴族派の出発点であった。
約300年という歴史の中で、愚かな考えを持つ者が増え、貴族こそが尊く、平民には何をしても良いという者が増え、圧政を行う者が貴族派に増えていった。
ここ数年で、貴族派の中に、どこかの誰かを暗殺しようとしたりする者が増え、返り討ちにあって逆に死んでしまったり、不正が暴かれて一族共々奴隷になったりして、愚かな考えを持つ貴族派は殆どいなくなっていると言えよう。
例え、愚かな考えを持っていたとしても、自分と似たような貴族たちが恐ろしい目に遭っていることを知っているので、怯えて馬鹿な真似もできないかもしれない。
中立派は、国王に忠誠も誓っているし、貴族の義務も全うするが、どちらの派閥にも属さない中立の貴族たちのことを言う。
ここが一番マシかもしれない。
マイナーな派閥もある。元老院派という派閥だ。
元老院は、王の助言をする機関なのだが、助言しかできないので、ほぼ名誉職に等しい元老院の派閥に入るものは物好きな老人くらいだろう。
元老院は全員老人で構成されている。無くしても良いのではという声も偶にあるが、貴族たちの大事な天下り先でもあるので、無くなることはないだろう。
元老院に実権がないので、国王に実権が集まり過ぎではないかと不安に思う貴族もいるが、大事な憲法だったり、政策を決めるのは、過半数の大臣の賛成を得なければならないので、実権は国王と大臣にある。
法律で大臣は違う派閥から各々選出しなければならないとなっているので、国王に実権が集まり過ぎることはないだろう。
因みに、アーロンは王族派に近しい中立派と自負しているが、周りから見ると王族派ではないか、と思われている。
閑話休題。
ミスリルの旗が中央にある、周りは青色のバッジを身に着けたツヴィーベル伯爵家エイダン・フォン・フォックスと同じ青色でも金の旗のバッジを身に着けた次男エクトルは呆然とした様子で地下室を眺めている。
主人たちよりも幾分先に正気に戻った護衛やら兵士たちは警戒を怠らず、主人たちを守るように周りを固めている。
だが、セキュリティの厳しいこのホテルに敵襲などない。それを知っているのはアーロンとアーロンの私兵団くらいなので、仕方がない反応だろう。
エイダンは、暫くして正気に戻った。
「美しい。壁は黒と金の美しい模様……上品だが豪華で良い。魔導灯の光は明るい白か、これも良い。階層を繋ぐ螺旋階段の技巧は凄まじい。
エイダンは言葉では全てを表現できない程に素晴らしい地下ホテルに感動しまくっていた。
側近たちは苦笑していた。
また始まったよ、と思っていたとか思っていなかったとか。
そのとき、声が響いた。
『皆様、当ホテル【グランシルワ】にご来訪いただき誠にありがとうございます。私はヴァルト侯爵アーロン・フォン・シュタインと申します。この宿泊施設は通称ホテルと申します。名称としてはグランシルワと呼んでいただけますと幸いです』
アーロンは魔導具で全エリアに放送している。
『現在、スルス軍と諸国軍は出発したばかりでございます。このストロム平原に到着するのは約一ヶ月後を見込んでおります。つきましては、この一ヶ月、皆様に戦争訓練をしていただきたく競技場をご用意いたしました。ただの戦争訓練では面白みがないと思いますので、トーナメントとさせていただきます。色々工夫を凝らしますので、皆様、
アーロンはホテルの説明に入った。
『当ホテルは基本的に無料で全てをご提供いたします。バッジによってできることが変わりますので、ご注意ください。詳しくは最寄りのゴーレムにお問い合わせください。宿泊部屋につきましては、バッジによって入れる場所が異なりますので、最初は最寄りのゴーレムに場所をお問い合わせいただけますと幸いです。では、夢のような一時をお楽しみください』
それから少しして、違う美声が響いた。
『あー、聞こえるか?私は王太子のジェームズ・アステール・エレツだ。暫くはこのホテル?で楽しんでくれ。以上』
王太子の言葉に、警戒が少し解れたのか、様々な貴族たちがホテルの探検を始めるのだった。