目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

75




 様々な貴族や兵士たちを案内していたアーロンは声を掛けられた。

 聞き覚えのあるその声に、まさかと思いつつアーロンは振り返って驚いた。

 そこには懐かしい人がいた。


「お祖父様!」


 アーロンは満面の笑顔で祖父であるハーフェン男爵ジョージ・フォン・テイラーの元に駆け寄った。


「久しぶりじゃのう、アーロン……否、勇者様」


 ジョージは茶目っ気たっぷりにアーロンを勇者と呼んだ。


「勇者じゃなくて、アーロンで大丈夫です。お祖父様。お久しぶりですね、1年振りでしょうか?」

「そうさな、アーロンが11歳の頃に遊びに行った以来じゃからのう、2年振りじゃな」

「もう、そんなに経ったんですね」

「仕事が忙しくて会いに行けず、すまんかったのぅ……元気にしとったかの?」

「はい!元気にしております」

「そうかそうか、それは良い」


 祖父と孫は久々の再会に喜び合う。


「そうじゃ、お前が忘れていたものを届けに来たぞ」

「え?」


 祖父は後ろを向いて、誰かに手招きした。


「父上!?」


 やってきたのは兵士の服を纏ったロベルトだった。

 笑顔だが、怒っているのだろう、目が笑っていない。


「アーロン。戦争が始まるということ、何故、チャットでもビデオ通話でも教えてくれなかったんだ?」


 ロベルトとソフィアは二ヶ月前から旅行に行っていた。ヴァルトバングルでアーロンやルーカスと通話したり、やり取りをしていたのだが、アーロンは敢えて戦争のことは伝えなかった。


「邪魔したくなくて……でも、なんで父上はこのことをご存知に?」

「義父上が教えてくれたんだよ。ギリギリだったから、ヴァルトバングルの転移で義父上と合流したんだ」

「母上は?」

「ソフィアはヴァルトに戻っているよ」

「そっか」


 アーロンはほっと息を吐いた。ソフィアがここまで付いてきたら戦争に巻き込まれてしまうと思ったから、安堵したのだ。


「アーロン」

「はい」

「今度もし、こうやって大事なことがあったら、ちゃんと報告すること。良いね?」

「はい!」

「よろしい。……義父上、私はもう言うことはないです」

「む、儂からか?儂からは無い。まあ、気を遣い過ぎも良くないぞ。さあ、アーロン、儂にホテル?とやらを案内してくれるな?」

「はい、行きましょう!お祖父様」


 アーロンは祖父ジョージの手を引いて、ホテル【グランシルワ】を案内し始めた。

 グランシルワの各エリア内の構造は一緒だ。

 地下一階は酒場や食事処のある広々としたエリア。ここは高そうな店に忌避感を持ってしまう人向けのエリアだ。

 地下二階は服屋が並ぶ。既製服の礼装や、数時間でゴーレムが仕立てるゴーレム仕立て屋まである。バッジがあれば一人一着まで無料だ。

 地下三階はカジノっぽい遊技場だ。ここではVIPであるミスリル以上の旗のバッジを持つ者だけカードゲームで賭け事ができる。賭け事は勿論自腹だ。

 地下四階はカフェやバー、高級レストランが並ぶ。こちらは、バッジがあればいつでも利用無料だ。

 食材はヴァルトにあるアーロンの食糧庫から取り出している。

 食糧庫は建物なのだが、中は異空間になっていて、時間が停止している。この異空間はヴァルトバングルに繋がっている。

 ゴーレムも機能限定版のヴァルトバングルをしているので、異空間から必要なだけ食材を取り出すことができる。

 食材は無限ではないが、実り豊かなヴァルトの地の食材が枯渇することは今回の出征では起こらないだろう。

 最下層である地下五階は広いプールになっている。水着は一人一着無料でプレゼントされる。それ以降は有料だ。

 地下五階にはVIPルームが旗毎にいくつか用意されている。お酒も食事も注文できる。旗によってはカラオケができ、動画配信も観ることができる。

 動画配信は森影やゴーレムの頭に着けられたカメラの映像をリアルタイムで観ることができ、スルス帝国や周辺諸国の行軍の様子、街中の様子、重要人物の様子が見れる。

 アーロンはスタッフの証である虹色とムーンストーンのバッジを身に着けているので、全てのVIPルームに入ることができるから、祖父に一番良いVIPルームも見せることができた。

 祖父ジョージは敵軍の様子が見れることに呆然としていた。


「これは、こちらに敵方の様子が筒抜けではないか!」

「まあ、優秀な密偵がいないと難しいことだけどね」

「これは、アーロンの密偵が撮っているのか?」

「うん、リアルタイム……今撮った映像がこちらに即時、送られてくるんだよ」

「今の映像ということか……儂の孫が優秀過ぎて、儂の出番は無さそうじゃのう」

「ううん、戦争は人がするものだから、お祖父様にしてもらいたいことは、ちゃんとあるよ」

「それなら、儂も頑張ろうかのぅ、ところで」

「なに?」

「この映像は王太子殿下も知っておられるのかのぅ?」


 アーロンはピシリ、と固まった。


「あ、報告するの忘れてた……」

「今すぐ王太子殿下に報告しに行く必要があるのぅ」

「お祖父様、すぐ報告してくるから、待ってて!」


 アーロンは王太子を探すべくヴァルトバングルのマップを開きつつ、駆け出した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?