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 雲一つない青空が広がる。

 青空の下、競技場には多くの貴族や私兵たちが集まっていた。

 勿論、王太子ジェームズや王国騎士たちの姿もある。


「第一回、エレツ王国戦闘訓練大会を始めまーす!」


 アーロンが拡声魔導具で競技場にいる全ての人々に開催を宣言した。

 うぉおおおお!というたくさんの野太い雄叫びが競技場中に響き渡った。

 一位を取ったチームは豪華賞品を貰えるので、皆、意気込みが凄い。

 因みに、豪華賞品というのは、アーロン特製魔導トイレと小型アイテムポーチ、大金貨一枚のことだ。勿論、魔導トイレと小型アイテムポーチ、大金貨一枚は一人一人に与えられる。

 市場で出回っている魔導トイレは平民の手に届かないお値段だから、兵士たちとしては何が何でも手にしたい。

 手にすることができたなら、既婚者であれば、妻に大喜びされるだろうし、彼女がいれば、彼女と結婚できるかもしれない。独身なら、彼女ができるかもしれない。

 そんな希望を持つ兵士たち。

 あと、小型アイテムポーチは、アーロンが兵士たちに貸し出したもので、デッキホルダーくらいの大きさだ。トラック一台分の大きさの荷物が入る。

 兵士たちはこれも絶対に手に入れたかった。

 妻や彼女の荷物持ちが非常に楽になるからだ。

 大金貨一枚だって、普通に欲しい賞品だ。

 会場にいる兵士たちの心は一致した。


((勝ちたい))


 勝てば兵士たちにとっての幸せが待っている。

 全員が勝ちたかった。

 しかし、勝者がいれば、敗者もいる。

 全員が勝つことはできない。

 チームメイト以外は全員敵だ。

 兵士たちの表情は歴戦の勇士もかくやあらむと、覇気に満ちていた。


「今回は公平性を保つ為、王国騎士団と四大公爵家、ヴァルト・オルジュ家は参加しません。よろしくお願いします」


 その言葉を聞いた兵士たちは歓喜の雄叫びを上げた。

 王国騎士団や四大公爵家やアーロンの私兵は既にトイレを持っている者が多いのと、実力が突出している者が多いので、不参加にすべきだとアーロンと王太子たちは話し合って決めたのだ。


「では、この大会のルールを説明します」


 この大会はチーム戦だ。

 勝ったチームに賞品が与えられる。因みに、全てのチームの中で最も輝いた個人にも賞品が与えられる。

 競技種目は三つ。リレーと障害物競争と騎馬戦だ。

 リレーは鎧を纏ってどれだけ速く走れるかを競う。代表の四人によってバトンを繋ぐ。

 障害物競走も鎧を纏ってどれだけ早く障害物を越えられるか競う。代表者は一名。責任重大だ。

 騎馬戦は騎馬に乗った騎士同士での一騎打ち。チーム内で三名を選出し、競う。


「さあ!始まりました第一回エレツ王国戦闘訓練大会!司会は私、第二騎士団団長ダミアン・フォン・カペルと」

「近衛騎士団長カミル・フォン・ビーガーが務める。よろしく頼む」


 二人は放送席から拡声魔導具にて話す。


「まずはリレーからですね、カミル殿」

「ああ、リレーは鎧を纏って全力で疾走する必要があるので、慣れていないと大変だろうな」

「そうですね。お、選手たちが並び始めました。旗を持った審判がやってきました」


 鎧を纏った選手たちが五人並んだ。

 因みに、この大会の参加者はエレツの全ての貴族と兵士たちで派閥ごちゃまぜのクジ引きで五チームに分かれている。

 因みに、五チームは色で分かれており、赤・青・黄・緑・紫となっている。

 代表者は実力のある人物たちを選出し、最終的にクジ引きで決めた。

 運と実力を備えた者たちがここに並んでる。

 審判が旗を掲げた。


「よーい……どん!」


 一気に選手たちが走り始めた。


「鎧を纏っていると感じさせない走りだーー!これは相当な実力者たちが集結しているようですね。カミル殿」

「ああ、気骨のある者たちが多くて良かったと思う」


 優劣はあるものの、選手たちは次の選手にバトンを渡した。


「おおっと、ここで凄まじい走りを見せるのは……ツヴィーベル伯爵家のレオだ!鎧を纏っているとは思えない速さだ!」


 レオはツヴィーベル領の孤児院で育った。成人してからツヴィーベル伯爵家の私兵となり、めきめきと頭角を現した。

 鎧を着ても全力で走れる彼は『鎧に愛された男』と呼ばれている。

 レオによって、リレーは、ツヴィーベル伯爵家が所属している緑チームが制した。


「次は障害物競争です。会場の準備がありますので、皆様、休憩を取ってください」


 ダミアンの言葉に従い、多くの貴族や兵士たちはそれぞれ好きな場所で休憩を取る。


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