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 暫くすると、会場の準備が完了した。

 様々な障害物が会場に設置されている。

 スタート地点からゴール地点までは百mくらいだが、普通に走ることはできないので、時間が掛かるだろう。


「会場の準備が終わり、選手たちもスタート地点に並んでおります。お、審判がやってきました。そろそろ始まりそうです」


 審判は旗を掲げた。


「位置について、よーい……どん!」


 ばっと勢いよく走りだす選手たちは、まず、地面に広がった網に潜る。網の上を走ったら失格なので、網の下を這って前に進む。

 次に選手たちを待ち受けるのは、山のような形の障害物だ。石でできているその障害物を越えると、今度は平均台が待ち受けている。


「おお!?あの難しい障害物をすいすいと走って超えたのは……またまたツヴィーベル伯爵家の私兵だーー!彼は、ガイという名前の青年だ!」


 ガイもまたツヴィーベル領の孤児院で育った。成人してすぐにツヴィーベル伯爵家の私兵になった。体幹がとても鍛えられており、バランス感覚が良いガイは平均台と相性が良かった。


「今度も緑チームの勝利です!」


 緑チームはこの時点で優勝が決まった。

 歓喜で雄叫びを上げる緑チームに残酷なお知らせが入った。


「次の騎馬戦で勝利したチームは逆転できますので、気合を入れて参加してください」


 放送席は緑チームからのブーイングを浴びた。


「はーい、皆さん、準備してくださいねー」


 ブーイングもどこ吹く風と全く気にしていないダミアン。図太い。


「では、最後の競技が始まるようです。皆さん、注目してくださいね」


 騎馬戦では各チーム、厳選された騎士たちが選出された。

 騎馬戦はトーナメント戦で、現在一位である緑チームは二回戦から参戦することとなる。

 二回戦で残るチームは緑チーム含め三チームだ。

 余った一チームは敗者復活戦で勝ったチームと戦うことになる。

 一回戦はくじ引きで相手チームが決まる。赤チームは青チーム、黄チームは紫チームと対戦した。

 二回戦に進んだのは、赤チームと紫チームだった。

 敗者復活で勝ったのは青チームだった。

 二回戦は、赤チーム対緑チーム、紫チーム対青チーム。

 二回戦では、まさか緑チームが敗退し、決勝戦は赤チーム対青チーム。

 一回戦で赤チームに負けた青チームはリベンジに燃えていた。

 戦馬に乗り、鎧を纏い、訓練用の木製の槍と盾を構えた青チームの騎士は、始まりの合図を待っていた。

 中央付近にいる審判が旗を振り下ろした。


「よーい、どん!」


 その瞬間、騎士は戦馬を繰り、槍を構えて敵に突っ込んだ。

 赤チームの騎士は、青チームの騎士の勢いに負けて、落馬した。

 会場にわああ、という歓声が響いた。




「楽しんでおられますか? アーロン様」


 ヴァルト私兵団団長のアイザック・アイアンズが観覧席にいるアーロンに声を掛けた。

 アイザックについて、紹介しよう。

 彼は亡国のとある男爵家の次男で、元末端騎士団の団長。亡国での末端騎士団の役割は主に魔物討伐だった。明けても昏れても魔物討伐に勤しんだアイザックや騎士団の面々は相当に強い。だが、帝国に攻め入られたときには数の暴力によって重傷を負い、捕虜となった後に奴隷となった。

 アーロンがアイザックを自身の奴隷とし、塞ぎかけた傷から古傷まで全て治し、数年後に奴隷から解放。今はヴァルトで私兵団の団長をしている。固有スキルは剣豪。


 アイザックに話しかけられたアーロンは、騎馬戦を眺めつつ、応えた。


「うん、楽しんでるよ」


 観覧席には、各々ホログラムウインドウが表示されており、競技場内で浮かんでいるドローンのような魔導具が撮影している映像をリアルタイムで見ることができる。

 アーロンは食い入るように、ホログラムウインドウを見ながら、ガラス瓶に入った冷たい紅茶を飲む。

 これは競技場の売店で売っている飲み物の一つで、ガラス瓶は普通のガラス瓶ではなく、魔石も混ざっている。

 保存と清潔、衝撃吸収の魔法陣が刻まれているので、長期保存もでき、割れにくい。


「あっ、青チームの二人目が負けた」


 これで一対一。勝負は三人目に託された。

 青チーム赤チーム共に三人目は体格の良い騎士が出てきた。

 両者見合って、審判による開始の合図で馬を繰り、駆け出す。

 赤チームの騎士は槍を青チームの騎士の胴体目掛けて突き出したが、青チームの騎士の盾に阻まれた。

 青チームの騎士は力いっぱい、槍を跳ね返した。

 赤チームの騎士が跳ね返された槍を手放さないよう、仰け反った瞬間、青チームの騎士が槍を赤チームの騎士の胴体に突き入れ、落馬させた。


「あ、青チームが勝ったね」

「なんと、青チームがですか。……少し、緑チームが可哀想ですが」

「緑チームは二位の賞品を用意してるから、それで満足して貰うよ」


 青チームは表彰台で歓喜したり、感涙を零す者も多かった。


(そんなに魔導トイレが欲しかったのかな?)


 アーロンは微笑みを浮かべ、魔導トイレと賞金が入った小型アイテムポーチを一人一人に渡していった。

 緑チームには賞金のみを渡すこととした。

 彼らは悔しくて咽び泣いていた。


(そ、そんなに魔導トイレが欲しかったんだ……)


 アーロンは内心、申し訳なく思いつつ、賞金を渡し終えると、拡声魔導具を取り出して、言葉を紡いだ。


「では、以上で第一回エレツ王国戦闘訓練大会を終了します。三位以下のチームには後で参加賞が配られます。よろしくお願いします。皆さん、お疲れ様でした!」


 うおおお!と野太い雄叫びが競技場に響いた。

 第一回エレツ王国戦闘訓練大会は盛況のうちに幕を閉じた。


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