高台の上に複数の宮を回廊で繋いで建てられたその壮大な建築物は、大きさこそ
「ほら、見てください。砂利の間に宝石が散りばめられてますよ~ぅ」
「柱にもいっぱい埋め込まれているな。これほどの
兵士たちの後に付いて王宮へと踏み込んだ
延々と続く長い回廊。まるで迷路にでも迷い込んだかのような錯覚を感じながら、彼らはその道を突き進む。
──微かだが、宝珠が反応している。
その時、
【
それは本来ここにあってはならぬもの。過ぎたる力──時代を超越した知識と情報の結晶である。
小さな玉ではあるが
──ここにも宝珠の所有者がいるのか?
その時両者は互いに宝珠の力を解放し、死力を尽くして戦った。
──これは思わぬ奇縁に巡り会えたか?
男はそう思い、微かに笑った。
そのような大それた力を持つ者が近くにいるかも知れないという事実は、
そうこう考えている内に、いつの間にか彼らの目の前には厳重な扉に閉ざされた大きな部屋があった。
それはまるで来る者を威嚇するかのような
「
先導する二人の兵士が背筋をピンと伸ばし、大きな声で扉に向けて告げると、
「入りなさい」
艶のこもった女性の涼やかな声が中から返ってくる。
「失礼致します」
そう言って兵士たちはそれぞれ扉を左右から開放する。
ごうん、という重厚な音を響かせて扉が開かれると、眩いばかりの斜光に彩られ、ゆらりと無数の煙が辺りに漂い、甘い匂いがツンと鼻を刺す。
──この香り……
──なるほど。この部屋の主人も珍品
隣で
「さあ、近う寄りなさい」
御簾の中から、先ほどと同じ艶のある声がかけられる。
「失礼仕る」
その後を、
絢爛豪華な赤い絨毯の敷かれた通路を突き進んでゆくと、両脇に多数の腰元たちが
部屋の主が待つ
「珍しい物を取り扱う商人とは、アナタのことかしらぁ?」
声色から察するに若い女性のようであるが、
「いかにも。|某(それがし)は
|恭(うやうや)しい口調で、|武霊王(ぶれいおう)は自己紹介を述べるが、当然その名と経歴は
「虎の毛皮、見せてもらったわぁ。すごく艶があってイキイキして、とてもステキだったわよぉ。ああいう珍しいモノ、他にも取り扱ってるのかしら?」
「はい。
「ふぅん。それはステキねぇ。でもーー」
女はフッとため息を漏らすと、側女に
両者の視界を隔てていたものがゆっくりと取り除かれてゆく。
「アナタ、とても商人に見えないわねぇ。どちらかと言うと歴戦の猛者、といったところかしらぁ?」
歳は四十前後であろうか。しかして髪の先端から指の爪先まで瑞々しい艶が満ち満ちており、さらにははだけた着物の胸元からふくよかな肉厚を覗かせている姿からも、妖艶な貴婦人といった印象を抱かせる。
「今の時代、商売をするにも命懸けでございます。商人とて、自らの命は自ら護らねばなりませんので、必然と強く成らざるを得ないのですよ」
頭を下げた状態のまま、
「んふふ、そうよねぇ。商人の世界だって弱肉強食なんですもの、自分の身くらい自分で守らなくちゃね〜ぇ」
女の口元がにんまりと弧を描く。しかし、その目元は笑っていなかった。
「いいわぁ。
疑念が晴れたのかどうかは不明だが、
「ご了承いただき、恐悦至極に存じます」
しかし、認可されようがされまいが、宮殿内に入ってしまえばもう関係ないので、空々しく礼を述べてから
「つきましては、王陛下にもご
本来の目的である【
「あぁ、
すると、【
「あのコはあまりこういうコトに興味ないみたいだから、ムリだと思うわぁ。まぁ、それでなくてもいつも部屋に閉じこもって、ヘンな趣味に没頭してるだけなんだけどね」
実の子に対して諦めとも失望とも取れる冷めた口調で言うのだった。
「……左様でございますか。それでは致し方ありませんな」
「コレ、ありがとうね。
一礼し、
「結局王様に会えませんでしたねぇ」
再び兵士たちの先導で宮殿を歩いている最中、
「なぁに、あの女の話では、『部屋に閉じこもっている』と言っていた。この宮中のどこかにいることは間違いない」
遥々【
それにも関わらず
「ということは……やるんですね?」
男の目論見を察した
「ああ」
男は短く答え、彼らは前を見据える。
そこにはちょうどおあつらえ向きに