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二話 首鼠両端 其之三

 綺麗な衣装に身を包んでモミジが向かうのは、ヒノキの子らが住まう離宮。

 王城そのものには居住区画が存在せず、議会場や謁見場、国王を含む多くの政務議員の執務室等が主で、王族各位が住まう離宮は王城の敷地内に点在し、場合によっては互いに不可侵の約定を設けたりする。……今現在はマツバの第三子、モミジの兄であり議会員の一人でもあるイヌマキの離宮へモミジが近づくことを禁じられているくらいだ。

 モミジはマツバ以外の姉弟ふたりからは、王位の継承を早めた原因として蛇蝎だかつの如く嫌われており、王権を揺るがす存在であると触れ回られたことすらある。龍神に祝福を受けたとされる彼を侮蔑するようなことは、王族であろうともそうそう許されることがないのだが、前后の子たる三人に付き従う有力貴族らが尽力したことにより事なきを得て、二人に対する処置は不問となった。

 言われた本人は「阿呆臭あほくさ」の一言で一蹴したのだが。

 そんなこんなでヒノキらの離宮『日天宮ひのあまのみや』を訪れれば、離宮に仕える城仕えたちに出迎えられて、ミモザの待つ一室へと通される。

「よ~ミモザ、元気してるか?」

「いらっしゃいませ、モミジ叔父様!」

「良く来たなモミジ!」

「待っていたわよ」

 三兄弟が楽し気にモミジへ笑顔を向ける。

 第一子のザクロはモミジやヒノキ、マツバに近しい茶色の髪に同色の鱗を生やし。第二子のサクラと第三子のミモザは母親譲りの薄い金の髪に同色の尻尾。そして三人は一貫して青い瞳を宿す。

「ザクロとサクラも当然いるよな。ザクロ、ちょっと見ない間に大きくなったか?俺との身長差が広がった気がするんだが」

「へへ、これからだぜ!ぐぐーん、と更に大きくなってモミジの事なんて見下ろしてやるからな!」

「そいつは楽しみだよ。ミモザ最近体調はどうだ?」

「大丈夫、運動もできるようになってきました」

「そうか!元気一杯になったら俺の離宮まで遊びに来いよな。色んな魔導具を見せてやるからさ!」

「うん!」

 わしわしと頭を撫で回して可愛がれば、ミモザの方も喜んでいるようで傍から見ると可愛らしい集団だ。

「しっかし、やっぱりザクロは大きいな。三歳差だとこんなにも違ってくるものなのか」

 モミジが四尺120センチ、ザクロが四尺八寸144センチなので結構な身長差があり、見上げなければならない状況だ。

「驚けモミジ、俺は未だ成長期を残している!」

「おぉー、顔が見えなるな!」

「モミジにも成長期は来るんだけども…」

「ん、ああそうか、そういうえばそうだったな。ミモザはどれくらい大きくなったんだ?」

 すたりと立ち上がったミモザの身長は、一歳上のモミジと然程違いがなく年齢平均と見れば少し大きいだろうか。

「ミモザも大きいなぁ〜!将来は長身で美形の美丈夫として、女の子から黄色い声と熱を上げられるかもしれん」

 誇らしげに頷きながら、ミモザの将来を想像しモミジは一旦席へ着く。

 すると三人の世話係が茶会の準備を初めて、茶と茶菓子を並べていった。

「なんでモミジはそんな爺臭いことばっかり言うのかしら」

「ははは、なんでだろうな」

 モミジが転生していることは誰にも告げていない。前世とそれ以前に生きていたことは確かなのだが、記憶は損耗仕切って役に立つものはなく、気味の悪いことを言って困らせたくもないからだ。

「モミジ叔父様、急に来てくれましたが、何かご用事があるの?」

「いいや、なにもない。ミモザの顔を見に来て、のんびりと茶会に興じようと思っただけ。詰まりは遊びに来たんだ」

「っ!ならお庭で球蹴りをしたい、です!」

「球蹴りなんてできるようになったのか?」

「はい!ゆっくりですが!」

「いいぞ。一緒に遊ぼう」

 転生や祝福、立場などかなぐり捨てて、四人は仲の良い兄弟のように遊んでいく。


 モモジとザクロが軽く球を蹴りを、それをミモザが追って蹴り返す。齢六つにしてはやや力が弱いものの、最近は成長著しくこれから運動能力も上向いていくだろう。

 ザクラは着替えるのが億劫だったようで遠目に眺め、足元に珠が転がってくれば拾っては投げ返す。

 細々と休憩を入れつつ遊べば、ミモザは疲労で座り込みご満悦な笑顔を露わにする。城仕えが体調を窺いつつミモザが満足するまで遊べば、モミジもそろそろ帰るかと肩を竦めた。

「なんだ、一日居てくれるわけじゃないのかよ」

「追加の仕事が来ちゃったんだ。こう見えても忙しいんだぜ、俺はさ」

「ちぇー」

「というかザクロは勉強もあるだろ?」

「今日の分はモミジが来る前に終わらせた」

「私もー」

「僕もー」

「なんだ、弁当持ちは俺だけかよ」

「まあいいや、じゃあまた来いよ、モミジの叔父貴。俺の方からはそっちに行けないからさ」

「王太子様は大変だな」

「全くだ」

「それじゃ俺は帰るけど、…お前たち三人はこれからも仲の良い兄弟でいれくれよ。叔父としてはさ、三人が楽しく遊べてたり、喋ってたりする姿を見れるのは嬉しいもんなんだ」

「まーたモミジは爺臭いこと言って。私達“四”兄弟は何時までも仲良しなんだから」

「ああ」

「うん!」

「…っ。いけねえなぁ、歳取ると。寒くもねえのに鼻水が出ちまう。…またな」

 振り返ることもなくモミジは離宮から逃げ去っていった。

「私とザクロよりは間違いなく年下のはずなんだけど…」

「昔からああだよな、モミジって…」

「そうなの?」

「大人びているっていうかなんというか」

 風変わりな叔父を見送り、三人は離宮へ戻ってモミジの昔話に花を咲かせる。

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