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三話 嚢中の物を探すが如く…とはいかず 其之一

 拳銃型の魔導銃まどうじゅうの照準を的に合わせてモミジは引き金に力を込める。それと同時に魔導銃を経由して彼の魔力が蓮根れんこん弾倉内の専用魔晶へと充填、崩壊、魔力が礫状変化れきじょうへんかを八片が的へ向かう。

 カチン、と音を立てて的へ当たったそれは地面へと散らばり、どれ一つとして貫通することはなかった。

蛇撃弾スネークショットの有効射程は四間7メートル七間一尺13メートルも離れると威力はイマイチ。的が木材ならば傷をつけられただろうか)

 庭に的と記録用の本を乗せた机を並べては詳らかな結果を書き記す。先ずは正規品にて必要な記録をさらい出し、次いでは模造品、詰まりはモミジが自作した品々だ。

 非認可の魔晶及び魔導具は違法魔導具に当たるのだが、新規魔導具及び魔晶の開発研究という名目で然るべき機関へ申し出をだした場合にいては使用の認可が下りる。…というか封印魔法の作業で魔導局に名が売れているモミジは、案外とすんなり認可を受け取ることができた。

 これに関しては一定期間ごと記録を提出する契約で一年前より、歴史上最年少で取得しているのだが。

(知ってはいたが蛇撃弾や鼠撃弾のような霰弾さんだんは一発一発の威力がか弱い、はなから害獣対策用の魔晶弾丸。これが俺に贈られたって事は、兄貴が俺に対して用立てできる今現在の最大級がこれ、後は他と組み合わせて自分で造り上げろってな。……俺は未だ七つの子供ガキだもんな、陽前軍はおろか一般向けの魔導銃さえ過多。よくもまあこれも用意出来たもんだ)

 魔導銃を真ん中で折り、砕け散った魔晶滓ましょうしを捨て去って、自作の魔晶弾を装填した。

「先ずは第一射、単一魔晶弾丸シングル、一層内飾ないしょく刻陣こくじん式。推定威力は凡そ八〇晶重しょうちょう一六間三尺30メートル距離からの射撃で混凝土こんくりいと性の的にめり込む筈」

 パシュンと放たれた魔力の弾丸は的に命中、…することなく明後日の方へと飛んでいく。

(……、)

 蓮根のような弾倉には五発の弾丸が装填されているため、残りの四発を発砲したのだが命中したのは一発のみ。一発目とは違って明後日の方角へ飛んでいくことこそなかったものの、的の傍を抜けていった。

(魔晶から生成される魔力弾は、文明崩壊以前に使われていたとされる弾頭火薬銃のような回転軸効果は必要ないはず。それでこの結果なら製陣の影響、か。基礎とした魔法陣が蛇撃弾ってのもあるから、発射の際にある程度の不規則性を付与されていると考えるか)

「『ひらけ瞳の光泉こうせん仙眼鏡せんがんきょう』」

 眼の前に魔法陣を浮かべて蛇撃弾の魔法陣を改めて解析し、部品毎に抽出。必要最低限の部分だけ抜き取っては余りを書き出す。

(これくらいなら予想できたことだったが、何事も挑戦。とりあえず………これとこれを組み合わせて魔晶に組み込むとしよう)

 離れに戻っていったモミジは部屋内に安置されている魔法陣を魔晶に彫刻するための個人用魔導具の前に腰掛けて、魔晶を固定具に納め二本の筆を手に取る。筆には押釦おしぼたんが付けられており、これを押しながら双方の筆の先から照射されている誘導光を衝突させることで内部に魔法陣を刻みこくことが出来る代物だ。

 魔導具名は『点筆てんぴつ』、量産作業には向かないが一本物の魔晶を製造するのに使われている。

 それなりに熟練が必要なそれを、意に介すこともなく軽々と刻みあげたモミジは魔法陣に間違いが無いことを確認しては頷く。

 そのまま庭へ移動し魔導銃の蓮根弾倉へ魔晶を詰め込み、一定の距離を離れてから狙いを定め引き金に力を込めた。

 ドンッ、と音を立てては混凝土の的を塵芥ちりあくたに変え、庭の周囲に張り巡らせている魔法障壁をも焼き切ってしまう。

「…………。……障壁は焼き切ったが、庭より外に被害は…なし。ないよな?」

 大急ぎで走っていき、庭の外を確認するも被害はなし。ほっと胸をなでおろし手元の魔導銃が壊れていないかも確かめ、問題が無いことに安堵する。

(威力制限を取っ払っちまったか?いや、量産品を素にしているから魔力差の均一化構造を取っ払った結果、俺の魔力が際限なく流れたか。知ってはいたが良く考えられ練られて作られてるんだな)

「つか…魔法防壁を直さないとまずいな」

 砂糖楓宮さとうかえでのみやには護衛の類いが存在していない。一応のこと夜間警邏やかんけいらを行う駐屯軍人もいるのだが、モミジが動き難くならないよう近づく者は最低限。故に魔法による防壁が機能していないのは宜しく無い。

 基本は封印魔法の発展、いや封印魔法が魔法障壁の亜型あけいに当たるのだが、同系統ということも有り軽々と組み立てていく。

「あのー、王弟殿下。こちらからの大きな物音を聞きつけて参じたのですが」

「ん?警邏か、先程少しばかり魔導具の実験に失敗してしまってな。後処理は終えてあるから問題ない」

「そうでしたか。……魔法防壁の貼り直しを?」

「そんなとこ」

「お一人で?この規模だと魔法師が複数人必要になるのですが…」

「誰が言い始めたか『封緘ふうかんしろがね』だからな」

「成る程。…王弟殿下へ魔法防壁の展開をお願いすることって可能なのでしょうか?」

「出来ないことないが、色々と手続きが面倒だぞ。俺の所属は軍務局、警察局、魔導局でもない、ヒノキ陛下の直属だ。申請を陛下に上げねばならんのだ」

「あー…、だから王弟殿下にお願いしていないのですね」

「単純に解体封印の仕事だけでも、七歳の俺にはそこそこの仕事量ってのもあるしな。軍務でどうしてもってなら請け負うが申請はしっかりとな」

「はっ!」

「そいじゃ此処は大丈夫だし警邏に戻ってくれて構わないぞ、足を運んでくれて感謝する」

「有難き御言葉」

 敬礼をした軍人は綺麗な姿勢で城内警邏へと戻っていった。


―――


(通用門の魔法防壁張り直し?モミジに?適材適所ではあるが、これ以上モミジに仕事を任せるのはなぁ)

 マツバのもとへ舞い込んできた申請書類に目を通して首を傾げる。

「陛下。何か問題事ですか?」

「いやなぁ、通用門の魔法障壁をモミジに張らせたいと申請書が上がってきたんだ」

「軍務局からですか?七つの殿下を働かせようなんて随分な立場になったものですね」

 側近たる男は腹を立てたように腕を構えて書類を受け取って、眉間に深い皺を刻み込んでいく。

「一回許可を出せば際限なく仕事が舞い込むことになる、果ては大断層にでも連れて行こうとするだろう」

「容易に想像できますね。…ですがこの入れ知恵をした主犯も想像出来ますので、後々面倒になることは確か」

「イヌマキだろうな。アイツは直接的に行動するような奴じゃないから様子見しても問題ないが」

「戴冠式にお越しになられていれば、もっと簡単に対処出来たのですが…」

「テンサイさんが来ていた以上仕方ない部分はある。私としても参加してほしかったが」

「祝眼の王弟殿下は大変なお立場ですね…」

「龍神の祝福がなければもっと危うい立場にあったのだ。七つを迎えられている今を喜ぶ他無い。……魔導具仕事を理由に跳ね除けるとしよう」

「それが宜しいかと。件の違法魔導具が大量に摘発されましたし、それを口実にすれば十分な理由付けが可能です」

 マツバは申請を跳ね除けて、次の書類へと目を通していく。

「ああ、そうでした。もしかしたらモミジ殿下をお借りする事になってしまいそうなのですが、―――」

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