「くくく、はははは、あーはははっ!いやぁ俺も見たかったぜ、ワクラバが顔真っ赤にして逃げてく様をさぁ!」
「煩え馬ァ鹿!誰だって下着姿の姐さんらがいたら驚くだろ!」
「ウチの常連なら大喜びで飛び込んでいくんだがな、はぁぁぁ…、まさかまさかの本当に初心だったとは。彼女とかいた事ねえのかよ」
「それどころじゃねえんだよ、俺はな」
「駄目だぜ、遊べる時に遊ばねえと。年取っても遊べるが、若いときにしか出来ない火遊びだってあるんだから」
「はいはい、もうこの話しは終わり、終了!」
(下手に女遊びなんてして汚点を晒せるかよ。というか未だ七歳だぞ、こっちはさ)
ナギナタガヤに散々弄られたモミジは、ややご立腹な様子を露わにして椅子に
「最近、この辺りはどうよ?」
「此処は問題ねえが、…似たような場所で問題を起こして揉めてるみたいだ」
「冒険者組合の下請けが切り盛りしている縄張りってことか?」
「ああ、『野良犬』っていう組織だ」
「『野良犬』に『
「あるぞ、捨て猫。まあ
「…それは間違いない。そんで野良犬ってのは何処にあって、どんな状況なんだ?」
腕組みをしたナギナタガヤは、一度モミジを見据えた後に口を開く。
「場所はナガネギ区、……状況は衝突寸前。…あちらさんとは縁があるから、静かに終わってほしいもんだが」
「衝突?所謂抗争ってことか。水蛇も大きく出たな」
「最近の水蛇はどうにも変な勢いがあるからな。一応のこと俺たの手の者を何人か送ってあるが、デカい抗争になっちまえば焼け石に水なんだわ」
「ふぅん、そいじゃ見に行ってくるわ。俺を
「待て待て、そんな刀とちっせぇ魔導銃だけじゃいくら魔法殺しといえど力不足だ。これでも持ってけ」
ガチャンと机に置かれたのは大口径の対如何物、対人用途の
「……、そんな物騒な武器持ち歩いて衝突寸前の場所に行けるかよ」
「刀おっ下げ俺たの縄張りで情報収集してたお前が何を言ってんだ…」
「…。悪かった」
「良いけどさ」
「でもコイツはいいや。雇い主の意向で使用する武装には制限があるんだ」
(
モミジの一言にナギナタガヤは眉を曇らせ、あまり良い顔をしない。
「雇い主を悪く言いたかないが、刀に小型魔導銃ってのは現代主流からが大きく外れている。……それで戦いに出そうなんぞ、おめを死なせるようなもんだ。世間知らずの意向に従うことねえよ」
大なり小なりの情が湧いたのか、身を案じているナギナタガヤ。
「大丈夫大丈夫、俺にはデカい奥の手があるんだ。パパっと俺がなんとかして、また食事しに来てやるから安心しな」
そう言ってモミジは銅脈者扉から、龍の仮面を取り出し見えない場所に切り札を隠している風を装う。
「こういう奴らって言っても聞かないんだよなぁ。はぁ……まあいいやもう……、…だがな出立は少し待て、水蛇に用事がある奴がもう一人いてそいつと向かってもらう」
「え゛!?」
「え、じゃねえよ。さっきの口ぶりだと一人で行動するんだろ?」
(…聞いた話じゃ魔法殺しの義賊衆は基本単独行動なんだろ?)
(色々面倒なんだよ…)
(そうか)
「なら此処に来た以上は譲れねえ」
「
(あーあ、易者からの情報収集と変身が制限された、せめて最初に探しとくんだった)
雑に嘘でもつくべきだったとモミジは肩を落とす。
「足手纏いなら容赦なく置いてくからな」
「腕は担保してやる。ちと前からの馴染なんだ」
「はいはい。じゃあ待ってるから、なんか飲み物用意してくんない?棒茶とかあると良いんだけど」
「棒茶ぁ?なんだおめ、通ぶってるのか」
「良い舌してんの」
話しが終わるやいなや、別嬪な姐さんたちがモミジの横に陣取ってはモミジを可愛がろうとするのだが、ただやられる彼でなく、一目散に席を離れては一定範囲内に入ってこないよう両手で自分の間合いを示しては警戒を露わにする。そしてそれが可愛いのだと姐さん方はクスクスと笑みを浮かべては次の手を考えていく。
姐さんに彼是聞かれながらも雑な返事で相手をしていれば、店の扉が開かれて赤髪で切れ長の目、くるりと巻いた巻角で、一六歳一七歳くらいの青年が入ってきた。
「タガヤいます?」
「こっちだこっち、ちょっと遅かったな」
「連絡来るまで寝てましたので」
「ヤナギちゃんおはー」「久しぶりねぇ」
「どうも」
姐さんたちが席を離れて、ヤナギと呼ばれた青年はモミジの隣に腰掛けては茶を頼む。
「こいつがおめに同行するオオシロヤナギ」
「どうも、紹介に与ったオオシロヤナギです、お見知りおきを」
「俺はワクラバだ、宜しく」
(青年の俺と同じくらいか。腕は確かだって言ってたっけ)
(私より一つ二つ年下ですか。子守を押し付けられるようになってしまうなんて…)
「私のことは気軽にオオシロとかヤナギとか呼んでください」
「んじゃヤナギって呼ぶわ」
「挨拶も済んだところで、野良犬と水蛇が衝突、抗争寸前ってことはさっきの魔導具通信でも話したな?」
「ああ、アレらも大きく出たようですね」
「変に勢い付いているところがあるから、二人で協力して制圧に向かってくれ」
「はいはい」
「分かりました」
やや乗り気のしない二人ではあるが、これ以上話しや関係が拗れるのは二人の望むことではなく、ナガネギ区の『地下楼の水蛇』退治という目的は一致している。一度顔を見合わせ、頷きあった二人は店を出ていく。
「上手くいくと良いんだが」
「なんだかんだいい組み合わせになりそうじゃないですかぁ?」
「どうだろうな」