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五話 柳に風折れなし 其之三

「そういやどうやってナガネギ区までいくんだ?公共交通?」

「乗り物はこちらで用意してあるので問題ありませんよ」

「へぇ」

 店を出てみれば見せ前には側車が備わった魔導二輪車が停まっており、オオシロヤナギは鍵を差し込んで魔導機に魔力をべる。

「お、」

「お?」

「おおぉお!魔導二輪か!巡航型の!近くで見たの初めてだ!これ何処の!?」

「子供かって…」

「ん、あ、悪ぃ。格好良かったから、つい」

「……、百舌崎もずざき重工じゅうこう八世はっせい紅星くれぼしですよ、この件が終わったら見せてあげますから側車に乗ってください。安全帽はそちらに」

「約束な!」

 大喜びで側車に腰を下ろし、安全帽を冠ったモミジを見てオオシロヤナギは心の内で溜息を吐き出す。

(はぁ…、タガヤの紹介ですので腕は確かなのでしょうが、少しばかり子供っぽすぎます。はったりを掛け脅かし、駄目そうなら置いておきましょうか)

「一つ良いですか?」

「なんだ?」

「私、こう見えても結構な手練でして、…『魔法殺しの義賊衆』の一人をしています」

「え゛っ!?」

(驚いていますね。最近、噂されている一匹狼たちの名ですから、ああいった場所に出入りしているのなら聞いたこともあるでしょう)

(義賊衆って俺のことだと思ってたけど本物いたのかよ。………やべぇなぁ、ナギナタガヤが俺のこと伝えてたらどうしよう)

「ナギナタガヤはその事知ってるのか?」

「いいえ。タガヤは巻き込みたくありませんので」

(あっぶねぇー!)

(効いていますね。よし)

「足手纏になるようなら、秘密を知った貴方ごと処理しますので、お気をつけください」

「了解。ナギナタガヤの紹介って事もあるし、ヤナギの事は頼りにさせてもらうよ」

「…、そうですか」

(……仕方ありません、一戦力として使いましょうか)

(ナギナタガヤには黙ってて貰うよう頼まないとなぁ…)

 二人の思惑はすれ違いながらも同じ目的地を目指して出立する。

「ところで魔法殺しっていうくらいなんだからさ、対魔法師に特化した魔法か魔導具でも持ってるんだろ?どういうの?」

「『魔法殺し』と直接呼ばれるのは別の者でしてね、私は仲間に過ぎません。魔法師に強いのは確かですがね」

「へぇー、単独行動ばっかりだって聞いたけど、今回はいいのか?」

「タガヤに頼まれてしまったので」

「そういうね。よろしく頼むわ」

「ええ」

 魔導二輪の音を聴きながら、二人はナガネギ区へと進む。


 ナガネギ区の片隅に魔導二輪を停めたモミジとオオシロヤナギは、これから向かう先を話し合う。

「実はナガネギ区が一触即発だって情報は聞いているんだが、それすら今日の初耳で…どこへ向かえば良いかとか全く分からなくて」

「問題ありませんよ、そのための私ですから。ナガネギ区には前に住んでいまして、庭みたいなものなのですよ」

「おぉ、完璧な人選だ。それじゃ地下楼の水蛇が根城にしてそうな場所も?」

「勿論分かります」

「じゃあさっさと乗り込んで懲らしめるとするか」

 手を顔にかざした瞬間に仮面を取り出し着用すれば、オオシロヤナギは小さく驚きを見せる。

銅脈者扉どうみゃくもんぴ使い、ですか」

「知ってる口か」

「ええまあ」

(後ろにそれなりに大きな後援者が付いている感じですね、一四歳一五歳程度で持てる品ではありませんし)

 今上陛下が後援者の七歳児です。

「では私も顔を隠しましょうかね、素性が相手に伝わっては何かと不便しますから。…、ところでワクラバはどういった戦闘を主にしているのでしょうか?」

「基本なんでも出来るなんでも屋だ。刀でも体術でも魔法でも、強いて言うなら防御系が強いな」

「なんでも屋、ですか。私は近から中距離を主体とする魔法と短刀得意としています、相手がどの程度かは分かりませんが、一応のこと防御主体に回ってもらってもよろしいでしょうか?」

「了解。魔法と魔導具、魔導銃なんかの対処は任せてくれていいぞ」

(使えなくとも、私だけでもなんとかできるでしょうし)

「それじゃあ行きましょうか、誰にも見られずに行ける場所があるので付いてきてください」

 そういってオオシロヤナギは路地裏へと侵入し、どんどん深みへと足を進める。

 浮浪者や物乞いですら、いや分かりやすい悪徒ですら見掛けることのない道を、一分の迷いも見せずに進む姿は『庭』と言ってみせるには十分なそれであり、心強い協力者を得たとモミジは確信する。

 鍵の壊れた窓を開け、廃屋を進みて地下室へ。下水道を進んだかと思えば、誰も使用していなさそうな旧地下道。まるで大冒険かと錯覚する程の移動を終えると、のっぺりとした仮面の口に指を当て、息を潜めるように指示をされ肯く。

「頭ぁ、野良犬の奴ら本気で抗争をおっ始める気みたいですけど、大丈夫ですかね…?」

「臆病風にでも吹かれたか、なっさけねえ。ここナガネギ区の地下道一帯は元々こっちの領分、どんと構えて殴り返してやりゃいいのよ。銀の鳥がよく売れて稼ぎも良い、魔導銃魔導具も使いたい放題、何を恐れるってんだ、全くよぉ」

「そう、ですね。いざとなれば如何物も使えますし、へへっ」

 広間となっている場所では水蛇に属する多くの者が戦闘の準備をしており、使われていない通路から覗く二人に気が付く様子はない。

 一帯を大まかに観察したオオシロヤナギは、モミジの耳へ顔を寄せ囁き声で情報を伝える。

(周囲に魔法障壁は見られませんし、準備の整っていない今のうちに水蛇の処理をし、ナガネギ区に被害を出さずに終わらせてしまいたい。ワクラバが此処で引き返しても止めませんし、私一人で突入制圧しますが、如何しますか?)

(此処まで来たんだ、最後まで付き合う。さっきも伝えたが“防御”には幾分も自身がある、俺の実力を測り終えたら好き勝手に動いてくれ、連携だの何だのは得意でないからな)

(承知しました。それでは合図と共に突入します)

 モミジは首肯し、オオシロヤナギの合図を待った。

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