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五話 柳に風折れなし 其之五

「そいじゃ俺は自力で帰るとする。慣れない匂いを嗅ぎすぎて、一人でいたいんだ」

「そうですか。気を付けてお帰りくださいね、クラバ」

「ああ、またなヤナギ」

 魔導二輪車で大通りを抜けていくオオシロヤナギを見送ってから、モミジは物陰で変身し小翼竜の姿で離れへと戻っていく。

「はぁ…」

 溜息を吐き出したのは二輪を駆るオオシロヤナギ。

(何でも屋『水蛇すいだ』はこれでお終い。アイツも馬鹿な事をしでかしましたね…、まったく)

 そう、オオシロヤナギは本名をジャヤナギといい、水蛇の前身となった組織の長をしていた。治安のあまり宜しくない地域を根城に、齢八つにて何でも屋をゴミ捨て場を漁っていた仲間たちと結成、彼の手腕で数年係で少しは名の知れる組織となった。

 何でも屋が軌道に乗り、ある程度纏まった金子きんすが溜まりヤナギが一四歳となった頃、彼は幼い頃からの夢であった陽前全土を回る旅に出たいと周囲へ相談。仲間たちは彼の背中を押し、ヤナギは一人旅へと出立したのだ。

(あれから三年、帰ってきたらこの有り様。……、馬鹿者ですよ…。……全てが終わったら郊外にでもひっそりとした墓を建ててあげますから、もう暫く待っていてください)

 『水蛇』を喰い物にした何者かへ復讐を誓いながら、ヤナギは魔導二輪を走らせる。


「戻りましたよ」

「お、無事だったかヤナギ。…ワクラバはどうした?」

「クラバは一人で帰るとのことでしたので別れました」

 茶と焼飯を頼み、席に着いたヤナギは先の戦闘を思い出しながら記憶を整理していく。

(魔導具の類いはその悉くが封印を施され、…………魔法の全てが不発となっていました。いやぁ…もしかして、もしかしなくても……)

「ほらよ、焼飯だ」

「一つ質問なのですが、彼はもしや」

「昨今話題の一人らしいぞ」

「…………。どうしましょう」

「なにかやらかしたか?」

「脅かそうと思い、の衆を騙ってしまいまして…」

「……、公平じゃないと思ってお互いにお互いの正体を隠しておいたから、俺の責任でもあるんだが…。ワクラバの反応は?」

「驚いていました…」

「だろうよ。……とりあえず様子見しとくか、あいつにゃ分からないことが多すぎる」

「素性は知らないのですか?」 

「雇い主という首領がいる的な事を言ってたが、それくらいしかわからねえ…真に情報がないんだよ。稀に学術院へ顔を出しているらしいが、そっちも定かでないし、特定の場所で生活しているという確証すらない」

「『言葉ことのはらうはと』には?」

「駄目だった。軍務か警察か司法か分かんねえが、下手に手を出したら拙い後ろ盾がついているみたいで、通常料金じゃ話す気はないらしい」

「それは確かでしょうね、かなりの高級魔導具を所有していましたよ」

銅脈者扉どうみゃくもんぴか?」

「ええ」

「前はそんな素振りを見せなかったから、ここ数日で取り込んだとみるべきか。…なんにせよ、辺に触れない可きだな、ワクラバ自体はあの様子だし」

「ふふっ、魔導二輪に大はしゃぎしてましたよ」

(戻ってきて以来、初めて笑ったな。……、何でも屋『水蛇』、色々と世話になってたんだが、あいつらも馬鹿をしたなぁ…)

「……何処に行ったら祈れる?」

「全部終わったら祈れますよ」

「そうかい」

 はふはふと熱い焼飯を食んだヤナギは、二度三度頷いて変わってしまった街の変わらない味を確かめる。

「つーかヤナギお前、ワクラバの事を随分気に入ったみたいだな、クラバなんて呼んでさ」

「似ている、とは思いませんか?」

「…。あいつが道を踏み外さねえよう、気を配ってやんねえとな」


―――


「―――、というわけ。思った以上に根は深そうだったな」

 王城の執務室へ入り込んだモミジは、ヒノキへ報告をし長椅子へ凭れ掛かる。

「随分な大立ち回りをしたのか」

「最初は情報収集と散策に注力しようと思ったんだけど、『魔法殺しの義賊衆』なんていうのと間違えられてるらしく、襲撃するもんだと思われちゃってさ」

「兄的には危ないことをしてほしくないのだが…、まあいざとなればどうとでも出来るのがモミジか」

「龍になって暴れりゃなんとかなるしな」

「罰当たりだよなぁ、本当に。………」

 執務を中断したヒノキはモミジの隣に腰掛けて頭を撫でる。

「モミジは俺にとってもこの国にとっても特別な存在だ、…俺も一部利用してしまっているのだが。…けれど、未だ歳幼く下手を打てば取り返しのつかないことになってしまうんだ。『心配を掛けるな』『大人しくしていろ』なんて言わない、泛駕之馬は大地を駆け回ってこそ。…だから何があろうと絶対に帰ってくること、それだけを約束してくれ」

「心配性だな兄貴は、俺は龍神の祝福を受けた銀眼のモミジだぞ。まっ、帰ってくるのは当然のことだし約束したるよ」

 手の甲を向けてニッと笑顔を見せたモミジに応えるべく、ヒノキも拳を作って手の甲を軽く打ち付けて総合を崩す。

「とはいえ外泊は未だ駄目だからな」

「ん?ああ、分かってる。暫くは別にいいさ」

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