目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

六話 碧血丹心 其之二

 順調に、魔法障壁を解除することなく再展開していくと、先程に突っかかってきた警備の者がいつの間にか姿を消していることに気がつく。

(よく観察してたようだが…諦めたか?最後の一箇所を終わらせ、さっさと帰るとするかな)

「…、その質問なのですが」

 怖ず怖ずと口を開くのは翼竜好きの、今日一日同行してくれている警備。

「なんだ?」

「魔法障壁は、解除せずに再展開が出来るものなのですか?」

「実際にやってるからな。…、真似するのには少し苦労するだろうから、軽く説明してやるよ。魔法に必要な要素は習っているだろ?」

「ええ。魔法構成の三要素は魔力と魔法陣と構成手法です」

「その中で魔力と魔法陣についての話なんだが、魔法っていうのは体内の魔力を魔法陣という形に押し込んで、認識世界に作用を引き起こす手段」

「はい、学前院で習いました」

さて、そうするとだな、魔力に対して発現効果はある程度の釣り合いが取れてなくちゃいけないんだが、一定の場所に魔力での防壁を作り出す魔法障壁や、封印魔法の類いってのは大体が長時間の運用が最低条件になるため釣り合いが取れない」

「そうですね、毎日毎日張り直していれば、それだけ隙を晒すことになりますし展開者の負担にもなります。…、成る程、言いたい事は理解できました、持続することが可能な魔法は、魔力の費用対効果が良すぎると」

「正解だ。ならばどうやって魔力を捻出しているかと言う話しなのだが、持続する魔法っていうのは魔法陣の内部に、魔力を循環する仕組みを搭載しているんだ」

「あぁー、今ある魔法陣に魔力を注いで効果を継続しているということですか!」

「半分正解。一応のこと魔力も注いでいるのだが重要なのはそれだけではない。この魔法障壁を一定期間ごと張り直さなくちゃいけない原因というのは、魔法陣の損耗劣化にある。持続する魔法っていうのは長い期間魔法陣を展開し続けることになるから、衣服が解れて襤褸ぼろとなるように綻びが生まれていく。俺はそれを的確に修復、若しくは新しい魔法陣の部品と取り替えて再展開としているわけ」

「それで不具合なんかは出ないのでしょうか?」

「事、封印魔法系列に関して俺は天才だ。これが一番効率的且つ効果的な対処になる」

「少しの苦労では習得は出来なさそうな…」

「どんな魔法も魔法陣と向き合い理解を深めることが基本だ、挑んでみないと分からんぞ?」

「『魔法は勤勉なる者の杖である』」

「あぁー、誰の格言だっけか」

「稀代の魔法師アカツメグサですよ。よく、魔法師殿が口にしていたので」

「ふぅん。まあとりあえず作業しねえと」

 一息ついたモミジは警備から目を離し作業を再開する。


 四半時30分と掛からずに最後の箇所に発生していた綻びを的確に修復し終えたが。

「―――――、おい敵襲だッ!」

 モミジの言葉と同時に築六屋敷の一角で強烈な魔法攻撃が発生し、一同は音の方向へと意識を向ける。

「魔力障壁は!?」

「穴が空いた、チッ張り直しかよ。…それよりも、敵襲が会ったということは」

「はい。我々は先行しますので、モエギ殿は広間の方へ」

「いや、俺も力を貸そう。魔法障壁の張り直し作業中の事件だ、業務の一環として加わる」

「お客人に力を借りるまでもありません。…奥様も御子様の防衛に回ってほしいのです、防御を得意としているようなので」

「いいだろう」

(厄介な。いざとなったら容赦なく力を使おう)

 屋敷へと踏み込んだモミジは一直線に広間へ突入すれば、オオバコの妻と子らが護衛らと共に周囲を警戒していた。

「ご無事でしたかモエギ様」

しくじったわけではないのだが…、今日この日が事前に漏れていたようだ」

「ご安心を、モエギ様が仕事を仕損じたとも敵の手引をしているとも考えておりませんので」

「…余計な言い訳は必要なかったか。これからどうする心算だ?」

 築六の家族から離れて腰を下ろしたモミジは、ハリエンジュへ視線を向けて返答を待っていれば、広間の近くから騒動の音が聞こえてくる。

「…分が悪いようですね…。脱出用の出口を使いますので、通路に入った際に封印を施してもらえますか?」

「俺はここに残ろう。オオバコ…築六さんには、借りも恩も無いが世話にはなっているから。封印は施し、殿しんがりを務める、さっさと行け」

「感謝します。皆様」

 築六の家族と警備らは棚を動かして通路を進んでいき、モミジは封印を施す。

(あの横柄そうな警備、アイツが手引してたのかね。最後まで俺のことを睨めつけていたし)


「子供か…?最悪だ」

「ああ、未成年の子供ガキだ」

 椅子に腰を下ろして襲撃者を待ち受けていれば、六人ほどの覆面が扉を蹴破りモミジを目にして怪訝な声を上げた。

「お前は情報にないから、今日の雇われってとこか。まさか魔法障壁を解除する事なく張り直すとは驚いたよ、折角情報を得たというのに役に立たず、確実に警察局やら軍務局が来ることになる…最悪だ」

「楽な仕事、面白そうな仕事、知見を得られる仕事だと喜んで来たのにこの始末。最悪、は俺の台詞だよ悪党共」

 銃嚢じゅうのうに納めていた魔導銃を銅脈者扉どうみゃくもんぴを経由して手に移し、銃先を襲撃者らに向ければ一人が笑い声を高らかにする。

「ははは、おいおいそんなちっこい魔導銃でこの六人を排除しようって?此処に来るまでに、なまっちょろい警備をぶっ潰した俺等を?あははは、これは笑い草――――」

「………くくく、ははっはっは」

(直接の生き物への封印じゃないから気は楽だが…、一人には逃れられたか。今ので終われば楽だったのにな)

「チッ」

 聞こえていた哄笑が静まれば、一人を除いた五人は全身を硬直させて微塵も動かなくなってしまった。残った一人は僅かな気配でも察知したのか、急ぎ飛び退きモミジが仕掛けていた封印魔法に引っ掛かることなく、深い溜息を吐き出す。

「最悪すぎる…何をしやがった?」

「封印だよ。生体封印」

 生体封印、その単語を聞いて襲撃者は覆面の下の表情を引き攣らせた。

「処刑人か?」

「いいや、魔法が得意な青年さ。名前も聞いておくか?」

「…、最悪だが聞いておこう」

「俺の名前は『封臥印ふうがいん』、」

「礼儀のなってない子供ガキだ」

「無法には無法で応じるのが礼儀ってもんだろう?」

 椅子から立ち上がったモミジは刀の柄に手を置き、交戦の構えをとって襲撃者を見据える。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?