目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

七話 あなたを支える。 其之一

 魔法の種類は大まかな三種に分けられている。

 風や水、炎といった現象に作用する操作そうさ系統。魔力を岩や金属等として実体化することが出来る生成せいせい系統。

 モミジの多用する封印魔法や魔法障壁等の、上記の二つとは異なり魔力を別の形の変換することなく運用する原始的な魔法である根源こんげん系統。

 魔導具技術が発展するまでは操作系統と生成系統の二種類が上位変転じょういへんてん魔法と、根源系統が下位汎用かいはんよう魔法と呼ばれていた。

「根源系統が下に扱われているなんて不思議よねぇ、モミジを見ていると」

「使うだけなら誰でも出来るからな」

「根源系統は扱うだけであれば万人が使用でき、適性を有していなければ十全な運用が難しい操作系統と生成系統と比較して、使用者の優越感ゆうえつかんの有無…他人ひとより特別な感じがしない事が原因でしょう」

「意外とモミジも普通なのね」

 誰でも使用できる魔法を極めたに過ぎないモミジの評価を改めたサクラを目に、侍女は難しい表情を露わにした。

 この根源系統、誰でも使用できるのだが、高い適性を持てる者は非常に限られており、極める土台に立つことすら難しいというのが実情。特に上等な封印魔法を用いる魔法師は各方面から重宝され引っ張りたこだったという。

 モミジが補足する様子もないので、「今はいいか」と侍女は魔法のお勉強へ戻っていく。

「それでは系統のお話しもしましたし、サクラ様もお待ちかねの適性検査と致しましょう」

「やった!私はどこに向いているのか気になっていたの」

「兄貴とザクロが生成系統で義姉貴が操作系統。どっちに偏っても、どちらに偏らなくても美味しいな」

「根源系統をさらっと外したわね」

「珍しいし埋もれやすいんだ。根源系統ってのは適性が高くなりにくく、適性検査で測ったところで表に出ない事が殆ど。魔導局に登録している魔法師で、詳細を検査している者を平均しても下の中程度、魔法を得意とし職業としている者の平均でだぞ?」

「私も根源系統の適性が秀でておりますが、それでも中の下。モミジ様程の適性は有史以来初だとも言われております」

「えー、なにそれ、すっごい特別ってこと!?いいなぁ!」

「恰好良いだろ」

「うん!私も根源系統がいい!」

「そうだな、根源系統だったら俺が色々と教えてやるよ。封印魔法とか魔法障壁とか」

 はしゃぐサクラを横目に侍女は、木の棒に九つの竹管がぶら下がった魔導具を用意し、竹管一つ一つに魔晶を嵌め込んでいく。

「こちらは『管々棒かんかんぼう』、大まかに魔法の適性と魔力量を検査できる品となっております。先ずは、モミジ様にお手本を見せてもらいましょうか」

「ああ、いいが、受け止める準備だけはしておけよ?」

「承知しております」

「?」

 首を傾げるサクラを置いて二人は魔法適性の検査を行う。モミジは管々棒の両端を掌に乗せ、床に屈んでから侍女が持ち場に着くのを待つ。

 そしてモミジが魔力を込めると管々棒は彼の掌を離れて浮き上がり、天井を目指していく。それを受け止めるのは侍女の役割で、別の木の棒で両端を抑え浮き上がらないよう維持すれば、垂れ下がっていた竹管九本がカラカラと音を鳴らし始める。

「根源系統を読み取って重力に反発し浮いているらしいが、一定以上になると適性を測りきれないのが管々棒の難点だ」

「普通は天井に着くことなど有り得ませんので…。カラカラと鳴っている竹管の本数が魔力生成量と保有量の…、沢山鳴っていると魔力が多いということですね」

 目を燦かせているサクラはすんと真面目な表情へと変わって、モミジを見つめる。

「魔力が多くて具合悪くならないの?」

「安心しろ、俺は大丈夫だ。生成した魔力を十全に受け止められる器を持っている。それにミモザも最近調子いいだろ?」

「うん」

 宥めるように頭を撫でれば、サクラは笑顔を取り戻す。

 ミモザは生成魔力に対して保有魔力総量が低い為、身体に異常をきたし体調不良や合併症を引き起こしやすい、傾魔症を生まれつき患っている。

「それではサクラ様もどうぞ」

「わかったわ!」

 浮々と管々棒の両端を掌に乗せたサクラは、一呼吸置いてから魔力を流し込み変化を待つ。

「………。何も変化がな――」

 サクラが言葉を終える間際、竹管が六つカランカランランと鳴り響き、モミジと侍女は顔を見合わせ視線をサクラへと戻した。

「まったく変化がなかったのか?」

「うん」

「重くなったり軽くなったりの変化が起こるはずだったのですが」

「なんにも。持ってみる?」

 差し出された管々棒を受け取ると確かに変化はない。

「凄いなサクラ、全適性だぞ。俺よりも珍しい」

「えっ!?そうなの!?」

「はい。総ての適性が均等に同じ場合のみの現象で、一切の重量変化がなく音のみ鳴るのです。鳴った本数と適性が同じになるので、三系統の適性と魔力量が中の中程になると思われます」

「真ん中ってことね?」

「そうだな」

「…適性って高いほうがいいんでしょ?真ん中だとどうなの?」

「中の中だと…努力と杖とかの魔法補助具次第で、無詠唱魔法を使えるはずだから、サクラの頑張りに応じて結果が伴うだろうな」

「!」

 発破を掛けてみれば分かりやすく瞳を爛々輝かせ、机に広げられた教本に目を向ける。

 身近に規格外の魔法師がいることで、自分も彼に並び立てるほどの魔法師になれるのではないか、と期待せずにいられないサクラは魔法の道へ一歩踏み出す。

「ねえモミジ!これって根源系統も一番高いんでしょ、魔法を教えてくれるんだよね?」

「齢七つで弟子持ちとはな」

「よろしくねモミジ師匠」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?