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九話 知己朋友 其之二

(最近見かけないなぁ…、佩刀はいとうの彼、…いやモミジ=輝虎てとら枝天してん殿下。どういう経緯かは知らないのだけれど、七歳の王弟殿下が凡そ一五歳程にどうやって化けているのかが知りたい、知りたすぎる!王族にのみ許された魔導具なのか!?いやぁあるよね、漫画とかで王族が変装してお忍びする定番!……然しどう接したものかね、王族であることは明かしてないようだし。折角異世界転生したのに首落とされてもなぁ)

 眼鏡の兄さん、クリサンセマム=慈喜雨じきうも転生者であった。前世の記憶を元に学業と魔法を修め上級学園を卒業、国内でも名門たる鳶目兎耳えんもくとじ学術院へ入学するに至った。

 そんな、学術院で順調に学業を修めていたクリサンセマムは、凡そ一年程前に魔導部の不手際で如何者が逃げ出す現場に居合わせ、少しばかり風変わりな少年と出会うことになる。一八歳以上で入学となる学術院では見られない、未だ年若い少年は如何物を恐れることなく刀を振るい敵を一刀両断、対処に回ろうとしていたクリサンセマムさえも目を剥く事と。

(というか間違ってないよなぁ。…あの博士も教授も、知り合いの名前も間違っていない)

「『命の綱を看破せよ、啓け瞳の光泉、仙眼鏡せんがんきょう』」

 胸の衣嚢から取り出した眼鏡と現在の眼鏡を掛け変え、仙眼鏡を用いればそこいらにいる人の名前が手に取るように理解り、彼が制作した未認可の魔導具が効力を露わになる。あまり根源系統を得意としないクリサンセマムが、自身の仙眼鏡を強化するために開発した魔導具なのだが、初めて使用した際に『モミジ=輝虎=枝天』という可怪しな名前を見つけては、三度掛け直したとか。

(心に留めて葬ってしまうのも手、これが明るみになっては困る人もいるだろうからね。庶民生まれだし立ち振舞には)

「面白そうな魔導具だな?仙眼鏡と併せて使うのか?」

「そうなんだよ、色々と情報が読み取れるようになっててね」

「へぇー、認可は?」

「いやぁちょっと懸念点があって、未だ出せないでいるんだ」

「借りても?」

「どうぞ」

「『啓け瞳の光泉、仙眼鏡』」

「…あれ」

 得意気に話していたクリサンセマムは、誰に対して得意気に話していたのかを理解するため、ゆったりとした、油の切れた錻力ぶりきのような動きで視線を向ければ、黒髪蒼眼の青年がそこに居り。あわわ、と顔を真っ青にしていく。

「クリサンセマム=慈喜雨、……そういえばお互いに自己紹介をしていなかったことを思い出したぞ。時間を貰えるかな?」

「は、はいぃ…」

(終わったぁ……!)

(学術院ということもあるが、面白い逸材がいるものだな。さて、俺の名前はなんと見えているやら)

 悪どい笑みを浮かべたモミジは学術院の集団勉強用の個室へと赴く。


「で、俺の名前はなんと見えている?」

「いやぁー、そのぉー」

「今から掛け直してくれてもいいぞ。俺はな自己紹介がしたいだけなんだ、そこに見えている名前でな」

 刀を椅子に立て掛け敵意が無いことを露わにすれば、意を決したクリサンセマムは口を開く。

「モミジ=輝虎=枝天殿下、です」

「へぇー、すげえな。コウヨウ=佳音じゃなくて、本来の名前が出てくるとは。ちょっとさ、何回か変身するから全部見てくんない?」

「え?」

 そういってモミジはいくつもの姿に変身し、最後は小翼竜に。そのどれもに彼本人の名前が現れたとのこと。

「凄いな、凄いな!俺の天敵みたいな魔導具じゃないか!懸念点というのは?」

「殿下の名前が見えてしまってたので、高貴な方々の不都合になってしまう可能性を憂い」

「成る程。今この段階で知れたのは僥倖ぎょうこう。然し功績と成り得る発明はしっかりと魔導局へ申請して認可を得なければ」

「…いいのですか?」

「いいもなにも、犯罪対策にこれ以上無い魔導具だ。あんたみたいな優秀な人材を、学術院魔導部や魔導局、企業の研究室なんかが求めているのだからな!」

(よくある気前のいい王族って感じだ!これは好機!)

「有難う御座います、モミジ殿下。その…一つ質問なのですが、殿下の変身はどういった仕組みで?」

「さも当然の質問だ。…そうだな、何時から俺のことを知っていた?」

「三ヶみかせつ前ですね」

「口外は?」

「していません」

「一ヶ節ちょい前に気軽に話してきただろう、周囲に悟られないためか?」

「いえ、急激に態度を変えては可怪しいと思い」

「ふっ、ならば教えてやろう。これは、この祝福の銀眼に宿る俺だけの特殊能力だ、格好いいだろう?…名前を付けるとしたら『夢幻自罪むげんじざい』なんていいな、うん」

(……、ちょっと年相応っぽい?)

 本来の姿で椅子に凭れ掛かり自分の名付けで頷くモミジに、これまでとは違って、素が出ているのだと思っていた。

「王族専用の魔導具とか一品物の先史理外遺産とかではないのですか?」

「そういうのが有るかどうかは秘密だが、俺の能力なのは確かだぞ。この情報は自力で“モミジ”へ辿り着けた褒美として受け取るといい」

「光栄です。他に辿り着けた人はいるのですか?」

「クリサンセマム=慈喜雨が初であるな、誇るといい」

「ども」

「クリサって呼んでもいいか?これからも仲良くしたいからさ」

「構いませんが、私はこれからどう接したら?」

「俺の事はコウヨウ=佳音と、そして今まで通り接してくれ。お忍びなんだから現地の友人には、相応の対応をしてもらいたいんだ」

「高貴な方って大変そうですもんね、自由とかなさそうですし」

「自由はあるんだけど、この瞳はちょっと」

 紅顔の美少年の眼に収まる煌めく銀の瞳、それを持つのは者は陽前、いや龍の三子族が残った天龍島てんりゅうじま於いてこの一人しかいない。

「いやー、設けもんだな。卒業後はどうす――――」

「コウヨウ君!随分と顔を見せなかった…、?」

まずぅ、博士こちらへ」

 個室の扉を開け放つのは行儀知らずに当たるのだが、それをやってのけたのは魔導部のアケビ。暫くぶりのモミジに燥いだ彼女も、中にいるのが銀の瞳をした少年だとは思わず、目を丸く剥いていた。急ぎ黒髪蒼眼へと変身したモミジは急ぎアケビの手を引き部屋に引き込んでは、扉を締めて封印を施して密室へと変えた。

「わわわわわわわ…!ふふふふ【封緘の銀】!?ナンデ!?!?」

「博士、…使用中の個室に入るのは禁止されているんだが」

「それはすまなかった。それでなんで、解体屋のモミジ殿下がコウヨウ君に化けて学術院に?」

「一度バレると芋づる式になるものなのかね。博士、コウヨウ=佳音は色々と訳アリだと言ってたろ」

「そうだね、そうですね」

「その理由は簡単で、齢七つモミジ=輝虎=枝天が学術院で物を学ぶための化けの皮に過ぎないからだ」

「じゃあ今まで私達が色々と魔導具の事で話し合っていたのは、……あっ、あの魔法と魔導具の解体技術は正に…うひゃあ!!」

 今までのことを思い出しては、大変な事をしていたのではないかとアケビは顔を赤くしたり青くしたりしている。

「流石にそろそろ兄貴から怒られるかね…、まあいいか」

(モミジ殿下の兄貴、って今上陛下だよね…)

「刃を首に当てて『口外するな』とは言わん。下手に触れ回れば自然と首が飛ぶ、その事を念頭に置き俺の情報を扱ってくれ」

「はい」「承知しました!」

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