目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

九話 知己朋友 其之三

「今日のコウヨウ君はどういった用事で学術院に?」

「アケビ博士、慣れるの早いですね…」

「必要に応じて顔を使い分けるのは大人として必要な技術なのだよ!ふははは!」

「取り分け理由があって来たわけじゃなくてな、暫く忙しく顔を見せてなかったから顔を出しにな。面白いものがあれば、それを見ていこうかと思ってな」

「そういうね。あと一ヶ節と少しすれば今年も終わるということもあって何処の教授も忙しく、押し付けられた面倒事に忙殺されかけていたところだよ。…吹螺貝の関連で問い合わせも来ていたか」

「各方面で進展があったみたいだな」

「ここ最近、如何物騒ぎが色々とあったからね。ミズナ市とか、少し治安の良くない区で繁殖していたとか。警察局と軍務局が主となっているみたいだよ」

「らしいですねー」「だろうな」

「コウヨウ君は気をつけるんだよ、色々と危ない橋を渡っているみたいだし」

「そうなん、そうなのかい?」

「ちょっとな。俺には俺の目的が有るから、仕方ないんだけどさ」

「ははっ、いつも通りだ!私はコウヨウ君の入学を…、そうかぁ……今の姿が一五歳前後だからそんなに遠くない未来だと思っていたのだけど、本来の年齢は七歳だから一一年も先になってしまうのか!」

「そうなるな」

「となると流石に私も残っていないだろうから、残念極まりないな…」

 学術院の博士はかせというのは、他所の研究機関に移るまでの呼び期間であり、実績を積むための猶予期間でも有る。今回、吹螺貝という功績を打ち立てた魔導部の博士たちは、鳶目兎耳学術院魔法部の名声を上げて、自身らの功績を手に入れることができた。早ければ来年にも他所へと移ることが出来るのだ。

「数年にしても、どんだけ長く居る心算だったんだよ…。結構実家が太いのな」

「自慢じゃないがそこそこだ」

「この事実をどう伝えるか悩んで吐いたから、一つスッキリしたな。他の面々には言えないんだが…」

「必要そうな時に私がそれとなく伝えるさ」

「宜しく」

 暫く歓談をして。

「今更言うのもなんだが、こんなところで油売ってていいのか?」

「問題ないよ!一区切り付いたところでコウヨウ君を見かけたと話しを聞いて急ぎやってきたんだから!逆にコウヨウ君とクリサンセマム君はどういう関係で?」

「学術院で知り合った友人だ。こいつな、面白魔導具で俺が王族であること看破したんだ」

「ほおおぉぉぉお!どんな魔導具だい!?」

「仙眼鏡で見える対象に変化を齎す補助具系の魔導具なんだが。…仙眼鏡の詠唱変更と合わせて色々とやれば、現状以上に便利な魔導具になるかもしれんな」

「詠唱変更かい?」

「この前に足跡の種類を探るのに使ってな」

((何をしてるんだろうなぁ…、この王弟殿下…))

「具体的に何を見るために、というのは定まっていないが、見える目なんていくつ有っても良いんだからさ」

「不思議な言い回しだね」

「なんとなくそんな気がするんだ」

(前世、かね?)

 些末なことだと頭を切り替え、魔導具の可能性に胸を躍らせる。


「はぁぁ、来年からはクリサンセマム…いやクリサ君も魔導部に来てくれたまえ!仕事だ仕事、そろそろ戻らないと皆に恨まれてしまう」

「そんじゃ俺も戻るわ、ちょっとばかし仕事が残ってるしな。俺もクリサって呼ぶから!」

「あーはい」

 賑やか頻りだった二人が足早に去っていって、個室の椅子に凭れかかったクリサはとんでもないことになったのだと、脳内を整理していた。

(王族とお近づきになって順風満帆、……てことにはならないだろうね。けれど、第二の人生は楽しまなくっちゃ!)

「扠、冒険者組合から呼び出されているんだし、さっさと向かわないといけないね」

 クリサも荷物をまとめて学術院を後にした。


―――


 クリサンセマム=慈喜雨じきうは学業を修める傍ら、卓越した魔法の腕を糧に冒険者としてそれなりの地位を築いていた。

「急用ってなんなんですか?こう見えても学術院で忙しいんですよ私は」

「おっ、来てくれたかクリサンセマム!待っていたぞぉ!」

 笑顔を露わにする苦労人そうな男は冒険者組合で中央北支部の副支部長をしているニゲラ。受付広間でクリサを待っていたらしく、机には飲食物が並べられ、三人ほどの同席者も居る。

「ガリ勉のクリサ!元気してたか?」

「お陰様で。学費も問題ありませんし、あぁ…面白い伝手も出来ましたよ。今暫く紹介するのは難しそうですが」

「驚いたよな、チビガリが『学費を稼ぎたいんで仲間に加えてください!魔法が得意です!』って俺等んとこに話し掛けてきた時は、くくく」

「私の活躍もあって稼げたでしょう、ヤグルマギクさん」

「おうよ、だからさっさと戻ってきてくれねえとな!」

「そうよねぇ、最近物足りなくなってしまいましたよぉ…」

「こちらとしてはのんびり出来ていいのですが、世間的にそうは行かないのが難点ですね」

 三人はクリサンセマムと組んでいる、冒険者隊『秋の三日月』。ヤグルマギク、シオン、フタナミソウ、そしてクリサンセマムの四人で構成されている実力者集団だ。

 簡単に世間話をしていけば、そろそろ本題らしくニゲラが口を開く。

「秋の三日月への依頼に移っても良いか?」

「構いませんよ、ニゲラ副支部長が直々にお待ちになられていた事を考えますと、結構大きめの案件なんですよね?」

「多分な」

「「「「多分?」」」」

「実のところ依頼主は軍務局と冒険者組合の上層部で、詳細な内容に関しては明かされていない。分類は要人護衛となっているが…、此処最近の事を考えるとミズナ市の封印断層関連だと思われる」

「お偉いさんのお守りってことですかい?勘弁してくださいよ」

「見ての通りクリサ以外は腕っぷしだけの平民庶民ですよぉ?不興を買ったら一大事かと」

「こちらからもそういって見たんだが、『足手纏にならない実力者且つ軍の言付けを守れる人材を』と、秋の三日月が選ばれたんだ。お偉いさんたちからすると、冒険者が同行することに意味があるようだ」

「見えっ張りな…」

「ミズナ市に拠点を設ける事は決定事項ですし、陽前軍にだけ大きな顔をさせたくないのでしょうね。私は参加してもいいと思いますが、皆さんはどうですか?」

 丁寧な物腰のフタナミソウが三人の顔を伺ってみると、思うことこそあるが参加に否定的ではないらしい。

「私も参加しますよ」

「私も~」

「それじゃ全員ということか。ニゲラ副支部長、登録宜しくお願いします!」

「感謝する。追って日時を知らせるから、当日は遅刻しないように。普段の断層仕事や簡単な依頼なんかと違って、相手は要人と陽前軍、僅かな遅れも許されないと思え」

「「「「了解!」」」」

「宜しい、解散」

「よーしクリサ!飲み行くぞ!」

「はいはい、わかりましたよ」

 秋の三日月が席を立ち、街へ繰り出そうとすると、建物へと入ってきた一六歳か一七歳程の青年と打つかってしまう。

「うわっと、これは申し訳ございません。お怪我は有りませんか?」

「大丈夫ですよ、鍛えていますので。寧ろお怪我をさせてしまっては?」

「こちらも鍛えていますので。ふぅ…次からは気を付けて冒険者組合へ入りますね」

「ふむ、良い年頃で非冒険者、そんで短刀に魔導銃。…新規の志望者か?」

「半分くらい。私自身は興味があまりないのですが、知り合いが少しばかり興味を持っていたので、事前に見ておき予習できればと足を運んだ次第です」

「へぇー、弟分の面倒を見る兄貴ってところか。そういうの好きだぜ、頑張んな!」

「はい」

 赤髪に巻角をした青年、ヤナギは秋の三日月たちへ礼をして受付へと歩いていった。

(どっかの小間使いにしては、随分と鋭利な雰囲気)

 ヤグルマギクはヤナギを記憶に留めて、三人とこれから向かう店を決める。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?