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九話 知己朋友 其之四

 所変わって不寝飲屋ねずのみや

「お待ちしていたワクラバ、これは返す」

「…お前此処で働いているのか?」

「どうやるかは自由、初代の取り決めだから。五代目『言葉を喰らう鳩』は飲屋で働きながら特定の客へ情報提供する、ハトムギって呼んで」

「あいよ」

「魔導局から認可を取り付けているその『対小型如何物想定の小口径魔晶弾丸』、私の工房で生産したいから設計図頂戴」

「工房持ってるなら魔導局を経由して俺に申請しろ」

「駄目?」

「足がつくと面倒だからな。設計図の使用料に関しては、買い切りでそれなりに安価となっているから、真っ当に製造してくれ。……ふむ、前に援護してきた時の魔導銃、アレは違法魔導具ではないだろうな?」

「っ!店長、ちょっと出かけるから」

「夜の部には戻ってこいよ」

「逃げたか」

 厨房から支度を終えたナギナタガヤが現れて、モミジの隣へ腰掛けた。

「ヤナギとヘビノシャクシは?」

「ヤナギは冒険者組合に行くとか言ってて。ヘビノシャクシはシャクナゲへ改名し、溝鼠の面々に男爵流派の稽古をしてもらってる」

「シャクナゲか、意味を考えると間違っちゃいないが。ぷふっ似合わんな。アレもアレで馴染んでるならよかったよ」

「営業後の清掃なんかも任せている」

「へぇー。破滅願望持っているだけで意外と普通に」

「師の許できちんと剣術と魔法を学んでいたとのことだから、破滅願望さえ除けばただの魔法師なんだろ」

「んでヤナギはなんで冒険者組合に?」

「ワクラバが前、冒険者に興味ある的な事を言ってたろ?ヤナギへの報酬としての、水蛇の情報が集まるまでの暇つぶし兼お前さんの為の予習だってさ」

「へぇー、そん時は世話になるか。今更だけどさ、ナギナタガヤの事タガヤって呼んでもいいか?」

「おう、好きに呼べ」

 カチャリと銃を折り、蓮根式弾倉に納まっている魔晶弾を取り出し、一つ一つに細工がなされていないかを確かめる。

「それ、おめが作ってるんだっけ?」

「ハトムギから聞いたのか?」

「色々な。……若い段階から魔導具の開発して、お上から仕事を回されているんだろ?立派なもんだが忙しさに殺されるなよ」

「はっはっは、全然問題ないぞ。忙しくなるような仕事なんて無いしな」

(魔導具の解体と封印作業ってそんな楽な仕事なのか…?あ、そうだ)

焜炉こんろとか解体できるか?一つ壊れたんだが、解体してあると廃棄する時に色々と優遇してもらえるんだ」

「別にいいけど解体者は吐瀉げろるなよ」

「聞かれもしねえって」

「手汚したくないし、手袋も持ってきてくれ」

「おう」


「―――、んで…あった、ここに魔晶が収まっている」

「早ええ…」

 厨房の片隅に置かれていた焜炉の解体は物の見事に終わってしまい、タガヤは舌を巻きモミジは油汚れの付着した手袋を塵芥箱ごみばこへと捨てる。

「洗えばまた使えるんだから捨てるなって」

「悪い悪い。普段はある程度使ったら捨ててるからさ」

「使い回したりなんかせんよな…」

 部品と魔晶を分け二つの山に纏めていれば。タガヤが木箱を用意して放り込み、後日回収業者の許へ持っていくことのこと。

「お疲れさん、なんか食べたいものは有るか?報酬として作ってやるぞ」

「もうきに夕刻だし今度でいいや」

「おう」

「ナギナタの親父ー、ちょっと早いが飲みに来たぞ!」

「おっ、その声はヤグルマか!ちと待ってろ」

「そいじゃ俺は帰る、また来るぜ」

 厨房からモミジが出ていくとクリサと目が合い。

「よっ、クリサ。世の中は狭いな」

「コウヨウ君、…未成年飲酒は感心できないな」

「違う違う、ここの店長と調理担当と知り合いなんだ、酒飲みに来たわけじゃない」

「そうなのかい?そうならいいのだけれど」

「俺はもう帰るところだから、また学術院でな!」

「お気をつけて」

 パタパタと忙しく去っていくモミジを軽く見送り、クリサは肩を竦めた。

「クリサの知り合いか?」

「学術院に顔を出す、勉強熱心な子ですよ」

「それにしては…、針尾雨燕はりおあまつばめなんて一級品の刀おっ下げていたけれどぉ?」

「はりおあまつばめ?」

「あの刀。燕菜刀工えんさいとうこうの最上級で最新の一品ですよぉ。なんでも魔力の通りが良いから、杖としても使えるとか聞きましたねぇ」

「全く強そうには見えなかったが、ぼんぼんか」

「おいおい、秋の三日月の皆さんよ。俺の知り合いを詮索しようた、いい度胸じゃねえか」

「いやすまん、昔馴染ってことで大目に見てくれ!」

 ヤグルマギクは悪怯わるびれた表情で謝って、四人席へと腰を下ろす。

「今回はな。従業員ってわけじゃねえが、個人的な知り合いだから詮索をするようなら、この通りを出禁にするから覚えとけよ」

「了解。入れ込んでるのな」

(俺の首が落とされかねん。クリサンセマムとは学術院の知り合いっぽかったが…どの程度の知り合いか分からんから、摺合せも不可能と見よう)

(ナギナタガヤ店長って…『溝鼠』の首領ってだけだと思っていたけれど、モミジ殿下とも縁があったなんて。…いや本性は隠している)

「然し随分と顔を出さなかったな。夏の始め以来だったっけ――――」

 そうして秋の三日月は開店前から酒盛りを始める。

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