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一一話 美しい変化。 其之二

 一旦腰を落ち着けたモミジは離れに届いている書類の数々を検める。

 基本的に大したことのない、違法魔導具の解体処理、その後の廃棄処理に関する報告が並べられている程度で面白味に欠けていた。とはいえ一応の事確認しなければならないので読み進め、一時保管をしていく。

 少しすると変わり種の書簡がいくつか姿を見せた。

 一つはモミジに宛てたサクラの手紙、不在時に寂しかったのか帰還したら一番に顔を出すようにと通告が記載されており、彼は小さく笑ってから手紙入れにおさめる。

(離れに投書したことも忘れているな、くくっ)

 次いで目に付いたのは魔導局から送られてきた、魔導具設計図の使用申請書。モミジは二通あることを不思議に思いながら片方を開くと、南陽なんよう精工という警察局に魔導具を卸している大手企業からの申請書。

(流石にこれはハトムギじゃないだろう。然し南陽精工が…、街の中で水蛇が如何物を育てていることに対する、警察の装備の強化だろうか?まあ魔導局が許可を出している事を加味すれば問題ないな。…確か…、設計者権限で使用する工場工房への視察が可能らしいし、何時か見学と洒落込むか)

 もう一つは里島さとしま工房。こちらは小さな街工房といったところで、細々と魔導銃の製造、販売を行っている工房。主な取引先は冒険者となっている。工房長はオヒシバ=里島さとしま

(男の名前だが…、偽名か別人を工房長として立てていると見て許可を出しておこう。ハトムギから確認が取れたら見学に行ってもいいが、街工房に行くのは相手の負担が大きすぎるか)

 王弟の視察となればそれ相応の準備が必要となるわけで、場所によっては対応しきれないこともある。行くのであれば変身した方が良いと結論付けて、二通の許可申請書に署名をした。

「扠、書類の確認も終わったことだし。……ないか」

 気晴らしに違法魔導具の解体封印でもしようと、いつも荷物が置かれている場所へと向かうもそれらしいものはなく、何をするかと考える。

(そういやクリサが魔導鎧とか言ってたっけ。面白そうだし俺も一枚噛みたいから、簡単に勉強しとくか)

 保管庫へ足を運び、それらしき書物があれば手にとってモミジは大人しく自室へと戻っていった。


―――


 周一二節しゅうじゅうにせつが終わりを迎える三秋節さんしゅうせつの暮れにミモザの誕生祭が行われ、周一二節の始めたる一冬節いっとうせつの始まりにモミジの誕生祭が開催される。およそ丸々一歳差の叔父と甥だが、生まれた年は一緒なので学園に通う際は同学年になるとか。

 年末年始の誕生祭、そして年が変わる際に行われる廻節際りんせつさいにと、陽前国は多忙な時期を迎えていた。

「誕生日おめでとう、ミモザ」

「ありがとうございます、モミジ叔父様!」

「体調はどうだ?元気しているか?」

「モミジ叔父様から貰った佩玉のおかげで力が溢れてきます。えへへ、数日前には姉様の付き添いで、適性検査もしたのです」

「おぉ!魔導具も問題なく使えるか!結果はどうだった?」

「生成が上の下、操作が中の上でした!魔力も多いので優秀な魔法師になれると!」

「それは良かった、今からミモザの成長楽しみだよ。截粒せつりゅうは手放さないようにな」

「はい!絶対に無くしません」

「宜しい。くくっ、ミモザも七つ、一年の短い間では有るが、こうして同い年になれる期間は俺としても嬉しいぞ。毎年、この喜びを俺に運んでくれ」

「はいっ!」

 元気の溢れるミモザは胸を張り、その姿を微笑ましく思うモミジは彼の頭を撫でては、挨拶の邪魔にならないよう撤退をする。「また後で」と伝えて。

 三人の王子王女の誕生祭に行われる社交の会は、同年代の子息令嬢との顔見せや縁作りが主となっており、ミモザの周りには学園で同学年となる子供たちを連れた有力者が列をなしている。

 そんな中、同学年となるモミジの許へも様々な者が寄ってくるのだが、これらは半らに相手をしてミモザの許へ行くようにと促す。

「モミジって結構塩対応よね、傍から見てると」

「だな。友達作りとかしないのか?」

「サクラとザクロか。主役を差し置いて脇役に挨拶へ来る不届者なんて、アレくらいでいいんだよ」

「ふぅん」

「それに、今来てた奴らは三恋家に連なる面々、変に交友を結んで担ぎ上げられても困る。俺は兄貴の、お前たちの味方であり続けたいんだ」

まつりごとなんて興味ない風を装っているのに随分と詳しいな」

「興味なんてない、ただ守る為の術さ。色々とな」

 無気力に興味なさ気に見える瞳には確かな強さが見えて、ザクロは信頼の色を露わにした。

「頼りにしてるぜ、モミジの叔父貴!」

「都合のいい奴。然しまあミモザは随分と元気になった、見違えるようだ」

「モミジが贈った佩玉はいぎょくの影響だろ?」

「そうなんだが、向上著しいというか。傾魔でなければ、ああいった元気な性質だったのかと感慨深くてな」

「激しい運動は控えるように言われているけど、私とちょっと遊ぶくらいなら問題なくなってきててね。本当に楽しそうなんだから」

「良かったよ、本当に」

 胸を撫で下ろしていればミモザと目が合い、モミジが手を振れば笑みを露わにする。

「なあモミジ、ミモザは優秀な魔法師になれるって魔導局の奴らがおべっか言ってたんだが、…嘘ではないのか?」

「截粒を身に着けているか、身体と魔力の器が成長し御せるようになれば問題ない。身長も伸びていることだし、後者と見るのが良さそうかな」

「そうか。ミモザは苦しい思いをしてきたから、外野がおべっか言って落ち込む姿は見たくなかったんだ。モミジが大丈夫だって言うなら問題ないな!」

「うんうん」

(歴史をさらえば截粒を着用し名の知れた魔法師が二人だけいる。素養は高いが幼少期を超えられず、下手に魔法や魔導具を使うと暴走して死に至る、それが傾魔症けいましょう。対策さえ有れば優秀な魔力量と適性を手にできるんだ、優秀な魔法師になれるだろうな)

 三人で呑気していればミモザが挨拶をさばき終えたようで、彼方此方に客人たちが散っていく。ザクロやサクラ、モミジへも挨拶回りがやってくる頃合い。

「忘れるところだった。ちと早いが新年の祝だ、受け取っとけ」

 モミジは二人に佩玉を手渡してから、そそくさと逃げ去っていく。

「あれ絶対照れてるぞ」

「うん。私たちの顔も見ずに逃げてったんだから」

 手に収まった佩玉を二人は一度眺め、帯革へと括り付けミモザの誕生祭を過ごす。

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