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一二話 切歯扼腕 其之二

「これ、サクラ殿下が氷像を作っているのだろう?モミジ殿下は補助をしているのかな?」

「これは重力に作用する魔法を使っていてな、氷が落ちないようにし宙を泳がせんだ」

「成る程。目に見えない分、何をしているか分かり難いのが難点か」

「まあ俺は添え物、今回の特別園遊会はサクラが企画しサクラが主役の催しだ。俺が何をやってようがあまり関係ない」

 いつの間にか本来の姿に戻っていたモミジは、呑気に果実水を飲みながら煎餅を食んでいる。

「根源魔法の頂、軽々と重力さえも操ってしまう姿には驚かされたよ…」

「だろ。…まあ今回は大変だったがな」

 なんて軽口を叩きながら観進めていくと、重力操作と氷像操作で宙を優雅に舞う龍を目にしてアケビは大興奮である。

「いやあこれは凄いな!【封緘ふうかんしろがね】モミジ殿下が全面的に補助していたとはいえ、サクラ殿下の氷像を動かす手腕も中々!!いやはやいやはや!生で見たかった!」

「ムベの付き添いで来れたんじゃないのか?」

「申請はしたのだけど通らなくてね。やはり二年前にモミジ殿下が襲撃された事が、かなり尾を引いているのだと思うよ」

 残念そうにしながらも映像からは視線を離さず、食い入るように見つめているアケビ。

八弓はゆみの孫娘なのに?俺が…というのは直接の面識がないのは無理だったか」

「何気に私も断られているから、本当に厳重な警備の下で行いたかったみたいだよ」

「そんなにか。まあしょうがないっちゃしょうがないが」

「モミジ殿下とミモザ殿下の特別園遊会があるのなら、是非とも見に行きたいところだけど、予定はあるのかな?」

「どうだろうな。俺が開くことはないからミモザ次第になると思う」

「ナンデ!?」

「【封緘の銀】が実力者であることなんぞ、態々見せつけなくとも周知の事実だからな。サクラが開催したことだって結構異例なんだぞ。やる気に満ち溢れていることは喜ばしい限りではあるが。くくっ」

「そうなのか…」

「後は、…俺の立ち位置を明確化するためでもあった、兄貴の派閥であるとさ」

三恋みこい派閥、」

「そ。詳しいものだな」

「八弓だからね。モミジ殿下の息が掛かったクリサを掻っ攫おうと画策しているみたいで、八弓家が躍起になっていてさー」

「あはは…、熱いお誘いが色々とね…」

「大変なんだな、クリサも。……これで映像は終わりだ、置いてくから好きに観てくれ、姪っ子と甥っ子の晴れ舞台をな」

「いいのかい?」

「いいよ、俺は観たくなったら兄貴の所へ行けばいいだけだから。そいじゃ、研究所の魔法障壁を張って帰るとするかな」

「すまないね」

「俺から打診したことだぞ?有難く受け取っとけ」

 くつくつとモミジは笑い、失悔を取り出しては庭に出て、八弓研究所の三ケ所へ魔法陣を仕込み魔法障壁を展開した。

「手際がよくて助かるよ。広くはないけれどそこそこに面倒なんだ、魔法障壁の展開って」

「張り直しも来てやるから安心しろ。なにか不都合があって、魔方陣に異常が出た時もな。連絡に関してはクリサが分かっているだろう?」

「問題ないよ」

「そいじゃまたな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「なんだ?」

「実はね」「完成したんだよ!」

 ひょいっと投げられた箱を受け取れば、中には腕輪らしきものと魔晶が収まっている。

強化外骨格型きょうかがいこっかく生成魔導鎧せいせいまどうよろい龍装騎兵ドラゴニックドラグーン其始式マーク・プリミティブ。しっかりと魔導局の認可を受けた、私たちが研究する魔導鎧の最新型だ」

「ほほう!どらごにっくどらぐーんまーくぷりみてぶ、というのはクリサの趣味だな?」

「軍や警察向けのはしっかりと天龍島の言葉で命名してるんだけどね。ちょっと趣味に走って海外言葉を使いたくなったんだ」

「全然良いぞ。俺は嫌いじゃないからな」

「それは良かった」

「腕に装着し魔晶を嵌め込み、『龍装騎兵其始式、造装顕現』と詠唱することで起動する。是非やってみてくれっ!」

「『龍装騎兵其始式、造装ぞうそう顕現けんげん!』」

 詠唱を終えると青年態のモミジを赤黒い鱗が覆っていき、全身鎧が完成した。

 手足指先尻尾と身体の何処を動かしても違和感はなく、いくらかの身体能力向上を感じさせられる。

「結構視界が優れているが、そちらからはどう見えるんだ?」

「安心して、一方通行な特殊鏡面処理加工が施されている。ほら鏡だ」

「おお、これは中々。見た目も格好良いな!」

 鏡に映った鎧を見ては、格好良い構えを取る姿を見て、クリサは驚きの表情を露わにした。

(まるで前世で見た特撮作品とか、海外映画の主人公みたいな構え…。子供って誰しもこういう風なことするのかな?この世界にはそういう文化が未発達な筈…)

 とはいえ質問のしようがない為、クリサは考えを明後日に投げ飛ばし、喜ぶモミジの姿に微笑みを送る。

「どの姿でも対応できるように、身体に合わせた生成を行う陣を仕込んであるから、危ないと感じた時は急ぎ発動してね」

「あいよ」

 龍装騎兵を解除すれば、鱗鎧の鱗が花弁のように舞い降りていく。

「ありがとな、二人とも」

「「どういたしまして」」

 腕輪を銅脈者扉どうみゃくもんぴに蔵ったモミジは小翼竜へ姿を変えて大空へと飛び去り、二人は研究所に戻ってお茶をすする。

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