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一三話 優美な女の子。 其之三

「クラバ、これ使って」

 ハトムギに呼び出され不寝飲屋の休憩室へと足を踏み入れると、彼女の所有する工房で製作された魔導銃が置かれていた。

「随分と重装備な」

「手首のそれ、魔導鎧でしょ?なら使えるはずだから」

蓮根れんこん弾倉の、大口霰弾銃さんだんじゅう?それに対如何物いかもの用狙撃銃?…どっちも扱うには不便極まりない代物だし、認可を取ってあるのか?」

「煩いから取った。四発装填蓮根式霰弾銃『遊蛍あそびほたる』、発射後に即魔力弾が一七片に分裂後、相手を貫く。想定射程は五五間100メートル以内で、集弾性能は五五間先で半径一尺七寸50センチ二〇間36メートル以内であれば、並の魔法障壁は軒並み貫通できる」

「魔晶弾は?」

里島工房ウチの特製品。認可取得済み。とある殿下のお陰ですんなりと通った」

 木箱から魔晶弾を取り出し、仙眼鏡で魔法陣を検めていくと多くの擬式が盛り込まれており、一見では解読できない作りとなっている。…はずだったのだが。

「変な所に制御陣を仕込んであるな。認可取得時には公開していない使用方法が用意されているだろう?」

「なんのこと?」

「摘発するぞ」

「制御陣の締付次第で集散範囲を調整できるようにした。今のところ実戦運用できる用法ではないけど、今後の新しい技術」

「別に隠すほどじゃないだろ…。普通に新技術で認可取っとけ」

「他所が先に完成させたらつまらないから」

「…まあいいや。んでこっちの狙撃銃は?」

「これは狙撃銃じゃない。携行式魔晶砲ましょうほう重甲おもりかぶと』」

「魔晶砲ってと、…魔晶弾をすっ飛ばして着弾時に起爆する、魔導銃との技術闘争で負けたやつか」

「そう。認可を取るの大変だった」

「そりゃ規格が無いからな」

「これは着弾と同時に直径一尺30センチの魔力爆発を起こす。想定射程は八二間150メートル迄で、軌道が放物線を描くから上手く計算して撃って。細かな数値はこの資料に纏めてあるから」

 ハトムギは机の上に紙束を置き、一仕事終えた風な表情を露わにする。

「こっちになにか仕込みは?」

「ない。未熟な技術だから魔方陣の構成にも苦労してるくらいだから。何か思いついたら教えて」

「まあいいが…。俺は別に戦争しに行くわけじゃあないんだぞ?」

「そうも言ってられない。…鳩の沽券に関わる問題だし、先代がヤナギへの対価として情報を渡す約束をしていたから、色々調べていたんだけど。富裕層の邸宅区画、それも樋五屋敷を中心として街中に多く設置されている吹螺貝が機能をしていなかった」

「故障なら気が付きそうな場所だが」

「違う。魔方陣に細工がされて動いているように偽装されているし、あそこの点検はやや甘い。何処かが別の区画へ回すように手を回している」

「……、オオゼリ市で吹螺貝が機能しなくなり、如何物が群れを成す事件があった。他の、断層大断層のある各市で同様の事件が起きているかもしれん」

「調べる」

「報酬は?」

「通常料金でいい。その魔導銃の使用感なんかを教えてくれるなら、値引いてもいいよ」

「取り敢えずで通常料金と、今の情報に対する金子を渡しとく」

「毎度あり」

 金子を受け取るとハトムギは部屋を飛び出して、本日の仕事を終えるとだけタガヤへ伝えて店を出ていった。彼女の役割は特定の客への情報提供、それと気怠気な給仕、いなければいないで問題ないとのこと。

(予定を早めさせた方が良いか。…そうなるといざという時の連係が損なわれる気がするんだが、陽前軍なら対応してくれるか?…。)

 先程まで過剰と思っていた魔導銃二挺が、途端に心強く思えるのだから現金なものである。銅脈者扉に蔵い込んでいけば    屋敷の魔法障壁があると予想され地点が記されており、数日前に偵察した際に警備がいた位置と同じである。

 『不審な警備がいる』、そう書き記されているのだから同じ見解なのだ。


「ども。俺がモエギ=翠で、後ろの二人が護衛のオオシロヤナギとシャクナゲ、とある筋から協力を頼まれたんで、足を運んだ次第です」

 金髪で色眼鏡を掛けた軽薄そうな男、そうモミジは軍人の集う会合の場で軽く挨拶をした。その中で一人、目をまん丸に剥き驚いていたのはヒイラギ下級尉官。

 「おひさ」と手を振れば、どっと疲れた表情で一礼をした。

(この人は…。…魔法の解体や要所の魔法障壁の展開等、軍務局は様々お力を借りていますが、直接出てきますか…)

 ヒイラギは二年前にモミジが断層から脱出する手助けをし、それを功績に出世。本人の真面目ながらも面倒見が悪くない性格も相まって、部下からの信頼が厚い出世株だ。

 彼と面識があり、礼を返す相手であればモエギ=翠という聞き覚えのない魔法師も、ある程度信用できるだろうと迎え入れられる。

「お久しぶりです翠さん。成る程、貴方が協力者というのであれば、これ以上心強いことはありません。が、出張るほどの対象があるのですね」

「まあな。それに確保なんかもほら、得意だし?」

「あー、でしょうね。分かりました。それでは情報のすり合わせと行きましょうか」

 ハトムギが現地で見て言葉を束ね、イヌマキが集めた数字と文字の証拠を元に練られた情報の数々、陽前軍とモミジ…いやモエギ一行に開示されていく。

 スモモどころか樋五家単位で関与が認められており、既に身柄引き渡し要求が陽前軍から行われる。然しながらそれに応えることはなく、門扉を締め非対応を決め込み今回の強制捕縛が執行される。

「樋五家の関与する集団『地下楼の水蛇』は、異端宗教団体として認定され討伐対象となる。今回の作戦においては、樋五家両夫婦と御子息御令嬢除く、水蛇へ関与が認められた者の殺傷行為は許可され、場合によっては許可が継続されます」

「俺達も?」

「御三方は今回のみの適応となります」

「領解」

「作戦の決行は明後日の早朝、モ、エギ=翠さんが魔法障壁を解体、若しくはこちらで破壊した後に突入を行い、容疑者の確保と屋敷の制圧後、証拠物品の回収を行います。……、こちらの資料にある通り強固な警備と、格級の高い魔法障壁が施されていますが、…対処は可能でしょうかね?」

「単独での行動許可が貰えれば可能だ。…一応のこと魔法障壁を破壊できるだけの用意が有れば、尚の事良いと言えるが」

「単独行動、ですか。お勧めはしたくないのですが、翠さんの実力を考えれば…。ですが…」

(分かります…、クラバを単独で行動させたくないですよね)

「護衛の方々はどう思いますか?」

「本人が単独で行くというのであれば止める理由はありません。本位ではありませんが」

「当方はモエギ殿に従うのみ」

 「どうだ?」と言わんばかりの視線をヒイラギは受け、肩を竦めて溜息を吐き出す。

「分かりました、魔法障壁の解除は翠さんに委任します。…元々そういう心算で送り込まれているのですから」

「請け負った。こちらは魔法師を兼ねる剣士が三人、基本は前衛だがどう動く?」

「そうですね――」

 ヒイラギ隊と戦力と動き方を話し合い、当日に万全に動けるよう理解を深める。

「最後に、警戒すべき点なのですが。樋五家を中心に吹螺貝に細工が施され機能していません。こちらで手を回し直してしまいたかったのですが、方々の断層大断層を有する地域で水蛇と思しき者らの手で破壊され、復旧へ割けるだけの人員が足りず…。大掛かりな対如何物戦闘も予想されますので、皆さん気を引き締めて挑みましょう」

「頼りにしてるぜ、軍人さん」

「こちらも頼りにしています、翠魔法師ッ!」

 綺麗な姿勢で敬礼した軍人へ視線を向け、敬礼を真似したモミジは少年然とした笑顔をしていた。

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