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一三話 優美な女の子。 其之四

「ねえモミジ!明後日にちょっと出かけない?公務じゃなくてただの遊びで」

「明後日…。もう予定は立てているのか?」

「ううん、さっき思いついたの」

 砂糖楓宮に勉強という名目で遊びに来ているサクラは、眩く期待の籠もった笑顔をモミジへ向けて返答を待つ。

「日程を二日三日遅らせることは出来るか?明後日は俺が不在だし、そっちの離宮に籠もっていてほしいんだ」

「……訳あり?」

「ちと」

 目を瞬かせたサクラは真面目な表情でモミジの返答に肯いた。

「シズカ、日程の調整をお願い」

「畏まりました」

(…陛下から連絡を頂いていないということを考慮すると、モミジ殿下の独断か…こちらに明かせないほどの内容)

 シズカがモミジに視線を送ると目を伏せられ、後者だと悟って気が重くなる。

(ご婚約もですが、自身を利用しすぎなのです…。もう少し甘えることを覚えなければ、破滅してしまいますよ。……。)

「サクラ様」

「なあにシズカ?」

(モミジ殿下は大役を担い苦労成されております。…如何でしょう、婚約者のサクラ様がモミジ殿下を癒やして差し上げては)

(具体的には?)

(お勉強やお仕事をせず窓際の長椅子でゆっくりと歓談をするのは如何でしょう?私がお菓子を用意してまいりますので)

(分かったわっ。ふふん、年上の私が先導しないとね)

 怪訝な視線を受けながらも、気にした風がないサクラは胸を張り口を開いてから言葉を考える。

「モミジ」

「なんだ?」

「……………。」

「??」

「あっち、あっちの長椅子でおしゃべりしたいなぁーって。ねえシズカ?」

「あっはい。休憩が必要ですからね」

「そう!休憩!怠けるわけじゃなくて休憩の為におしゃべりをしたいの!」

「最近はしっかり勉強しているから、怠惰を指摘なんかしないさ。…俺も手を休めてサクラに付き合うかな」

「私は食堂からお菓子を持ってまいります故、サクラ様の事をお願いしますね」

「ああ」

 そそくさと去っていったシズカから視線を離し、サクラへと向き直れば髪を揺らしながらモミジの近くまで走り寄り、神妙な面持ちで手が差し出されていた。

「お手を有難う、私の婚約者さん」

「どういたしまして!」

 手を繋いだ二人はゆったりとした歩みで長椅子へ向かい腰を下ろしてから、春を待つ寒々した庭を眺める。手入れはされているものの、簡単な魔法や魔道具の実験を行う為、花壇などは少なく、冬場の花も植えられていない寂し気な庭を。

(手は握っといてやるか)

(ふふっ、手を握りっぱなしなんて、やっぱモミジも甘えたいのね。…私もこうしてたいし、いいかな)

「砂糖楓宮の庭って寂しくない?」

「俺が色々と遊ぶからな、魔法とかで。庭というよりはちょっとした運動場だ」

「そうなんだ。…でも、あの玉菜たまなみたいな花だけなのはどうなの?」

葉牡丹はぼたんのことか?結構気に入ってて、王城付きの庭師に態々植えてもらってるんだが…。寒い冬の時期にも白や紫の葉を見せてくれてて、春まで頑張ろうと思えるんだ。それに新年の祝に飾られる縁起の良い植物だしな」

「…意外、モミジってお花に詳しいんだ」

「別に詳しかないさ。庭に植えてあるのだけ教えてもらっただけ。…サクラの好きな花は」

「当ててみてよ」

桜草さくらそうとか?」

「意地悪なんだー、知ってるくせに」

 口を尖らせて外方を向くサクラを見て、モミジは笑いを零していた。

里桜さとざくらだろ。沢山の花が団子になって可愛いって言ってたもんな」

「やっぱ知ってた」

「待ち遠しいよ、暖かい春が」

「うん。その頃には私達の婚約も発表されてると思うし、忙しくなりそうねっ」

「毎年、目に焼き付けないと。今までもこれからも」

(人生なんてのはあっという間なんだから)

 少し背伸びをしたモミジが、自身の角をサクラの角にコツンと当てれば、恥ずかしそうな表情を見せながら角を当て返す。

「……。言わないのは不公平だと思うから伝えておく」

「なにを?」

「俺はサクラとの婚約を、兄貴の政として受けた。都合が良いと」

「ッ!」

「だがな、」

 握っている手を持ち上げ口元へ寄せたモミジは、サクラの手の甲へそっと口吻をしてから真面目な表情で見上げ。

「サクラと共に幸せになりたいというのは本心だし、サクラの事が好きだ。…叔父として姪に向ける感情も多くあるが、サクラからの告白を受けた時から、女の子として徐々に意識させられている…調子の良いことにな。……これからの人生、俺の隣にいてくれ」

「うんっ!!私もね、モミジのことがずっと、す…、好きだったし、これからもずっと好き!絶対に離さないし、意地でも隣に立ってやるんだから!」

 銅脈者扉どうみゃくもんぴから桔梗ききょうの花を思わせる飾りを着けた角飾りを取り出し、サクラの角へ付ければ、溢れて決壊しかねないほどの喜びを表情を露わにモミジへと抱きついた。

「嬉しいわっ!」

「そいつは良かった」

「これって桔梗でしょ、意味は知ってるの?」

「さあな。気分で選んだから知らん」

 わかりやすく知らんぷりするモミジが可愛らしく、サクラは更に強く抱きつくのであった。

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