(後ろにいんのは
モミジは目に見えず、非常に脆い魔法障壁を無数に展開し、砕かれることで警報とする運用を行っていた。狭い屋内、急な奇襲に備える為の魔法なのだが、随分な大物が釣れてしまったようで。
「とりあえず、『
全身を魔導鎧で覆ったモミジは杖を
(消えた。詠唱も無しに完全透明になれる魔法なんぞ聞いたこともないから、魔導具か先史理外遺産。ならば)
「『仙眼鏡』」
クリサが発明した多機能仙眼鏡強化魔導具を用いて、相手の名前と魔力を露わにする。
魔力だけでは大まかな位置しかわからず、魔力の宿っていない刀は視認不可。然し、先の奇襲で打刀であると情報を拾っていたので、
「『
魔力爆発を鞘の内で引き起こし、勢いを付与した抜刀剣術は、本来であれば相手の脇腹から入り柔らかな臓腑を抜け、温かな血飛沫を放っているはずだったのだが、相手の刃を受け止めるだけに留めていた。
「受け止めるか、アズマザサ=
「なっ!?私のこと、ぐあっ!?」
本名を呼ばれた事で驚いたアズマザサは、モミジからの蹴りを受けて床を転がる。
「健李家の御子息が碌でもない宗教団体に入っているとは、驚きだよ。…まあ
「何者ですか、って!?そちらから話し掛けておいて、こちらが話そうとしている最中に攻撃しないでください!」
「煩ぇ」
「ちょっ!?」
容赦なく剣撃を繰り出し、距離を置かれれば魔導銃を取り出し遠慮なく引き金を引く。
「戦作法がない人ですね!」
息を吐き出すと同時姿を消し、後ろへ回り込んだアズマザサだが、軽々と攻撃は回避され顔面を殴られる。
「戦なんぞ七〇〇年一度もなかったろ、作法なんてあってたまるか。…奇襲が成功しなかったら案外弱いもんだな」
「弱い、?この私が?……、こんな物を使っているからいけないんです」
透明化するための道具なのだろう。アズマザサは首飾りを外すと衣嚢に放り込み、剣先を僅かに下げた構えを行う。
「いいのか?姑息に隠れて不意打ちしないと勝てないから、ちゃんちゃら
「異端流派の分際で!!」
剣先を高く掲げる構えと力強い踏み込み、男爵流派にして隙を晒しすぎている太刀筋へ、モミジは魔導銃をぶっ放した。
振り下ろしで魔力弾を切り落とし、次の踏み込みと同時に刃を返した斬り上げ。剣の位置がアズマザサの右手側に流されている事を考えると
(シャクナゲ程ではないが、こいつには勢いがある。こういった勢いってのは、)
「自分の流れを作ってきて面倒なんだ」
魔導銃を蔵い、刀を鞘に納めたモミジが抜刀剣術の構えを取るも、アズマザサはお構い無しに突撃し、刃を振るうと刀身が透明になって消え去った。
(成る程、中々の食わせ物。打刀の刀身は大体
最低限の動作で避けきれるだけの距離を下がるも、顎先の魔導鎧が切り裂かれ魔力となって消える。
刀が振り上げられれば胴への防御がガラ空きになるわけで、モミジは至近距離まで踏み込み鐓でアズマザサの
「ぐはっ!?」
大きく身体が逸れて二歩三歩下がると、モミジはアズマザサの胴へ手を付けて口を開く。
「『汎ゆるを閉ざせ、―――」
封印処理を施そうと試みた瞬間、右側面に展開されていた感知用の障壁が砕かれ、対処しようと視線を向けるも何もなく、透明な何かに頭を強く殴られ吹き飛ばされ、使用人服を纏った女が姿を現す。
「大丈夫ですか坊ちゃま?!」
「余計な、お世話です…」
「はぁ…、さっさと持ち場の処理が出来て良かったです。現在此処にいる相手は守護連隊の精鋭、他は崩れ始めているので、止めを刺してから撤退しましょう」
崩れて覆いかぶさっていた家具を除けて出てきたのは、少年態のモミジで身体がふらつき力が入らないために転倒する。
「めんどうなのが、ふえたな…」
(魔法陣に集中出来ない、これは拙い…、)
「少、年?」
「あ?」
モミジは自身の手の大きさを確かめてから、変身が解けていることを悟り、急ぎ仮面で顔を覆う。
「だから、なんだよ。みずへびは…ろうじんでも、ガキでも、イカモノにくわせてたろ…。……はぁ、いまさらコロせないってか?」
「なにを、言って」
「あ?みずへびはイカモノのはんしょくに、ひとをくわせてるだろ。……ガキのシタイもあった、すっとぼけるなよ!!」
「聞いてはいけません坊ちゃま。アレは我々の崇高なる世界を崩さんとする悪しき言葉、処理を終えて撤退いたしましょう」
「はぁん?自分たちの組織の活動も知らないとは、くくっ捨て駒か。哀れだな」
(時間は稼げた。杖なしの無詠唱は無理だが、)
「煩いですよ!!」
一歩踏み出した女の動きに合わせ、モミジは透籠を用いて彼らの真後ろへと瞬間移動すると。
「相手も透明化を!?でもあの様子では!!」
勢いよく手に持った槌を振り下ろし、モミジのいた場所を粉砕するのだが手応えはない。移動したと思しき場所へと槌を振り回す女だが、視線がアズマザサの後ろへ向いた瞬間に、杖を構えたモミジがいて。
「『汎ゆるを閉ざせ、封臥印』」
アズマザサを封印してみせた。
「人質は取れた。俺が一言、魔法名を詠唱すれば、アズマザサ=建李を肉塊に変えることも出来るが、どうする?」
「下衆が!!」
「どっちが下衆だよ、異端宗教団体の狂信者さんよ」
「異端!?我々が!?」
「…、いや当たり前だろうに…。今までしてきたことを考えれば、異端も異端の大悪党だって」
「これだから、何も知らぬガキは…!我々は大崩壊で滅びず、生き残ってしまった全ての龍人を天冥に送り、正しき世界を取り戻す為、行動しているのですよ!」
「それで老若男女を如何物の餌にしていると?…ならば、アズマザサ=建李が今此処で肉塊になっても問題ないということだな。『宝包」
「待て!!」
「あん?」
「その方には水蛇での役割があり、死なれては困るのです」
「そりゃ叶わねえよ。此処で肉塊になるか、拘束されて裁判に掛けられるかの二択なんだからな」
(よし、無詠唱も行ける。こいつを人質に取ったのは正解だったな。『聖園』で包んで銅脈者扉に放り込めば生き物でも大丈夫、その後にあの女を潰せば問題ないな)
杖を蔵い姿を金髪色眼鏡に変え、相手の意表を突いたモミジであるが、窓の外に見えた巨人に驚き、女も釣られて視線を移しては眉を曇らせる。
「あんの馬鹿男、」
「如何物かっ?!」
(ですが、利用できますね)
女は手に持っていた槌を窓に、巨人へ向かって投げれば見事命中。
角の一部を圧し折っては怒り狂い、視線をモミジたちのいる部屋へと拳を捩じ込まれ、アズマザサを庇いながら障壁を展開すると。
「坊ちゃまは回収させていただきます。…それではお気をつけて死んでくださいませ」
女はモミジへ危害を加えることなく一礼し、透明になって消え去った。
「クッソ!何なんだよ!まったく!」
拳を引き抜いた穴から外へ出て、体長
「クラバ!?」
「ヤナギか!なんだコイツは!?」
「わかりませんが、氷の魔法で凍結させ拘束した相手が途端に大きくっ、なり!暴れ回っているのです」
「凍結弾は?」
「駄目です、大きすぎますね」
「次から次へと面倒な…。ヤナギ、今後の為にもコイツは生かして確保したい、協力してくれるか?」
「お任せを」
「ならとりあえず、手足を落として動けなくするぞ!」
「はいっ!…ただ、これ再生能力もあるっぽくて、どうしましょ、っと!あっぶな」
振り下ろされた拳を寸前で躱し、短刀で斬りつけるも血を幾らか吹き出すばかりで、傷口は塞がってしまった。
「厄介な…」
拘束すると言ってしまった以上、撤回するのも罰が悪いと蓮根弾倉式霰弾銃『