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一四話 『水蛇事件』 其之五

「そろそろ陽前軍と合流しないとな。内部はどうなってる?」

「軍人たちは精鋭みたく、中々善戦しておる。時間も掛からず制圧を追えるだろう」

「ふむ。とりあえず動くとするか」

「話し合いは終わりましたか?愚弟」

「はぁ…直々に出てくるとは探す手間が省けたぜ、愚姉」

 声の方、屋敷の一角へ視線を向けると、蛇の仮面を着けた男女が三人を見下ろしており、龍の仮面を着けたモミジが見上げる。

「まさか、貴方自身が変装をして彼是動いているとは、私の想像力も地に落ちたものです。少し考えれば優れた根源の才を持つ者など、二人三人と用意できるはずがありませんから。どういう道具を用いているのです?」

「教えると思うか?想像力尽きてるだろ」

「腹違いとはいえ、姉にそんな口を聞いてはいけませんよ、義弟くん」

「テメエは黙ってろ、義弟になった覚えはねえ」

「振られてしまいましたね…」

「…、こんな事をしてなけりゃ、義兄と呼んでも良かったが。水蛇に関与した時点で決裂してんだ」

 樋五つちのご夫妻のスモモとキンカンは二人して肩を竦めて首を振る。

「関与した、というのは間違いです。ふふっ、私とキンカンの二人で創り上げたのですから」

「そうか。そうかよ。チッ。俺の甥っ子と姪っ子は何処にいる?」

「リンゴとクルミの事ですか」

「二人には先に天冥へ昇ってもらいましたよ。事を起こしてしまえば、子どもたちには苦しい生活を強いなければいけませんから」

「――――」

 絶句、である。

「二人は貴方に懐いている節がありましたから、園遊会にも行きたがってしましてね。残念な限りでした」

「君の何が良いのか、理解に苦しみますがね」

「ええ、本当。ただの化け物ですのに」

「ああ。安心していいですよ。しっかりと銀の鳥を用いて、苦しむことがないよう天冥へ送りました。何れ貴方とも会うことになりましょう」

 善行を語るかのように口を開閉させる二人を見たモミジは、額に手を置き首を振るのみ。理解が出来なかった。

「クラバ…聞くに堪えません。討伐の許可を」

「いいや。目的は拘束だ、そこは変えん。洗いざらい全て吐き出してもらわねば困るからな」

「…承知しました、承知…しました」

「強者がおればいいが」

 三人は得物を構え、樋五夫妻の拘束へ乗り出す。

「それじゃあスモモ、後のことは任せますよ。私は此処で役目を果たしますので」

「ええ、お願いします、あなた」

 スモモが真っ白な、骨材で出来たような杖を振るうと断層の入口が出来上がり、内部に侵入すると同時に入口が消え去る。

 そしてキンカンは鳥の魔導具を首に刺し、その肉体を変容させていく。

(わけのわからんもんを彼是と。二年の潜伏で力を蓄えさせてしまったか、クソッ!………、すまないリンゴ、クルミ)

 変容が終わる前にモミジが斬りつけるも、鱗で覆われた片腕で刃を防がれてしまい、顔を顰める。

「準備の最中に殴り掛かるとは、風情がありませんね」

「煩え。黙れ」

「ふむ、硬いのう」

「そして珍妙。悪徒が龍に変容するとは、気に喰いません、ねッ!」

 三対一で攻め込むも、キンカンの全身には鱗が生え揃っていき、顔も龍のそれになってしまい。

「討ち取られる前に仕事は終えないといけませんね。こほんっ、……ヴォォォォォオオオオオオオオ!!!」

「うわっ!うるせえ!!ああ!?!如何物!?」

 耳をつんざ咆哮ほうこうに耳を塞げば、大地が揺れ如何物が地面を突き破り現れてくる。

「さあ断層より現れし如何物たちよ、星のいとぐちきこの世界を元の姿へ戻すのです」

「星の緒、」

「おや、知っているのですか?」

「知らねえよ、如何物擬いかものもどき

 三人で何度も斬りつければ、鱗の一部が罅割れキンカンは口端を持ち上げた。

「さあ私を天冥に送ってくれ、三人とも。私は真なる楽土を踏みたいのです」

(反撃をしてこないのは、そういうことであったか。当方も天冥に帰りたいという願望はあるが、…つまらぬ男よ。クラバ殿の目的通り、拘束に勤めるとしようか)

亡名流むめいりゅう抜刀剣術ばっとうけんじゅつのならい四散五鉄しさんごてつ』、九刑大辟きゅうけいたいへき

「なっシャクナゲ!?」

 抜刀剣術を模倣するシャクナゲに驚いたモミジだが、そこから繰り出されたる光さえ斬り裂く一撃に目を白黒させた。

 剣先に反射する陽光は斬り裂かれ一線の影を作り出し、キンカンの両足を切断する。

「呵々。ヤナギ、氷を。クラバ殿は封印の準備を」

「は、はいっ!」

 即座に刀を鞘へ戻しては同じ技を再度行っては、片腕を斬り落とすとヤナギは傷口を凍結させて、モミジが封印魔法でキンカンの動きを封じた。

「…、てっきり、殺されるものかと、思っていた…のですが」

「デカい情報源だ、殺してたまるかよ。死ぬより痛い目に合いやがれ」

「はぁ…、甘いですね。ぐふぁ!」

 キンカンの体内から無数の刃が現れて、彼自身を串刺しにしてしまった。

「……、せいぜい、がんばってください、わたしたちは、あなたのてんてきですよ」

塵芥ごみかすが…」

 悪態がてら死体斬りでもしようかと思ったモミジだが、顔をしかめてから遺骸を銅脈者扉どうみゃくもんぴしまい、周囲の如何物処理へと動き出す。

「…。…次の仕事だ」

「休憩をしたいのですが…、厳しいようですね」

「外にも如何物共が出回っておるぞ?」

「ヒイラギと合流して意見を仰ぐ、行くぞ!」

「はいっ!」「おうよ!」

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